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三章 破滅のタルタロス
ファレスとフォレス
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「まず、ファレスお嬢様とフォレスお嬢様はれっきとしたラクザを治める三代目ラクザの領主様のお子供であります。ファレスお嬢様とフォレスお嬢様が双子で産まれ……その時の喜びようは忘れもしません。皆が可愛いと喜び、双子で仲の良いお嬢様はすくすくと育っていく……。しかし、そこに壁があったのです」
月夜の風がやけに涼しい。明るい月明かりの下で、シアが問いかける。
「壁……?」
「はい。これこそ、ファレスお嬢様とフォレスお嬢様が信頼出来るお方に知って欲しかった理由でございましょう。……御二方は、特異能力についてはご存知ですかな?」
勿論、知っている。自分も持っているし、シアも持っていると言っていた。
「はい。持っています」
「同じく、持っています」
「なるほど。では早い話が、その問題は特異能力……『精神交換』にあったのでございます」
そこまで言うと、少し涙ぐむフレッドさん。そこまで辛いような事があったのだろうか。
「お嬢様は双子、その精神交換が二人に宿ったまでは良かったのです。……しかし、それが暴走を呼びました。特異能力は暴走します。精神交換でお嬢様の意識、身体。お二方そのものが身体という器以外、そっくり入れ替わってしまうのです」
「……!」
シアが驚く中、自分も驚いて考える。
(そっくりそのまま入れ替わる……暴走……つまり、知ってほしかったというのは……)
「……ファレスとフォレスは、意識が入れ替わる。いや、入れ替わってしまう。それを誰か信頼をおける人に話しておきたかった。突然入れ替わって、ファレスとフォレス、お互いのフリをしなくても済むように」
「レテ殿、その通りでございます。今は安定しておりますが、特異能力とはふとした時に発動してしまうもの。その時に演じるのは大変でございましょう。特にお嬢様の戦闘は二人で一人、そんな時に入れ替わりなどしたら……」
「……なるほど、合点がいきました」
ファレスと戦った時。フォレスが後衛にいたのは理解出来たが、ファレスはどう考えても武術学院向けの付与系統と身体捌きをしていた。しかし魔術学院に入った。
「ほう、合点……ですかな?」
「はい。二人と戦った時、ファレスは先制攻撃として魔法ではなく近接戦を仕掛けてきました。それは後ろのフォレスを援護する役割だけでなく、元々そちら……武術の方が得意だったから。彼女達と戦った時、自分はファレスと近接戦しかしませんでした。不思議ではあったんです。武術学院向きの彼女がどうして魔術学院に居たのか……。それは双子である以上に、『距離が離れた状態で特異能力の暴走が発動することを恐れた』から……違いますか?」
パチパチパチ、と拍手が聞こえる。フレッドさんがにこやかな笑みを浮かべてこちらを見ている。
「その通りでございます。元々ファレスお嬢様は武術学院向きでありました。しかし、武術学院と魔術学院……その間で入れ替わってしまえば分からない空間で、分からない人を演じざるを得ません。そこでファレスお嬢様は努力して魔術学院に入りました。元々魔力量は二人とも高く、後はどのような身の振り方をするかだけ……フォレスお嬢様も、ファレスお嬢様が分からない部分を懸命に教える様子が見られました」
(もしかしたら、自分が知らないうちにも入れ替わっていたのかもしれないな)
そう思いつつ、フレッドさんから話を聞き続ける。外に雲は見られず、綺麗な満月がこちらを見ているようだ。
「後はたわいも無い、特異能力抜きの話でございます。……ファレスお嬢様はああ見えて、とても寂しがり屋のお方。故に明るく振る舞い、皆を先導しますが時にそれは寂しさを紛らわすため。どうか友人として、多くの関わりを持って寂しさを味わわせないようにしてほしくございます」
「はい!私も二人は大好きなので、これからもいっぱい関わろうと思います」
それのシアの言葉を聞いてありがたいとばかりにフレッドさんが礼をする。
「フォレスお嬢様は静かで、本を読んで……しかし、外の知識に触れることを何よりも楽しみにしていました。好奇心旺盛なお方であります。シア殿、そして何よりもレテ殿。貴方の技はフォレスお嬢様にとって求めるものとなるでしょう。教えられる範囲で構いません。もしフォレスお嬢様が知識を、知恵を求めたら教えてあげて欲しいのです」
「わかりました。自分も二人は良き友人です。こうやって招いてくれました。……それが長続きするように。それが叶うなら自分の知識を教えることなど安いものです」
再びフレッドさんが礼をする。そして、ニコリと笑ってこちらを見てそのままでいる。
「……フレッドさん?」
シアが不思議に思う中、自分はある可能性を思いついて周りに検知をかけ、理解する。
「……なるほどね。もう理解したから出てきていいよ、二人とも」
驚くシアに対し、バレてた?と言いながらファレスとフォレスが出てくる。
「えっ、え……いつから?」
混乱するシアと、笑顔のフレッドさん。それに悪戯成功とばかりの顔のファレスとフォレスに苦笑いの自分。
「……ほとんど最初から」
「おじいちゃんが話をしているのが分かって、こっそり来たんだよ!」
そう言って二人もベランダへとやってくる。少し狭くなったがまだ余裕がある。
「そう、精神交換はね。身体以外のほぼ全てが入れ替わっちゃうの。だから、信頼出来る人には知っておいて欲しかった」
「……演じるのが辛い。友達を騙すのが、辛いから」
「だから、フレッドさんと二人の信頼のおける人には話すように、だったんだね」
こくりと頷く二人はどこか吹っ切れた顔をして月を見上げる。
「綺麗だね。フォレス」
「……うん。綺麗。ファレス」
にこにことその様子を眺めていると、あ!とフォレスが思いついたように言う。
「二人とも眠れないんでしょ?二人同じ部屋で寝たら?」
「えっ」
暗に同衾しろと言われているのかと思って思わず驚く。
「……うん。二人とも元が同じ部屋だし、ベッドも広いから寝られるよ」
「そしたらレテ君の部屋に行こっかな?お香は無いけど……レテ君の傍って安心するからね!」
「えっ……あ、あぁ、シアがそれでいいなら自分はいいよ……?」
(シア、顔を赤くするな。やめてくれ)
恥ずかしがるシアを見て、ファレスとフォレスがははーんと閃いて何かを呟く。
すると、シアが違うよー!と否定し、二人が笑う。大方また好きなんだ、とかその辺の言葉を言ったのであろう。自分がからかいがいのない分シアに行ってる気がして申し訳ない。
「……御二方を、お嬢様をよろしくお願いします」
その合間にフレッドさんが頭を下げてきた。それにしっかりと頷くと、こちらもはっきりと言った。
「はい。頼まれました」
月夜の風がやけに涼しい。明るい月明かりの下で、シアが問いかける。
「壁……?」
「はい。これこそ、ファレスお嬢様とフォレスお嬢様が信頼出来るお方に知って欲しかった理由でございましょう。……御二方は、特異能力についてはご存知ですかな?」
勿論、知っている。自分も持っているし、シアも持っていると言っていた。
「はい。持っています」
「同じく、持っています」
「なるほど。では早い話が、その問題は特異能力……『精神交換』にあったのでございます」
そこまで言うと、少し涙ぐむフレッドさん。そこまで辛いような事があったのだろうか。
「お嬢様は双子、その精神交換が二人に宿ったまでは良かったのです。……しかし、それが暴走を呼びました。特異能力は暴走します。精神交換でお嬢様の意識、身体。お二方そのものが身体という器以外、そっくり入れ替わってしまうのです」
「……!」
シアが驚く中、自分も驚いて考える。
(そっくりそのまま入れ替わる……暴走……つまり、知ってほしかったというのは……)
「……ファレスとフォレスは、意識が入れ替わる。いや、入れ替わってしまう。それを誰か信頼をおける人に話しておきたかった。突然入れ替わって、ファレスとフォレス、お互いのフリをしなくても済むように」
「レテ殿、その通りでございます。今は安定しておりますが、特異能力とはふとした時に発動してしまうもの。その時に演じるのは大変でございましょう。特にお嬢様の戦闘は二人で一人、そんな時に入れ替わりなどしたら……」
「……なるほど、合点がいきました」
ファレスと戦った時。フォレスが後衛にいたのは理解出来たが、ファレスはどう考えても武術学院向けの付与系統と身体捌きをしていた。しかし魔術学院に入った。
「ほう、合点……ですかな?」
「はい。二人と戦った時、ファレスは先制攻撃として魔法ではなく近接戦を仕掛けてきました。それは後ろのフォレスを援護する役割だけでなく、元々そちら……武術の方が得意だったから。彼女達と戦った時、自分はファレスと近接戦しかしませんでした。不思議ではあったんです。武術学院向きの彼女がどうして魔術学院に居たのか……。それは双子である以上に、『距離が離れた状態で特異能力の暴走が発動することを恐れた』から……違いますか?」
パチパチパチ、と拍手が聞こえる。フレッドさんがにこやかな笑みを浮かべてこちらを見ている。
「その通りでございます。元々ファレスお嬢様は武術学院向きでありました。しかし、武術学院と魔術学院……その間で入れ替わってしまえば分からない空間で、分からない人を演じざるを得ません。そこでファレスお嬢様は努力して魔術学院に入りました。元々魔力量は二人とも高く、後はどのような身の振り方をするかだけ……フォレスお嬢様も、ファレスお嬢様が分からない部分を懸命に教える様子が見られました」
(もしかしたら、自分が知らないうちにも入れ替わっていたのかもしれないな)
そう思いつつ、フレッドさんから話を聞き続ける。外に雲は見られず、綺麗な満月がこちらを見ているようだ。
「後はたわいも無い、特異能力抜きの話でございます。……ファレスお嬢様はああ見えて、とても寂しがり屋のお方。故に明るく振る舞い、皆を先導しますが時にそれは寂しさを紛らわすため。どうか友人として、多くの関わりを持って寂しさを味わわせないようにしてほしくございます」
「はい!私も二人は大好きなので、これからもいっぱい関わろうと思います」
それのシアの言葉を聞いてありがたいとばかりにフレッドさんが礼をする。
「フォレスお嬢様は静かで、本を読んで……しかし、外の知識に触れることを何よりも楽しみにしていました。好奇心旺盛なお方であります。シア殿、そして何よりもレテ殿。貴方の技はフォレスお嬢様にとって求めるものとなるでしょう。教えられる範囲で構いません。もしフォレスお嬢様が知識を、知恵を求めたら教えてあげて欲しいのです」
「わかりました。自分も二人は良き友人です。こうやって招いてくれました。……それが長続きするように。それが叶うなら自分の知識を教えることなど安いものです」
再びフレッドさんが礼をする。そして、ニコリと笑ってこちらを見てそのままでいる。
「……フレッドさん?」
シアが不思議に思う中、自分はある可能性を思いついて周りに検知をかけ、理解する。
「……なるほどね。もう理解したから出てきていいよ、二人とも」
驚くシアに対し、バレてた?と言いながらファレスとフォレスが出てくる。
「えっ、え……いつから?」
混乱するシアと、笑顔のフレッドさん。それに悪戯成功とばかりの顔のファレスとフォレスに苦笑いの自分。
「……ほとんど最初から」
「おじいちゃんが話をしているのが分かって、こっそり来たんだよ!」
そう言って二人もベランダへとやってくる。少し狭くなったがまだ余裕がある。
「そう、精神交換はね。身体以外のほぼ全てが入れ替わっちゃうの。だから、信頼出来る人には知っておいて欲しかった」
「……演じるのが辛い。友達を騙すのが、辛いから」
「だから、フレッドさんと二人の信頼のおける人には話すように、だったんだね」
こくりと頷く二人はどこか吹っ切れた顔をして月を見上げる。
「綺麗だね。フォレス」
「……うん。綺麗。ファレス」
にこにことその様子を眺めていると、あ!とフォレスが思いついたように言う。
「二人とも眠れないんでしょ?二人同じ部屋で寝たら?」
「えっ」
暗に同衾しろと言われているのかと思って思わず驚く。
「……うん。二人とも元が同じ部屋だし、ベッドも広いから寝られるよ」
「そしたらレテ君の部屋に行こっかな?お香は無いけど……レテ君の傍って安心するからね!」
「えっ……あ、あぁ、シアがそれでいいなら自分はいいよ……?」
(シア、顔を赤くするな。やめてくれ)
恥ずかしがるシアを見て、ファレスとフォレスがははーんと閃いて何かを呟く。
すると、シアが違うよー!と否定し、二人が笑う。大方また好きなんだ、とかその辺の言葉を言ったのであろう。自分がからかいがいのない分シアに行ってる気がして申し訳ない。
「……御二方を、お嬢様をよろしくお願いします」
その合間にフレッドさんが頭を下げてきた。それにしっかりと頷くと、こちらもはっきりと言った。
「はい。頼まれました」
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