上 下
20 / 198
二章 学園編

学年対抗 当日

しおりを挟む
その一週間後、学年対抗戦当日になっていた。待機所ではレテと観客席のSクラスの生徒の画面通信が通っていた。

「へ、へ、へっくしゅん!」
「……レテ君、緊張した?」
「ウワサされてるのかもしれない……」
「緊張じゃなくてウワサかよ……大した自信だよ」

不安になって聞いてみるシアにいやいや、と返すと緊張しないのもすごいねぇ、と返される。クロウにも緊張ホントにしてないのかと裏で言われつつ、今戦っているAクラス同士の対抗戦を別の画面で見ていた。

同時刻、イシュリア皇国。イシュリアの私室にて。守護者たるアグラタムはそわそわとしながらイシュリアの傍に仕えていた。

「落ち着かないわね、アグラタム。そんなに師の晴れ舞台が心配かしら?」

そうポロリと聞くと、ぐるっと振り向いて割とすごい顔で口を開かれる。あ、やばいとイシュリアは直感的に理解したものの遅かった。

「心配ではありません!あの師が学院生に遅れを取るなど有り得ません。もし負けたのであれば師が相手に華を持たせるために手加減しただけの事。それよりも今のあの身体でどこまでの事が出来るのか、私の知っている強かな師であるかをこの目で……見たかった……!」

親バカか、いや師バカか。ここまで来ると諦めもつくもの。しかしその実力にはイシュリアも興味があった。

(子供と呼ぶのも少し怪しい、幼子に近いあの子が国の最大実力者を退ける力を持つ。現時点でその子の力を測るという意味では悪くないかもしれませんね)

「アグラタム、魔術学院に門を」
「……晴れ舞台を見に行くのですか!?」
「無論です。あの子がどの程度魔法や身体を使いこなせているか、貴重な光景が見られます。変装してバレないよう乗り込みますよ」
「……仰せのままに!」

そう言ってアグラタムとイシュリアは自身に光の魔法で自身の姿を別の者へと変化させると、魔術学院に先生の枠組みで見ることを決意したのだった。

「うわぁぁっ……!」
「おっと、大丈夫かい?」

そう言ってAクラスの戦いが終わる。最後は収縮系統の魔法を複数打たれて一年生がしりもちを着いて終了だ。
学年対抗戦は戦闘続行が不可能になるか、このように言わば魔力が尽きて何も出来なくなったところに追撃をかけたところで終了する。
CもBも、皆二年生の先輩方にやられていた。大半が魔力不足だが、恐らくその辺のコントロールなどを一年生では教えてくれるのだろう。だから、普通の一年生では勝てない。

「勝者、二学年!次は最後、Sクラスの対抗戦に入ります!」

わぁぁ!と会場が湧く。年々Sクラスは、ド派手にぶっぱなしてド派手に一年生が魔力切れしてド派手にやられるのが上級生に受けるのだとか。

「ふふ、ド派手にはやっても負けないよ」

闘技場に出ると、相手の男は何やら観察するような目でこちらを見ている。

「ありゃ?少し小さい……って事は今年十四歳で入学した生徒がSクラスの代表って事か?」
「正解です。流石先輩。ですが、手加減は不要です。こちらは手加減は……な、なしで行きますので」

手加減しないと相手が普通に死にそうなので手加減なしということにしておいて自分で手加減する事にした。危うく手加減すると言って煽るところであった。無闇やたら気持ちの良くない挑発はするものではない。

「じゃ先に情報を与えておこう。俺の得意な魔法は土、収縮系統。特異能力は使用禁止だからな……持ってるけど使わないことにするぜ」
「いいのですか?そんなに言ってしまって」
「……へぇ、この情報で得られるものがあるって事か。去年の俺とは大違いだが、一年の差を見せるとしようか」

軽口を叩き合いながらお互い離れて合図を待つ。

「それでは……始めっ!」

その声が聞こえた瞬間に、一メートルはある岩が生成され、ドンドンとバラバラになる。
そしてそれが空を切り、弾丸のようにこちらに降り注ぐ。

(ふむ。ド派手に、ド派手に)

そう思うと、手を地面に当てて炎の柱を顕現させる。そして炎の柱を爆発させると自分を狙っていた岩の弾丸は霧散していた。

「へぇ……!」

その後も岩の弾丸や時折他の属性を収縮させて弾丸と飛ばしてきた。自分は風を吹かせ、時には水と炎で煙を作り、反撃しないままに相手の魔力切れを待つ。

「中々派手にやるが……攻撃しなくていいのかい?」
「そうですか?では……終了です」

そう言うと右手から風の魔力をさらりと流して、背を向ける。そこに追撃しようとしたところに風の騎士が二年生を吹っ飛ばして距離が離れる。

「は?……何だとッ!?」

そこで彼が見たのは、三方向に顕現した風の騎士。慌ててそれを消そうと炎の弾丸を放つも得意ではない上に風は流れ、そよ風の如く忍び寄った騎士三人に囲まれていた。

「まだ……まだ負けてねぇぞ!後ろ向いてどうした!?」
「こういう事ですよ。顕現系統というのは」

そう言うと、場を守る結界の魔力に干渉して背中に闘技場の結界がついている彼に簡易的な結界を仕掛ける。
その直後、彼に向かって風の騎士が剣を一斉に振り下ろし、結界を破く。その恐怖と音に怯えた彼は目を閉じてしまったので、自分は風を使い近寄ると、手に岩の剣を顕現させて目を閉じた彼の頭をぽんぽん、と叩く。

「目を開けてください。これから戦おうと言うのなら、この騎士を自分は三体と言わず何体も顕現させましょう。貴方に貼った簡易的な結界も自分に纏わせましょう。……まだ、戦いますか?」
「……実力差、か。自分の負けだ」

場が静まり返る。Sクラスの、しかも一年が勝つ。そんな事はこの魔術学院始まってからそうそうあることでは無い。しかもギリギリではなく、相手を完封したのは初めてだろう。
その後わあああ!と場が歓声で包まれる。圧倒的な差に感動する者、恐怖する者、自分も戦いたいと思う者。沢山の人がいた。

「レテーッ!お前結界に干渉したなぁ!?それ確かにルール違反じゃないけどそれで相手に結界を貼って実力差を知らしめた生徒は初めてだぞぉ!」

スイロウ先生の言葉に生徒どころか、先生も静まり返る。
自分たちの結界に干渉する。それだけの力を持った一年生。

「……彼は、強いのです。生徒の枠に収まらないほどに」
「学園の結界に干渉して、そこから魔力を引き出して更に顕現させる。この芸当、出来る生徒はおろか先生でも何人でしょうね?」

ずっと聞こえた先生陣の中の声に驚く。

「……イ、イシュリア様……アグラタム様……いつから……」
「先程の戦闘の初めから、かな。ちょっとお邪魔したよ」

変装を解くと一斉にひれ伏す。

「ああ、大丈夫です。ここで無用な心配を生徒に与えてはいけないですし私たちはここで帰ります」
「そういう事です。それでは先生方、よろしく頼みました」

二人が礼をすると、門を通ると同時にその門が消える。

「……王と守護者、御二方すら見に来る逸材……」

とある先生が呟くと、呆然と闘技場を見つめる。
そこには握手して別れるSクラスの生徒の姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...