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二章 学園編

夜中の会談

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試験はその後何事も起きることはなく、無事終了した。全員終わると後日個別に連絡が来る旨を伝えられ、解散した。
「それじゃレテ君また会えるといいねー!バイバイ!」
「ああ、シアもまた会えるといいね」
そう言って別れる。そうして、学園から帰路へと歩いていく。勿論家が遠いので公共機関の馬は使わせてもらった。

「そう、受かりそうなのね!流石レテだわ!」
父は近隣の街の警備で今日は居ない。なので母に受かりそうだと伝えると舞い上がりそうなほど喜んでいた。
その後は学院についての説明を受けた。
学院は寮に入る事になり、帰って来れるのは連休や夏休みなどの長い休みだけなこと。
寮で使うお金は個人の自由だが、寮でお手伝いをしてお駄賃を稼ぐことも可能なこと。
武術学院はすぐ隣にあるので、そちらとの交流を持ってもいいこと。ただし違う学院生で喧嘩などは起こしてはいけないこと。万が一起こした場合、決闘などで決着をつけて意見を決めるか喧嘩両成敗になるかの二択になること。
(よく知っているな……しかし最後の決闘。つまりこれは勝った方の言い分が適用されるという事なのか。世知辛いな)
と、一通り説明し終わったあと、私も通ってたのよと笑いながら言われた。通りでよく知っているはずである。
「じゃあお母さんも魔法使えるの?」
「まあそうね。お母さんは他の子と比べて魔法は普通だったけれど、座学でいい成績取ったから卒業できたのよ~」
サラッと言うが普通の子が座学でいい成績を取るのは簡単ではないだろう。自分の記憶力の良さは母親譲りなのかもしれない。
その後は夜ご飯を食べ、自分の部屋で寝る。
そう思ってベッドに入るとふと懐かしい魔力の気配がして起き上がる。

「夜分遅くに失礼します。師よ」
そう言って現れたのはアグラタムだった。夜こそイシュリア様の警護が必要では無いのか?と思いつつ聞いてみる。
「こんな時間にどうした?というかお前、警護はどうした警護は」
「イシュリア様が師に直々に会いたがっております……短時間でよろしいので時間を頂戴したく」
なるほど。ならば着いていこう。
手を握られ、自分は初めて『門』を通った。
出たのはアグラタムの私室ではなく、恐らくイシュリア様の部屋だった。清楚な白で染まっており、一瞬天国にでも連れてこられたのかと思ってしまった。
「イシュリア様。お連れ致しました」
「ご苦労さま、アグラタム」
透き通る声の方を見ると、聖母のような顔を浮かべたイシュリア様がいた。見た目の年齢は二十代前半ぐらいだろうか。ニコリ、と微笑まれる。
(……なるほどね)
こちらもニコリ、と『魔力を込めて』微笑み返す。するとイシュリア様は驚いたような顔をして、クスクスと少女のように笑う。
「本当に貴方の師は凄いのね、アグラタム。私の笑顔の魔力に気づいて対抗してきたわ」
「でしょう。これが師でございます」
今度は魔力のない本当の笑みで笑顔を向けられる。子供の視線に合わせるようにしゃがまれると、思ってもいない言葉を言われる。
「ありがとう、アグラタムを育ててくれて。貴方と戦う度に力を増すのがすぐに分かったわ。ふふ、私にも少しだけ見せて貰えないかしら?」
「お望みとあらば……少々離れてくださいませ」
そう言うと立ち上がって十分な距離を取られる。というか部屋が広い。メイド何人必要なんだここは。
(慈愛の盾よ)
遠慮はしなかった。右手に全力で純白の盾を出現させると、更に魔力を込める。
(イシュリア様。辛い事もありましょう、日々の苦労もありましょう。私はそれを慈愛を用いて一時の救いをもたらしましょう)
ニコリ、と微笑むとイシュリア様でさえ抗い難いらしく膝をつく。流石に辛そうな顔が見えたところで盾を消した。
「……アグラタム、貴方、これと毎晩戦っていたというの?」
気がつくと膝をついて泣きそうになっているアグラタムがいた。耐性はどうした。特訓で得た耐性は。仕方が無いので自分が説明する。
「これが自分の特異能力、愛……慈愛の盾です。魔力を込め、相手の本能や悩み……精神的な許容を認めることで相手の魔法はほぼ無力と化します。また、対面した相手も今のイシュリア様のように飲まれて戦う気力を削がれます」
「削がれる……なんてものでは無いわね。更にもう一つあるなんて、これは学園どころか国の中では敵無しね……」
どうやら左手の剣についても知っているようだ。アグラタムから聞かされていたようだ。
「アグラタム、時間よ。貴方の師を返してあげて」
「す、すみません……久しぶりの師の技を見て囚われてしまいました……流石は師でございます」
「戦っていた頃はそれほど囚われなくなっていただろうに、よく言うよ。ほら、イシュリア様も帰してって言ってるし門を頼むよ」
「分かりました」
そう言って門を開くと、一礼をして去る。
門が閉じたあと、イシュリアはアグラタムに問いかける。
「……アグラタム、貴方は今の状態のあの子に勝てますか?」
「……全力を出して五分、と言ったところです」
「私は勝てる気がしなかった。……いえ、正確に言えば『まだ何か隠し持っている』……そんな気がしてならないのです」
こうして城でレテの能力に関する考察をしながら夜は更けていった。
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