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各国の間者
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「……と、ティタスタで起こったと聞いております」
鎧姿の千人隊長、クラ・イオスはあの後帰還した後にティタスタに送ったスパイから得た情報を報告していた。
それも正面に人がいる訳では無い。何か、透明な板の向こうを見ながら通信している。
『……なるほど。【ロストナンバー】が人化出来るグリフォンを従えた、と。そして其方に居た『駒』が潰れたのだな?』
雑音混じりの声に対し、イオスはハッ!と応える。
『ふぅむ。ティタスタに今攻め入るべきではない。皇帝陛下にはそう進言しておこう。何、『あの程度の駒』からその情報が得られたのだ。【ロストナンバー】の実力がそのままであること、いや……それ以上になった事。騎士団の強化にも繋がる事。これはまだ機ではないという事だ……』
そう言われ、ただイオスは頷く。
『では通信を切る。そちらは任せたぞ、千人隊長……クラ・イオス』
「はっ!この命に変えましても!」
そう言った直後に板は急速に光を失い、ただのガラスとなった。
ロストナンバー。ティタスタで嫌われているとも評される人物は、帝国兵であれば真っ先に情報を与えられる要注意人物だ。
ティタスタを護る【数者】、そのかつての一位。この者と出会った時の対処法は全帝国兵で決まっている。
『和解せよ』だ。今回のように、ミディアの駒を使ってでも戦ってはいけないと命令が下されているのだ。
そう考えると、イオスはブルりと身体が震え出す。
(……もし、あの場にミディアという駒がいなかったら?)
サートゥン帝国は皇帝陛下の統治を全土に広げるべく、他の巨大二国……ティタスタ王国とグレイシス神国と戦ってきた。
それは今でも変わらない。けれど今、冷戦状態……主だった戦闘が起きないのは他でもない。この【ロストナンバー】がいるからだ。
これは過大評価でも何でもない。グレイシス神国がティタスタ王国を落とせないのも、我らが帝国が戦争を仕掛けられないのも、彼のせいなのだ。
思えば、我々は見逃された。彼にとって、我々は驚異ですらないのだ。
その気になればこの報告もさせない事だって出来ただろう。それを許したのは、彼がただミディアを憎んでいたから。それだけの理由に過ぎない。
一歩間違えればこの命は無かった。それは等しく与えられた終わりであるが、時を選べる訳では無い。
武者震いをしながら、自室の板の前から配下の待つ場へと向かった。
「奴隷騒動~!?ロイヤリー様の御国で!?」
遠い遠い場所、透き通った広間にてピンク色の髪の毛の少女が声を上げる。
それに対し、紫の髪の大人びた女性が言う。
「落ち着きなさい『カスティティア』。無事に貴方の好きなロイヤリー様が鎮圧したそうよ」
そう言われても、ピンク色の髪の少女は言い返す。
「そうは言ってもよ!奴隷酒場に気づかないなんて今のティタスタは腐っていると思わない!?ロイヤリー様が一位を務めていた時代には思い浮かびもしないわ!貴方もそう思うでしょう!?
『ヒュマニティア』!」
大声でそう言い返されると、ヒュマニティアと呼ばれた女性も黙ってしまう。
「……そう騒ぐな。我らの目的はこのグレイシス神国とティタスタ王国との永劫なる融和。そして、帝国の殲滅……。そうであろう」
青髪の青年が言う。そうね、とカスティティアが言うと、それに同意するように幼い男の子が言う。
「そうだ。その希望を我々が抱いていなければならない。他ならぬ、民の平和のためにも。……そうだよね、『ヒュミリティア』」
ヒュミリティア、と呼ばれた先程の青年は優しい笑顔で返す。
「あぁ、そうだとも。いつも君の役割は素晴らしいものだ。……希望の座、『インディンティア』。希望を我々が持たずして、どうするというのか」
インディンティア、と呼ばれた幼子は頷いて返す。その後ろで祈る若緑の娘も言う。
「……救いを……奴隷となっていた者たちには、救いがありますよう……」
その嘆きにも似た祈りに赤髪の女性がそっと寄り添う。
「情報によると、ロイヤリー様が共に冒険者、騎士団と保護をしたらしい。……だからそう嘆くな。救いはあったぞ、『リベラリティア』」
「……そう、それなら良かった。ありがとう、『パツエンティア』」
最後に、締めるように黙っていた七人目の深い青い髪の青年が言う。
「……我は役割として節制を担う以上、必要以上に言うつもりは無い。
だが『カスティティア』。行きたいのであれば行け。ティタスタ王国へ、彼の元へ」
その言葉を聞いてカスティティアはキラキラとした目で振り向く。
「ほんと!?ねぇほんと!?『テンペンラティア』!行っていいの!?」
「他の者に異存がなければ、だがな」
ぐるりとカスティティアは見渡す。顔は皆、仕方ないなあというばかりの顔である。
「……私も行きます」
それに名乗りを上げたのは祈っていたはずのリベラリティアだった。それに対して大きく頷いて答える。
「ええ!一緒に行きましょう!……うふふふ!待っていてくださいね!愛しのロイヤリー様!!」
狂気に包まれたグレイシス神国の一室。ここでもまた、ロストナンバーと呼ばれた男の話題は出たのであった。
鎧姿の千人隊長、クラ・イオスはあの後帰還した後にティタスタに送ったスパイから得た情報を報告していた。
それも正面に人がいる訳では無い。何か、透明な板の向こうを見ながら通信している。
『……なるほど。【ロストナンバー】が人化出来るグリフォンを従えた、と。そして其方に居た『駒』が潰れたのだな?』
雑音混じりの声に対し、イオスはハッ!と応える。
『ふぅむ。ティタスタに今攻め入るべきではない。皇帝陛下にはそう進言しておこう。何、『あの程度の駒』からその情報が得られたのだ。【ロストナンバー】の実力がそのままであること、いや……それ以上になった事。騎士団の強化にも繋がる事。これはまだ機ではないという事だ……』
そう言われ、ただイオスは頷く。
『では通信を切る。そちらは任せたぞ、千人隊長……クラ・イオス』
「はっ!この命に変えましても!」
そう言った直後に板は急速に光を失い、ただのガラスとなった。
ロストナンバー。ティタスタで嫌われているとも評される人物は、帝国兵であれば真っ先に情報を与えられる要注意人物だ。
ティタスタを護る【数者】、そのかつての一位。この者と出会った時の対処法は全帝国兵で決まっている。
『和解せよ』だ。今回のように、ミディアの駒を使ってでも戦ってはいけないと命令が下されているのだ。
そう考えると、イオスはブルりと身体が震え出す。
(……もし、あの場にミディアという駒がいなかったら?)
サートゥン帝国は皇帝陛下の統治を全土に広げるべく、他の巨大二国……ティタスタ王国とグレイシス神国と戦ってきた。
それは今でも変わらない。けれど今、冷戦状態……主だった戦闘が起きないのは他でもない。この【ロストナンバー】がいるからだ。
これは過大評価でも何でもない。グレイシス神国がティタスタ王国を落とせないのも、我らが帝国が戦争を仕掛けられないのも、彼のせいなのだ。
思えば、我々は見逃された。彼にとって、我々は驚異ですらないのだ。
その気になればこの報告もさせない事だって出来ただろう。それを許したのは、彼がただミディアを憎んでいたから。それだけの理由に過ぎない。
一歩間違えればこの命は無かった。それは等しく与えられた終わりであるが、時を選べる訳では無い。
武者震いをしながら、自室の板の前から配下の待つ場へと向かった。
「奴隷騒動~!?ロイヤリー様の御国で!?」
遠い遠い場所、透き通った広間にてピンク色の髪の毛の少女が声を上げる。
それに対し、紫の髪の大人びた女性が言う。
「落ち着きなさい『カスティティア』。無事に貴方の好きなロイヤリー様が鎮圧したそうよ」
そう言われても、ピンク色の髪の少女は言い返す。
「そうは言ってもよ!奴隷酒場に気づかないなんて今のティタスタは腐っていると思わない!?ロイヤリー様が一位を務めていた時代には思い浮かびもしないわ!貴方もそう思うでしょう!?
『ヒュマニティア』!」
大声でそう言い返されると、ヒュマニティアと呼ばれた女性も黙ってしまう。
「……そう騒ぐな。我らの目的はこのグレイシス神国とティタスタ王国との永劫なる融和。そして、帝国の殲滅……。そうであろう」
青髪の青年が言う。そうね、とカスティティアが言うと、それに同意するように幼い男の子が言う。
「そうだ。その希望を我々が抱いていなければならない。他ならぬ、民の平和のためにも。……そうだよね、『ヒュミリティア』」
ヒュミリティア、と呼ばれた先程の青年は優しい笑顔で返す。
「あぁ、そうだとも。いつも君の役割は素晴らしいものだ。……希望の座、『インディンティア』。希望を我々が持たずして、どうするというのか」
インディンティア、と呼ばれた幼子は頷いて返す。その後ろで祈る若緑の娘も言う。
「……救いを……奴隷となっていた者たちには、救いがありますよう……」
その嘆きにも似た祈りに赤髪の女性がそっと寄り添う。
「情報によると、ロイヤリー様が共に冒険者、騎士団と保護をしたらしい。……だからそう嘆くな。救いはあったぞ、『リベラリティア』」
「……そう、それなら良かった。ありがとう、『パツエンティア』」
最後に、締めるように黙っていた七人目の深い青い髪の青年が言う。
「……我は役割として節制を担う以上、必要以上に言うつもりは無い。
だが『カスティティア』。行きたいのであれば行け。ティタスタ王国へ、彼の元へ」
その言葉を聞いてカスティティアはキラキラとした目で振り向く。
「ほんと!?ねぇほんと!?『テンペンラティア』!行っていいの!?」
「他の者に異存がなければ、だがな」
ぐるりとカスティティアは見渡す。顔は皆、仕方ないなあというばかりの顔である。
「……私も行きます」
それに名乗りを上げたのは祈っていたはずのリベラリティアだった。それに対して大きく頷いて答える。
「ええ!一緒に行きましょう!……うふふふ!待っていてくださいね!愛しのロイヤリー様!!」
狂気に包まれたグレイシス神国の一室。ここでもまた、ロストナンバーと呼ばれた男の話題は出たのであった。
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