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女王
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「……」
ロイヤリーは外で見た景色を見て、ふと考える。
(今までミュルに魔法を使う力、魔力は殆ど存在し得なかった。だが今見たファイアーボールはどう見ても魔術師に匹敵する威力。それに魔力を得ていた。……なるほど、見えてきた。ミュルは──)
「ロイヤリィ~眩しいわよ……」
「ん?あ、すまん」
納得のいく答えが得られた所でカーテンを閉めて自分もベッドに転がる。
直ぐに眠くなってしまい、深い深い眠りに落ちた。
翌日の昼。意識の外から扉を優しく叩かれる音がした。
「主様、主様」
「ん……シュネーか……」
はい、と返事をしたので寝ぼけ眼を擦りながら扉を開ける。シュネーはどうやら両親と久しぶりに寝られて嬉しかったのか、眩しい笑顔で出迎えてくれた。
「おはようございます。既に父と母はラーナお姉ちゃんとアギルさんのお話を聞いています。それを伝えるようにって、ダグザさんから言われて来ました。ミュルお姉ちゃんも起きて、主様とヤコさんが最後です」
「ラーナとアギルが来たってことは……あー、ロイヤリー。コレめんどくさい事になるわよ」
いつの間にか起きていたヤコに対してシュネーが飴玉を取り出す。恐らくラーナがシュネーの為にあげたのだろうが、優しい子だ。案の定妖精は小さいが故に、飴玉でも十分な糖分を補給できる。
「まぁ……城行きだろうな」
ゲンナリしながら笑顔のシュネーに手を引かれて一階へと降りる。
既に皆説明は受けていたのか、雑談に花を咲かせていた。俺の姿を見るとアルトが無言で白湯を出してくれる。
それを一気飲みで飲み干すと、ラーナとアギルに振り返る。
「……で?城行きだろ?何時になる?」
「お。分かってるじゃないかロイヤリー。午後二時集合だ。急ぐぞ」
そこまで聞いて流石に身体が固まって、ぎこちなく壁掛け時計を見る。
そこには無慈悲にもピッタリ、ふたつの針が十二を示してチクタクと回っていた。
「……は?おい待て、今何時だと……」
「だから急ぐぞ!マジックバッグは持ったか!ていうかお前さんが最後なんだよ!ほかの皆はとっくのとうに起きて待ってたよ!」
アギルを始めとしてダグザ、果てにはミュルにまで頷かれる始末。頭を抱える。
(寝すぎた……)
後悔しながら、疲れていたから仕方ないと心の中で言い訳をしながら外へと走り出した。
正規ルート……町外れの青い鳥から街中を通るのでは間に合わない。そこでグリフォン達に乗せてもらい、街の上空を飛ぶ。
本来一般人には許されない行為なのだが、唯一の例外が存在する。
それが、騎士団による巡回という名目だ。騎士団にはグリフォン以外にも飛行獣を飼っており、その獣による飛行のみが街で許される。
一応シュネー達親子のグリフォンは既に管轄下のようであるし、騎士かどうかなんて下からじゃ分からない。グレーゾーンを攻めている。
そんな事を思いながら朝ごはんのパンを食べていると、城が見えてくる。
「わわ、ティタスタ城……!こんなに近くに……!」
ミュルはガチガチに緊張しているようだ。普通に生きていれば来る機会なんて無いのだから当然だろう。
そんなミュルにアギルが声をかける。
「大丈夫だ。此度の事は既にミュル殿を含めて良い報告をしてある。故に悪い扱いはされないと安心されよ」
「あ、ありがとうございます」
恐縮しているミュルを見ながら、俺は黙々と水とパンを食べ続けていた。
「そこだ。王城の端に緊急用の着陸場がある。あそこに降りて欲しい」
アギルが指で示した方向には、既に敬礼をしている騎士達が見えていた。寝坊は折り込み済み……いや、シュネー達を楽に連れてくるためだろう。多分。
バサりとグリフォン三羽が舞い降りると、その上からそっと降りる。
「アギル様!お疲れ様です!」
「ご苦労だった。早速の頼みではあるが、この方々を案内せよ」
人化して三人となったグリフォンを見た次に、俺を見て顔を歪ませる。
「……お前は……」
「今はお客様だ。平等に扱うように」
「……はっ。了解しました」
そのまま案内が始められる。俺は最後尾に居ながら、その目の前にいるミュルの反応を見守る。
一挙一動、ソワソワしている。城の中に興味はあるが他の人の目と自身が緊張していてどうにも見られない感じだ。
そんなミュルにそっと耳打ちする。
「無礼な事をせず、言わなければ城内は全然見ても大丈夫だよ。滅多に来られないと思うし、見ておいた方がいい」
「そ、そうなんですか?では遠慮なく……」
そう言ってキョロキョロと見渡し始める。目が合った執事と腰から下げて挨拶もしている。中々肝が据わってるのか、緊張感がついに麻痺したのか。何にせよ冒険者に必要な好奇心が旺盛で良いものだ。
「今女王陛下をお呼びします。暫しお待ち下さい」
そう言われて待機するのは、廊下の扉の前。豪華な装飾こそ無いものの、厳かな盾の騎士と剣の冒険者の像……数者を表すものが並んでいた。
「何年ぶりだろうねえ、あのお嬢様も立派に……」
「ちょっとアルトの姐さん!一応ワタシ達一般人なんだから……」
珍しくダグザがアルトを宥めるが、無理もない。
老年であり、元第三位だったアルトにとって即位した女王陛下は正にお嬢様と呼ぶべき立場にあった。その癖が抜けないのだろう。
「お待たせ致しました。女王陛下がお待ちです。くれぐれも、無礼のないように」
案内役の騎士に言われ、皆で中に入る。
老年のローブを被った数者が横に立ち、女王陛下は微笑みを浮かべて玉座に座っている。
その階段下にいる俺たちは臣下の礼を取る。そして、慈悲の篭った声が届く。
「よくぞいらっしゃいました、皆様。どうか、ごゆるりとなさいませ。これは女王ではなく、『イヴ』というひと個人のお願いですが」
ロイヤリーは外で見た景色を見て、ふと考える。
(今までミュルに魔法を使う力、魔力は殆ど存在し得なかった。だが今見たファイアーボールはどう見ても魔術師に匹敵する威力。それに魔力を得ていた。……なるほど、見えてきた。ミュルは──)
「ロイヤリィ~眩しいわよ……」
「ん?あ、すまん」
納得のいく答えが得られた所でカーテンを閉めて自分もベッドに転がる。
直ぐに眠くなってしまい、深い深い眠りに落ちた。
翌日の昼。意識の外から扉を優しく叩かれる音がした。
「主様、主様」
「ん……シュネーか……」
はい、と返事をしたので寝ぼけ眼を擦りながら扉を開ける。シュネーはどうやら両親と久しぶりに寝られて嬉しかったのか、眩しい笑顔で出迎えてくれた。
「おはようございます。既に父と母はラーナお姉ちゃんとアギルさんのお話を聞いています。それを伝えるようにって、ダグザさんから言われて来ました。ミュルお姉ちゃんも起きて、主様とヤコさんが最後です」
「ラーナとアギルが来たってことは……あー、ロイヤリー。コレめんどくさい事になるわよ」
いつの間にか起きていたヤコに対してシュネーが飴玉を取り出す。恐らくラーナがシュネーの為にあげたのだろうが、優しい子だ。案の定妖精は小さいが故に、飴玉でも十分な糖分を補給できる。
「まぁ……城行きだろうな」
ゲンナリしながら笑顔のシュネーに手を引かれて一階へと降りる。
既に皆説明は受けていたのか、雑談に花を咲かせていた。俺の姿を見るとアルトが無言で白湯を出してくれる。
それを一気飲みで飲み干すと、ラーナとアギルに振り返る。
「……で?城行きだろ?何時になる?」
「お。分かってるじゃないかロイヤリー。午後二時集合だ。急ぐぞ」
そこまで聞いて流石に身体が固まって、ぎこちなく壁掛け時計を見る。
そこには無慈悲にもピッタリ、ふたつの針が十二を示してチクタクと回っていた。
「……は?おい待て、今何時だと……」
「だから急ぐぞ!マジックバッグは持ったか!ていうかお前さんが最後なんだよ!ほかの皆はとっくのとうに起きて待ってたよ!」
アギルを始めとしてダグザ、果てにはミュルにまで頷かれる始末。頭を抱える。
(寝すぎた……)
後悔しながら、疲れていたから仕方ないと心の中で言い訳をしながら外へと走り出した。
正規ルート……町外れの青い鳥から街中を通るのでは間に合わない。そこでグリフォン達に乗せてもらい、街の上空を飛ぶ。
本来一般人には許されない行為なのだが、唯一の例外が存在する。
それが、騎士団による巡回という名目だ。騎士団にはグリフォン以外にも飛行獣を飼っており、その獣による飛行のみが街で許される。
一応シュネー達親子のグリフォンは既に管轄下のようであるし、騎士かどうかなんて下からじゃ分からない。グレーゾーンを攻めている。
そんな事を思いながら朝ごはんのパンを食べていると、城が見えてくる。
「わわ、ティタスタ城……!こんなに近くに……!」
ミュルはガチガチに緊張しているようだ。普通に生きていれば来る機会なんて無いのだから当然だろう。
そんなミュルにアギルが声をかける。
「大丈夫だ。此度の事は既にミュル殿を含めて良い報告をしてある。故に悪い扱いはされないと安心されよ」
「あ、ありがとうございます」
恐縮しているミュルを見ながら、俺は黙々と水とパンを食べ続けていた。
「そこだ。王城の端に緊急用の着陸場がある。あそこに降りて欲しい」
アギルが指で示した方向には、既に敬礼をしている騎士達が見えていた。寝坊は折り込み済み……いや、シュネー達を楽に連れてくるためだろう。多分。
バサりとグリフォン三羽が舞い降りると、その上からそっと降りる。
「アギル様!お疲れ様です!」
「ご苦労だった。早速の頼みではあるが、この方々を案内せよ」
人化して三人となったグリフォンを見た次に、俺を見て顔を歪ませる。
「……お前は……」
「今はお客様だ。平等に扱うように」
「……はっ。了解しました」
そのまま案内が始められる。俺は最後尾に居ながら、その目の前にいるミュルの反応を見守る。
一挙一動、ソワソワしている。城の中に興味はあるが他の人の目と自身が緊張していてどうにも見られない感じだ。
そんなミュルにそっと耳打ちする。
「無礼な事をせず、言わなければ城内は全然見ても大丈夫だよ。滅多に来られないと思うし、見ておいた方がいい」
「そ、そうなんですか?では遠慮なく……」
そう言ってキョロキョロと見渡し始める。目が合った執事と腰から下げて挨拶もしている。中々肝が据わってるのか、緊張感がついに麻痺したのか。何にせよ冒険者に必要な好奇心が旺盛で良いものだ。
「今女王陛下をお呼びします。暫しお待ち下さい」
そう言われて待機するのは、廊下の扉の前。豪華な装飾こそ無いものの、厳かな盾の騎士と剣の冒険者の像……数者を表すものが並んでいた。
「何年ぶりだろうねえ、あのお嬢様も立派に……」
「ちょっとアルトの姐さん!一応ワタシ達一般人なんだから……」
珍しくダグザがアルトを宥めるが、無理もない。
老年であり、元第三位だったアルトにとって即位した女王陛下は正にお嬢様と呼ぶべき立場にあった。その癖が抜けないのだろう。
「お待たせ致しました。女王陛下がお待ちです。くれぐれも、無礼のないように」
案内役の騎士に言われ、皆で中に入る。
老年のローブを被った数者が横に立ち、女王陛下は微笑みを浮かべて玉座に座っている。
その階段下にいる俺たちは臣下の礼を取る。そして、慈悲の篭った声が届く。
「よくぞいらっしゃいました、皆様。どうか、ごゆるりとなさいませ。これは女王ではなく、『イヴ』というひと個人のお願いですが」
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