失墜の数者 -ロストナンバー-

猫狐

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グリフォン夫婦の惚気話

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結局数日もかからず、ほぼ日帰り旅行のようなものだったが疲れは凄い。

「ダグザ……茶を頼むよ……」

「えぇ~!って言っても、アルトの姐さんに頼まれちゃあ仕方ないわね……」

キュウの背中から降りて、休業中の札をかけたままアルトとダグザが店の中に入る。
他の冒険者の人には、出る前にアルトのツテで店を紹介していた。なので中はガランガランである。

「んしょ、ありがとう!シュネーちゃん!」

ミュルが背から降りて礼を言うと、シュネーの身体が変化する。
数秒光った後、人化したシュネーが眠たげな顔でミュルに寄りかかる。
それを見て、俺もスルトから降りる。そして、二人に言う。

「スルト、キュウ。一休みしよう。ダグザの作る茶がグリフォンの貴方達の口に合うかは少し疑問ではあるが、疲労は取れる。何より、心が休まらないだろう。この『青い鳥』は俺たちの拠点と言っても良い。まずは慣れてくれ」

その言葉に二羽も人化すると、一礼する。

「このスルト、ロイヤリー様のご推察の通り……少々疲れておりまして。妻のキュウも同じかと」

「はい……。シュネーの事と、自身にかけられた呪いの負荷がやはり辛いです」

ウトウトからスヤスヤに変わったシュネーをミュルからそっと抱っこするキュウを見て、ヤコが耳打ちしてくる。

「早く休ませてあげた方がいいわよ。正直私も疲れたし」
「わかってる。てか俺も疲れてるんだよ。寝たい」

そう返すと、皆で頷いて青い鳥の中に入る。
既にアルトとダグザはカウンター席で茶を飲んでおり、アルトは荷物を横に置いて啜っている。

「あー、ダグザさん。俺らの分も追加で」
「わかったわよぉ……人遣いが荒いわねぇ……」

ヘトヘトなダグザに対して申し訳ないとは思うが、こちらも疲労困憊。どうにかこうにか疲れを取らないといけない。

豊穣の名は伊達ではない。横にある専用の鉢植えに魔力で作った種を植え、直ぐに育てて茶葉を採る。
そして煎じて、コトリ、コトリと一人一人の前に置かれていく。

「アタシもう休んでいいかしらぁ……?」
「ゆっくり休みな。魔力ポーションなら私のこの荷物の中にあるから好きなだけ持っておいき」
「アルトの姐さんありがとう~……それじゃあお先……」

ポーションを一気飲みしたダグザは、自室に戻って行った。
ふと、スルトとキュウの方を見る。口に合っているだろうか。

「美味しいわね、アナタ」
「あぁ、村での交流では食べ物が盛んだったからな。茶は聞いたことがあったが、こんなに美味しいとは」

笑顔で美味しそうに飲んでいる。キュウは時々声を出すシュネーを撫でながら、スルトと話している。これが夫婦か、と思いながらふと疑問を投げかける。

「そういえば、二人はなんで人化出来るまでに強くなって、ラブラブな夫婦になったんだ?……ああ、いや、言いたくなければいい」

そう言うとキュウがポッ、と赤くなる。それに対して、スルトが苦笑しながら答えてくれた。

「元々我々は別々の群れでして。それこそロイヤリー様やミュル殿の認識の通り、山の奥などに住んでいたのですが……。
ある冬に山篭りの為に平原で草食獣の狩りをしていましてな。その時、丁度別の群れ、つまりキュウの群れと出会ったのです。
キュウは群れの長でありましたが、私もキュウも人化出来る個体でありました。その時に……まあ、人間で言うところの『一目惚れ』というやつですな。キュウも私も互いに惹かれあってしまいまして。
ですがお互い別の群れ。この準備が終わったら別れてしまいます。その時にキュウが言ったのですよ。『伴侶を見つけたので長は別の者に任せます』と。それを察した私の群れも私を快く送り出してくれました。
最初は二人で暮らしていたのですが、やはりグリフォンと言えど差別もあり。強すぎる個体は追い出される事がありました。そういった者を拾った群れが今の群れなのです。……おおっと、話が逸れましたな。詰まるところ、最初から私たちは人化が出来たのです。ですがお互いに惹かれあって、今に至るというわけです」

その言葉に興味を示したのはヤコだった。

「へえー!え!え!キュウさんはスルトさんのどんなところに惹かれたの?」

その様子にキュウが顔を片手で多いながらポツっと話す。

「そ、その……狩りをしている姿がとてもカッコよくて。何より、別の群れだというのに私達の取り分を取ってくれたところでしょうか。普通は喧嘩になるところを、彼が止めてくれて……私もそれで、取り分を決めたのです。でもやっぱり……その……運命的な何か、です」

「素敵ー!なんてロマンチックなの!え!スルトさんは?どこに惹かれたの?」

「私は情けない話、最初は顔でした。ですが群れを統率する力。優しく接してくれる心、何よりも……」

「何よりも?」

ヤコが近づいて聞こうとしている横でキュウが手をブンブン振っているがお構い無しにスルトが話す。

「……貴方との子を、産みたい、と……言われては陥落してしまいまして」
「恥ずかしい……」

なるほど、簡単に説明すると二人は元々別の群れだったが偶然に偶然が重なって結婚。群れを形成してシュネーを産んだ……ということだろう。
なるほど、納得のラブラブ感だ。二人とも美男美女であるし、シュネーも将来美人さん間違いなしである。

「……まま?」
「あら、シュネー。おはよう」

抱っこしたまま起きるシュネーに対して直ぐに母親になると、シュネーは言った。

「まま、今日はぱぱとままと一緒に寝たい……」
「そうね、疲れたし一緒に寝ましょ?いいわよね、アナタ?」
「勿論だとも。……アルト殿、すまないが部屋を貸してもらえるだろうか」

横で惚気話を聞いて微笑んでいたアルトが頷く。

「それなら三階に広い部屋があるからそこを使って良い。家族用だから、ゆっくり休んでおくれ」

「恩に着る。……ではロイヤリー様、私たちはお先に」

そう言ってスルトが歩き出すと、「なんで言っちゃうのよ!」とぺちぺち叩くキュウの姿が見えた。
けれど、それも本気ではなく微笑みながらだったので本当にいい夫婦だ。

「ロイヤリーにもそんな縁があるといいわね?」

ヤコが野次を飛ばしてくる中、俺は苦い表情をする。

「……や、追いかけてくる奴は知ってるんだがな。数年単位で」
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