失墜の数者 -ロストナンバー-

猫狐

文字の大きさ
上 下
5 / 46

スン稼ぎにて 3

しおりを挟む
ロイヤリーは違法店から遠ざかり、冒険者ギルドに向かっていた。ヤコは横を飛んでいるが、特に気にされることは無い。

ヤコのような妖精や他の人ならざる存在とは契約が必要だ。しかし、それさえ満たしていれば極端な話、誰でも従える事が出来る。王都では珍しい光景ではない。

実際、冒険者や騎士の育成学校では妖精との契約を結ぶ授業もあるぐらいだ。それぐらい妖精というのは一般的な存在であり、最も契約のしやすい相手と言える。

そんなヤコとの契約内容といえば……。

「ロイヤリー?考え事?あっ。さっきの詐欺店で警備局の人来たからその人からスン貰おうとか思ってる?後悔してる?」

「あっ……。いや、警備局はイイかな。ほら。人助けしただけだし?慈善事業慈善事業!アハハハ……」

「……本音は?」

「スンめっちゃ欲しい。多分がっぽり貰える。でも警備局とかに関わるのは絶ッ対に嫌だ」

きっぱり言い切る。ロイヤリーにとって警備局や治安維持の公的機関。そして《数者》……ナンバーズとの関わりはなるべく避けたかった。

「ふぅん……まぁロイヤリーの事情があるんだろうから深くは聞かないわ。さ、それよりも冒険者ギルド見えてきたわよ」

そんなふうに駄弁っていると冒険者ギルドが見えてくる。
縦に四階構造。横は何メートルあるのか。とにかくデカい。それもそのはず。

冒険者ギルドはただ冒険者を派遣する為だけの機関ではない。優秀な冒険者を手元に置いておくために宿を併設したり、駆け出し冒険者がスンに困ってシャワーを浴びる事が出来ない……などの福利厚生がしっかり整えられているからだ。
ただし、それは王都での話であって他の冒険者ギルドは単に受注、完了、報酬。という所が多い。寧ろ王都のギルドが異常とも呼べる。

「んじゃ入りますか!たーのもー」

ロイヤリーが笑顔で扉をガラッと開けると、そこは戦場であった。

「あぁん!?テメェ、俺たちが先に依頼を受けたっつってんだろ!」

「その言葉返してやるよ!俺様たちが先に依頼を受けたんだ!すっこんでろ!」

いい歳したオッサンが喧嘩している。よくある光景だが、これは一触即発……といった感じだ。コソッとロイヤリーは端の席に行って男性冒険者に話しかける。

「なぁ、あれどういう状況……?」

するとロイヤリーが横にいたのに気づかなかったのか、唐突に話しかけられて焦ったのか。うわっ!と声を上げながら冒険者は飲んでいた飲み物を落としかけながら説明してくれる。

「ビックリした……。あ、あれかい?何か魔物……確か……グリフォンだったかな。うん。グリフォンの討伐依頼。王都の近郊にはぐれたグリフォンがいるから討伐してくれって依頼をどっちが先に受けたかって喧嘩しているんだ」

話を聞きながらなるほど、と納得する。

グリフォンは基本山奥にいる魔物であり、人を襲う事もある。だが山奥の魔物である為にその討伐は度を超えない程度……それこそ冒険者の登竜門のような存在である。
そしてグリフォンの依頼は総じて高く、上手いこと討伐すればその素材も美味しく売れる。ましてや王都の近くに一匹だけ、などこれ以上甘美な依頼はないだろう。

「ほほー。ありがとありがと!」

「いえ、どういたしまして……」

笑顔で席を立つロイヤリーに対して未だ驚いている冒険者を尻目に見ながらヤコが話しかけてくる。

「どうするの?あのままだと武器とか魔法とか使いかねないわよ?」

「それはよろしくないよな。って事で俺が依頼を貰いに行く」

「……は?はぁぁ!?」

冒険者ギルドで武器と魔法の使用は『ギルドを壊さない範疇で』許されている。つまり決闘が始まってもおかしくないという事だ。

「そういう事なら……やるしかないよなぁ?」

そう言って片方のオッサンが剣を抜く。

「俺様だってその気だぜ……せいぜい喧嘩を売ったの後悔しとけ……?」

もう片方のオッサンが背負っていた斧を前に出す。
一触即発。それを観衆が見守る中ー

「やぁやぁごきげんよう!天気もいいしグリフォンの狩りもあるなんてツイてるね!しかもはぐれ!いやぁ、旨い!」

ロイヤリーがど真ん中に突入した。ヤコは危険を察知して少し離れた場所にいる。

「……ぁ?んだとこのガキ」

「それは俺様たちの依頼だ。それともなんだ?お前もやんのか?」

案の定喧嘩している二人が注目してくる。そんな事何も気にせず、受け付けカウンターに向かう。

「すみませーん!はぐれグリフォンの依頼を受けたー」

「人の話は聞けッ!このクソガキがよォッ!」

遂にキレた斧を持ったオッサンがこちらに来て振り下ろしてくる。が……。

「こっちは受注で忙しいから邪魔しないで欲しいナー?ほら。受け付けの人も迷惑してるし?」

「な、な……」

ロイヤリーは屈んで、片手で斧の柄の部分を持ってニコニコと笑顔を浮かべたまま喋りかける。そしてそのまま空いたもう片手で握り拳を作って身体を滑らせるように移動させて鳩尾にパンチをお見舞する。

「ごふっ……!?」

その勢いで倒れた男を見ながら、もう片方のオッサンが話しかけてくる。

「敵が減って助かったぜ。……後はテメェを処理すればいいんだな?」

「やだなあ、そんな人を殺すみたいに……」

「はっ……『不慮の事故』……なら仕方ないよなぁ?」

その言葉を聞いてスっと目を鋭くさせると、冷静に言う。

「……人を殺した事も、無いくせに?」

ゾクリ。その場にいる冒険者も、受け付けも。事務も。契約している人外も。全ての存在が味わった。

背筋が凍るという感覚。無意識に張り詰めた筋肉。荒くなる、或いは止まりかける息。

ロイヤリーのその一言には、その場を支配する程の重圧がかけられていた。
無論敵対している男とて例外ではない。

(なんだ……なんだこのガキ……!剣が、剣が上手く持てねえ……ッ!本能がこのガキを相手にするなと囁いている……!そんな……バカな事がッ!)

「ぁあん!?言ったなぁ!このガキがよ!」

そう言って踏み込んだ。剣を振るった。
……はずだった。

踏み込んだ先にロイヤリーはおらず、代わりに男の後頭部に強烈な何かが叩き込まれる。

「がっ……」

そのまま、男は気絶した。周りのどよめきの中で。

ロイヤリーがした事自体は大したことではない。ただ、相手が極限状態で視界が絞られている中、その範囲から出て後ろからかかと落としをしただけの事。

しかしそれを実行するのがどれ程の速さが必要なのか。どれほどの技量が必要なのか。何より、何故躊躇いなくそんな事ができたのか……。

周囲の冒険者は分からなかった。しかし、これで一つだけ分かった。

グリフォンの依頼は、この人に任せよう、と……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...