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八
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相変わらず真剣に勉強に励む陸に、学はペンを置いた。
「ん?」
眉間に皺を寄せて熟考中だった陸は、そのままの表情で顔を上げた。
「これ以上、僕が先輩に教える必要、ないんじゃないかと思うんです」
陸は、ぴんと人差し指で消しゴムを転がした。
四月から勉強を始めて、すでに三か月が立とうとしている。陸の学力はみるみる向上し、この間の中間テストでは、ほとんどの科目で平均点以上を取っていた。
「劇的に成績は上がったと思います。年下の僕が、これ以上教えることなんて」
こんなことを言い出したのは、勉強会が嫌になったからなどではない。言葉通り、陸には学ではなく、きちんとした先生に教えてもらう方が良いと感じたからだった。
しかし、陸は肯定しなかった。消しゴムを転がして、窓の外を見た。つられて流れる雲を眺めていると、陸は「あのさ」とかすれた声で言った。
「もう、俺に教えるの嫌って思ってる?」
「そんなことはありません」
「だったらさ、お前なら三年の勉強くらい分かるんじゃねえの? 教えろよ」
「僕、一応一年なんですけど」
「お前さあ」
陸は、急に怒鳴るように声を荒げた。
「俺が、やればできるのにやらなかった理由、分かる?」
「いえ」
学は静かに首を振った。
「つまんねえからだよ。先生なんかじゃだめなんだよ。お前に教えてもらう方がやる気出るし、分かりやすい。気楽だし――」
陸は、その先の言葉を噤んだ。誤魔化すように咳をして「とにかく」と続けた。
「無理にとは言わねえけど、お前が嫌じゃないんなら続けてくれ」
「……」
学は黙った。何が陸のためになるかを考えれば、どうすべきかは明白だ。なのに、懇願するような目と、自分を必要としてくれている言葉に、学は唇を噛みしめた。
「わ、かりました」
了承してしまって、ぐるぐると色んな感情を胸の内に孕ませながら陸を見れば、満足そうに頷いていて、学はすっと胸の内が軽くなったのを感じた。
「ん?」
眉間に皺を寄せて熟考中だった陸は、そのままの表情で顔を上げた。
「これ以上、僕が先輩に教える必要、ないんじゃないかと思うんです」
陸は、ぴんと人差し指で消しゴムを転がした。
四月から勉強を始めて、すでに三か月が立とうとしている。陸の学力はみるみる向上し、この間の中間テストでは、ほとんどの科目で平均点以上を取っていた。
「劇的に成績は上がったと思います。年下の僕が、これ以上教えることなんて」
こんなことを言い出したのは、勉強会が嫌になったからなどではない。言葉通り、陸には学ではなく、きちんとした先生に教えてもらう方が良いと感じたからだった。
しかし、陸は肯定しなかった。消しゴムを転がして、窓の外を見た。つられて流れる雲を眺めていると、陸は「あのさ」とかすれた声で言った。
「もう、俺に教えるの嫌って思ってる?」
「そんなことはありません」
「だったらさ、お前なら三年の勉強くらい分かるんじゃねえの? 教えろよ」
「僕、一応一年なんですけど」
「お前さあ」
陸は、急に怒鳴るように声を荒げた。
「俺が、やればできるのにやらなかった理由、分かる?」
「いえ」
学は静かに首を振った。
「つまんねえからだよ。先生なんかじゃだめなんだよ。お前に教えてもらう方がやる気出るし、分かりやすい。気楽だし――」
陸は、その先の言葉を噤んだ。誤魔化すように咳をして「とにかく」と続けた。
「無理にとは言わねえけど、お前が嫌じゃないんなら続けてくれ」
「……」
学は黙った。何が陸のためになるかを考えれば、どうすべきかは明白だ。なのに、懇願するような目と、自分を必要としてくれている言葉に、学は唇を噛みしめた。
「わ、かりました」
了承してしまって、ぐるぐると色んな感情を胸の内に孕ませながら陸を見れば、満足そうに頷いていて、学はすっと胸の内が軽くなったのを感じた。
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