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Chapter1:名探偵と美少女と召使い

決 断

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「!真凛亜…!!」


真凛亜は起きていた。

酷く驚いた。
真凛亜が目を覚ましていることもそうだが、何より一番驚いたのは俺をパパと呼んでくれたことだった。

嬉しさのあまり真凛亜の元へ駆け寄った。


「パパのこと、思い出したのか!?」

「…ううん」


真凛亜は首を横に振った。


「そ、そうか…ならどうして俺のことパパなんて呼んだんだ?」

「え…?」

「あ、いや…別に怖がらせてるつもりはないんだ。ただ…真凛亜から見たら俺は知らないおじさんだろう?…その、怖くは…ないのか?」

「……」


ベッドの端に座って、俯きながらシーツの裾を握りしめる真凛亜。

けどすぐに俯いていた顔を上げてこう言った。



「…こわく、ないよ。わるいひとじゃないって、分かるから…」



そう言って、真凛亜は笑った。
俺に笑いかけてくれた。


「真凛亜……っ」


思わず真凛亜を抱き締めた。

…本当は怖いはずなのに。
不安で不安で、たまらないはずなのに。

こんなにも小さな身体で、こんな俺を受け入れてくれるのか。


「パパ…」


あの時…救急車で搬送する前に真凛亜を抱き締めたときは、俺が一方的に抱き締めるだけに過ぎなかった。

けど今は…真凛亜の方から抱き締め返してもらえる。

ーそうだ、俺はまだ何も失ってはいない。

真凛亜はまだ生きている。
この温もりを絶対に無くすわけにはいかない。



「………」


俺は考える。

どうすればいいか、どうすればこの状況を打開出来るのか、必死になって考えた。

医師の話によると、俺は明日にでも逮捕されると言っていた。

これは要するにあの二人組の刑事が再び病院に来るということ。

しかしそれは今日のようにただ証言を聞くために来るのではなくーー十中八九、俺を容疑者として逮捕するためだろう。

刑事自身も事実言っていた。また明日来ると、明言している。

……俺は、絶対に捕まるわけにはいかない。

逮捕されてしまえば、真凛亜はひとりぼっちになってしまう。

それに、真衣子のことも無論忘れてはならない。

刑事の話によると真衣子は意識を取り戻した後、すぐに応対したと言っていた。

病院もいつまでも入院を許してくれるわけではない。
真依子のその様子から見ても退院する日もそう遠くないはずだ。
…退院したら、自ずと母親である真衣子が真凛亜を引き取ることになるだろう。



そうなってしまえば、真凛亜は今度こそーー真衣子に殺されてしまう。



真実を知っているのは俺だけだ。
俺しか、真凛亜を守れない。

ーー守れないんだ。


だったら、だったらもう。

残された手段は、一つしかないじゃないか。


俺しか、俺にしか、真凛亜を守れない。 



ーー俺が、真凛亜を守るんだ。






「…なぁ、真凛亜。パパと一緒に…ここから逃げようか」
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