上 下
19 / 32
Chapter1:名探偵と美少女と召使い

ポット

しおりを挟む
 

オレと探偵はテーブルを挟んで、互いに向かい合った状態でソファに座った。
そのテーブルには真凛亜ちゃんにも出した可愛らしい小花柄のポットとカップが置いてあった。


「あ、お茶…飲みますか?」

「…淹れてくれるのかい?」

「・・・まあ飲みたいというなら、お出ししますけど」

「そうかい、じゃあ…お願いしようかな」


近くにあった茶葉を継ぎ足してポットに淹れた後、そのままカップに注ぐ。
…まさか、またこんな風に探偵にお茶を出すことになるなんて思わなかったな。


「すっかり召使いとして様になってきたんじゃない?」

「なっ…!別に様になんてなっていませんよ!あくまでこれは話を聞くためであって、仕方なくですっ!」

「ふ、そういうことにしておくよ」

「…調子良すぎですよ、全く…っ」


すっかり立場逆転というか、さっきまでの緊迫感が嘘みたいだ。

探偵はどことなく楽しそうだし…この人は本当に話す気があるのか?
信じると言った手前、ひくに引けないのがもどかしく感じる。


「さて、じゃあ…何から話そうかな。」

「いやそれ…悩んでる場合ですか?しっかりしてくださいよ」

「まあまあ、せっかくなんだし召使いくんも飲んだら?」

「…言われなくても、飲みますよ。自分で淹れたんですから」


探偵にそそのかされ、一口だけお茶を飲む。

…なんだか拍子抜けだ。
気が抜けてしまいそうになる。


「お茶、美味しい?」

「ええまぁ…美味しいですよ」

「なら良かった。キミはあの時飲んでなかったから、せっかくだしキミにも飲んでもらいたかったんだよ」

「はあ…」


何がしたいのだろう。
あれだけ話すと言ったくせに、一向に話が進まない。

ここまで引っ張っておいて、今更話さないなんてことは…さすがにないとは思うんだけど、少しばかり不安になる。


「………ところで、キミはそのポットとカップを見て何か疑問に思わなかった?」

「えっ?」


まさかの質問だった。
思いがけない台詞に少しだけ戸惑う。


「で、どうなの?」

「ど、どうって…別に。ただ意外な趣味だなぁくらいにしか思いませんよ」

「はは、なにそれ。面白いこというね」


探偵の意図が読めない。
お茶の話ばかりで、真凛亜ちゃんの話をしようともしない。

イラッとする気持ちを抑えつつ、オレは言葉を続けた。


「あの、何が言いたいんですか?さっきから露骨に話を逸らしてますよね」

「いや?私は逸らしているつもりはないよ」

「じゃあなんで、さっきからお茶の話ばかりするんですか?こんなの真凛亜ちゃんの話と一切関係ないじゃないですか!」

「・・・関係があるから、話しているんだよ。言わなかったかな?私は無駄なことはしない主義だって」

「は、はあ?あ、あんたほんと何言ってーー」


…可愛らしいピンクの小花柄。
見た目は完全に女の子が好みそうなデザインだ。

けどだからといって、男性が好んで持っていたところで特に疑問に思うだなんて、そんなことーー


「ッ!・・・まさか」


ここでようやくハッと気付く。
けどまさか…そんなことが?
だって、真凛亜ちゃんは…


「いやでも…それだとちょっとおかしくないですか」

「ん?おかしい?」

「だ、だってあの時の真凛亜ちゃん…明らかにって顔でしたよ?」


そう、それは確かにこの目で見たんだ。
このカップでお茶を出した時、可愛らしいカップですねって…すごく喜んでいた。

…だから、あり得ない…はずなんだ。
オレの想像していることなんて…正しいなんて、絶対に。




「だけど、実際はそうじゃない。なんたって、このポットとカップは元々、真凛亜ちゃんのものなんだから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真理の扉を開き、真実を知る 

鏡子 (きょうこ)
ミステリー
隠し事は、もう出来ません。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

35歳刑事、乙女と天才の目覚め

dep basic
ミステリー
35歳の刑事、尚樹は長年、犯罪と戦い続けてきたベテラン刑事だ。彼の推理力と洞察力は優れていたが、ある日突然、尚樹の知能が異常に向上し始める。頭脳は明晰を極め、IQ200に達した彼は、犯罪解決において類まれな成功を収めるが、その一方で心の奥底に抑えていた「女性らしさ」にも徐々に目覚め始める。 尚樹は自分が刑事として生きる一方、女性としての感情が徐々に表に出てくることに戸惑う。身体的な変化はないものの、仕草や感情、自己認識が次第に変わっていき、男性としてのアイデンティティに疑問を抱くようになる。そして、自分の新しい側面を受け入れるべきか、それともこれまでの「自分」でい続けるべきかという葛藤に苦しむ。 この物語は、性別のアイデンティティと知能の進化をテーマに描かれた心理サスペンスである。尚樹は、天才的な知能を使って次々と難解な事件を解決していくが、そのたびに彼の心は「男性」と「女性」の間で揺れ動く。刑事としての鋭い観察眼と推理力を持ちながらも、内面では自身の性別に関するアイデンティティと向き合い、やがて「乙女」としての自分を発見していく。 一方で、周囲の同僚たちや上司は、尚樹の変化に気づき始めるが、彼の驚異的な頭脳に焦点が当たるあまり、内面の変化には気づかない。仕事での成功が続く中、尚樹は自分自身とどう向き合うべきか、事件解決だけでなく、自分自身との戦いに苦しむ。そして、彼はある日、重大な決断を迫られる――天才刑事として生き続けるか、それとも新たな「乙女」としての自分を受け入れ、全く違う人生を歩むか。 連続殺人事件の謎解きと、内面の自己発見が絡み合う本作は、知能とアイデンティティの両方が物語の中心となって展開される。尚樹は、自分の変化を受け入れることで、刑事としても、人間としてもどのように成長していくのか。その決断が彼の未来と、そして関わる人々の運命を大きく左右する。

仮想空間に巻き込まれた男装少女は、軍人達と、愛猫との最期の旅をする

百門一新
ファンタジー
育て親を亡くし『猫のクロエ』を連れて旅に出た男装少女エル。しかしその矢先、少女アリスを攫った男の、暴走と崩壊の続く人工夢世界『仮想空間エリス』の再稼働に巻き込まれてしまう。 『仮想空間エリス』の破壊の任務を受けた3人の軍人と、エルはクロエと生きて帰るため行動を共にする。しかし、彼女は無関係ではなかったようで…… 現実世界で奮闘する米軍研究所、人工夢世界『仮想空間エリス』、夢世界のモノ達。それぞれの〝願い〟と、エルと軍人達もそれぞれの〝秘密〟を胸に、彼女達は終わりへ向けて動き出す。 ※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田
ミステリー
 刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!  そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。  機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!  サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか? *追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね! *他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。 *現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

神北高校事件ファイル 水攻めの密室

ずんずん
ミステリー
 神北歴史部部室前で男子生徒の死体が発見された。  部室が使用禁止になり取材旅行にも出発出来ない部員達は事件の早期解決を目指すが……。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...