上 下
28 / 29
死にたがりオーディション:一次審査

会計

しおりを挟む
 

一目でそう思った。

日本人離れした端正な顔立ちに思わず見惚れてしまう。


「あの、何か…?」

「…何か、じゃないでしょう?私の後ろを見てもまだ分からない?」

「後ろ…?」


彼女に言われるがまま後ろを覗き込むと、数人ではあるが人が並んでいるのが見えた。


「これでわかったでしょう?わかったなら、さっさと会計を終わらせて欲しいのだけど」


彼女は口調こそは物静かであったが、そこには明らかに怒気あった。

…というか、状況から見て怒っているのは彼女だけではなさそうだ。

並んでいる他のお客さんにも迷惑が掛かっている。

ここはもう…迷っている時間はない。せめて、謝らないと…!


「す、すみません!実はオレ達…お金、持ってなくて…!!」


オレと終夜くんは、頭を下げて必死に謝った。

この際、なら何でファミレスに入ったんだと言われても仕方ない。


「はあ…?なにそれ。まさかお金もないのにファミレスに来たっていうの?」


彼女は唖然としていた。
いやむしろ引いていたのかもしれない。

とにかく、この時の気まずさったら尋常じゃなかった。

彼女に言ってることは最もであり、何も言うことが出来なかった。

正論過ぎて、黙るしか他なかった。


「…っ」


きっと、店員さんも他のお客さんも、彼女と同じことを思っただろう。

みんなの視線が一気に集まり、身動き一つ取れなくなってしまう。

…まさか、こんなところで積んでしまうなんて。

まだ、オーディションすら受けてない。始まってすらいないのに…!

こんな最後なんて…

ーーと、半ば諦めかけていたその時だった。

彼女が思いがけない台詞を口にした。


「…いいわ、ならここは私が奢ってあげるわよ」

「え…?」


耳を疑った。

え、うそ?
向こうからしたらオレ達なんて見ず知らずの相手なのにもかかわらず、彼女は…いや、この美女は今なんて言った?


「い、いいんですか…?」


オレが思考を巡らせていると、終夜くんが真っ先に彼女に声を掛けた。


「いいって言ってるでしょ。それにこのままだと他のお客さんにも迷惑かかるわ。ほら、伝票かして」

「は、はい…ッ!」


オレはすかさず彼女に伝票を手渡した。


「なによこれ、あなた達…いくらお金ないといっても、ドリンクバー2人分のお金すら持ってないって一体どういうわけ!?」

「いやぁその…ね?終夜くん…」

「う、うん…」


オレと終夜くんは互いに顔を見て頷き合う。

まさか、死にたがりオーディションからのメールで手荷物不要と言われたから本当に何も持って来なかったとは言えまい…。

…あくまでスマホは別としてだけど。



「はあ…まぁいいわ。逆に言えばこれくらいで済んで良かったともいえるし」

「すみません…」

「あ、ありがとうございます…」


オレは謝り、終夜くんはお礼を彼女に言う。

半ば呆れ気味だったが、彼女は自分の分の支払いを含め本当にオレ達のドリンクバーの支払いまでしてくれた。

…つくづく思う、感謝しかない。


「さあ、終わったわよ。ほら、これ以上迷惑かけるわけにはいかないでしょ?早く出るわよ」

「は、はい…!」


思わず敬語になってしまうが、それも仕方ない。

オレ達は彼女に言われるがまま、そのファミレスを後にした。


















「あの…本当にありがとうございました」


ファミレスを出た後、オレ達は彼女に改めて礼を言った。


「いいわよ別に。もう終わったことでしょ?」

「いやそんな…だって貴方がいなければ、今頃オレ達はどうなっていたか…」

「うん…本当に…。あっもちろん、お金は後日返しますので…」

「いいわよ、別に。たかがドリンクバー2人分の値段くらい、わざわざ返さなくでもいいわ」


終夜くんはお金の返金を提案したが、何故か彼女は頑なにそれを受け入れようとはしなかった。

まさか、本当にただの親切心だけで奢ってくれたんだろうか?

てっきりオレはあの場を収めるための行為だと思っていたんだけど…


「でも…それじゃあオレ達の気がおさまらないですよ…」


オレがそう言うと、彼女は待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑った。


「そう…なら、貴方達に頼みたいことがあるの。返金はいらないから、代わりに私のお願い聞いてくれる?」


オレ達は突然の彼女の提案に不思議に思いながらも、頷いた。


「そうね…まずは自己紹介でもしようかしら。私の名前は春風優空(ハルカゼ ソラ)実は私もね、貴方達と同じように今日死にたがりオーディションの一次審査を受けるのよ」

「ええ!?」


思わず声に出た。というか普通に驚いた。

というか今、貴方達と同じようにって…!!


「…言っておくけど、貴方達の声ファミレスで丸聞こえだったわよ。お金もそうだけど、公共の場に赴く時は少しぐらい常識をわきまえないと…ねっ?」


クスッと妖しい笑み浮かべる彼女。

もちろんこれもぐうの音も出ない正論であり、オレ達ただ彼女の…いや春風さんの話をただ聞くことしか出来なかった。


「ああ…話が逸れたわね、本題に入るんだけど、お願いっていうのはね…貴方達にとある人を探して欲しいのよ」

「…とある人?」


まさかの探し人…?

でも、死にたがりオーディションの一次審査を受ける人が、何でそんなことをする必要があるんだろう?

…もしかして、春風さんもオレ達と同じように…友達紹介みたいな、誰かと一緒に受けるつもりだったのかな?


「で、どう?引き受けてくれる?」

「えっと…別にそれくらいならお安い御用ですけど…。」

「うん…どうせ僕たちもうファミレスに入れなくなっちゃったし、それなら全然」

「ありがとう。あ、それと…敬語は別にしなくていいから。奢ったこともこれでイーブンってことでいいわよね?」

「はい、もちろん…じゃなくて、うん。春風さんが、それでいいなら」

「ええ、交渉成立ね」


彼女はにっこりと微笑んだ。

ここにきてようやく彼女の本当の笑顔が見れた気がする。

…というか、普通に笑うとめちゃくちゃ可愛い。


「あの…ところでその、探して欲しい人ってどんな人なの?」


終夜くんが言った。

…たしかに、特徴がないと探しようがないか。


「…それもそうだね、例えば…性別とか背丈とか見た目の特徴とかあれば教えて欲しいかな」

「…」


オレも終夜くんに続けて彼女に尋ねてみた。

ーが、彼女は答えてくれなかった。

さっきまでの笑顔とは一変してまたもや、物静かな口調になりゆっくりと話し始めた。


「…実をいうと、私も良くの。だから、貴方達は…怪しいと思える人を見かけたら私に教えて。ただそれだけをしてくれればいいから…」

「?それはどういうーー」


彼女は濁すかのように言った。

けどあまりにも抽象的過ぎて、いくらなんでも探しようがない。

オレが少しばかり、その事について反論すると…彼女は断念したのか、更に言葉を続けた。










「……ある、事件よ…私の、…いえ、私が探している人は……よ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。 完全フィクション作品です。 実在する個人・団体等とは一切関係ありません。 あらすじ 趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。 そして、その建物について探り始める。 あぁそうさ下らねぇ文章で何が小説だ的なダラダラした展開が 要所要所の事件の連続で主人公は性格が変わって行くわ だんだーん強くうぅううー・・・大変なことになりすすぅーあうあうっうー めちゃくちゃなラストに向かって、是非よんでくだせぇ・・・・え、あうあう 読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。 もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。 大変励みになります。 ありがとうございます。

脱出ホラゲと虚宮くん

山の端さっど
ホラー
〈虚宮くん休憩中〉虚宮くんは普通の高校生。ちょっと順応性が高くて力持ちで、足が早くて回復力が高くて謎解きが得意で、ちょっと銃が撃てたり無限のアイテム欄を持つだけの……よくホラーゲームじみた異変に巻き込まれる、ごく普通の男の子、のはず。本人曰く、趣味でも特技でもない「日課」は、幾多の犠牲者の書き置きや手紙を読み解き、恐怖の元凶を突き止め惨劇を終わらせる事。……人は彼を「終わらせる者」ロキ、と呼んだりする。

【連作ホラー】幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー

至堂文斗
ホラー
――其れは、人類の進化のため。 歴史の裏で暗躍する組織が、再び降霊術の物語を呼び覚ます。 魂魄の操作。悍ましき禁忌の実験は、崇高な目的の下に数多の犠牲を生み出し。 決して止まることなく、次なる生贄を求め続ける。 さあ、再び【魂魄】の物語を始めましょう。 たった一つの、望まれた終焉に向けて。 来場者の皆様、長らくお待たせいたしました。 これより幻影三部作、開幕いたします――。 【幻影綺館】 「ねえ、”まぼろしさん”って知ってる?」 鈴音町の外れに佇む、黒影館。そこに幽霊が出るという噂を聞きつけた鈴音学園ミステリ研究部の部長、安藤蘭は、メンバーを募り探検に向かおうと企画する。 その企画に巻き込まれる形で、彼女を含め七人が館に集まった。 疑いつつも、心のどこかで”まぼろしさん”の存在を願うメンバーに、悲劇は降りかからんとしていた――。 【幻影鏡界】 「――一角荘へ行ってみますか?」 黒影館で起きた凄惨な事件は、桜井令士や生き残った者たちに、大きな傷を残した。そしてレイジには、大切な目的も生まれた。 そんな事件より数週間後、束の間の平穏が終わりを告げる。鈴音学園の廊下にある掲示板に貼り出されていたポスター。 それは、かつてGHOSTによって悲劇がもたらされた因縁の地、鏡ヶ原への招待状だった。 【幻影回忌】 「私は、今度こそ創造主になってみせよう」 黒影館と鏡ヶ原、二つの場所で繰り広げられた凄惨な事件。 その黒幕である****は、恐ろしい計画を実行に移そうとしていた。 ゴーレム計画と名付けられたそれは、世界のルールをも蹂躙するものに相違なかった。 事件の生き残りである桜井令士と蒼木時雨は、***の父親に連れられ、***の過去を知らされる。 そして、悲劇の連鎖を断つために、最後の戦いに挑む決意を固めるのだった。

幽子さんの謎解きレポート

しんいち
ミステリー
オカルトに魅了された主人公、しんいち君は、ある日、霊感を持つ少女「幽子」と出会う。彼女は不思議な力を持ち、様々な霊的な現象を感じ取ることができる。しんいち君は、幽子から依頼を受け、彼女の力を借りて数々のミステリアスな事件に挑むことになる。 彼らは、失われた魂の行方を追い、過去の悲劇に隠された真実を解き明かす旅に出る。幽子の霊感としんいち君の好奇心が交錯する中、彼らは次第に深い絆を築いていく。しかし、彼らの前には、恐ろしい霊や謎めいた存在が立ちはだかり、真実を知ることがどれほど危険であるかを思い知らされる。 果たして、しんいち君と幽子は、数々の試練を乗り越え、真実に辿り着くことができるのか?彼らの冒険は、オカルトの世界の奥深さと人間の心の闇を描き出す、ミステリアスな物語である。

【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗
ホラー
――その幻想から、逃れられるか。 降霊術。それは死者を呼び出す禁忌の術式。 歴史を遡れば幾つも逸話はあれど、現実に死者を呼ぶことが出来たかは定かでない。 だがあるとき、長い実験の果てに、一人の男がその術式を生み出した。 降霊術は決して公に出ることはなかったものの、書物として世に残り続けた。 伍横町。そこは古くから気の流れが集まる場所と言われている小さな町。 そして、全ての始まりの町。 男が生み出した術式は、この町で幾つもの悲劇をもたらしていく。 運命を狂わされた者たちは、生と死の狭間で幾つもの涙を零す。 これは、四つの悲劇。 【魂】を巡る物語の始まりを飾る、四つの幻想曲――。 【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】 「――霧夏邸って知ってる?」 事故により最愛の娘を喪い、 降霊術に狂った男が住んでいた邸宅。 霊に会ってみたいと、邸内に忍び込んだ少年少女たちを待ち受けるものとは。 【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】 「どうか、目を覚ましてはくれないだろうか」 眠りについたままの少女のために、 少年はただ祈り続ける。 その呼び声に呼応するかのように、 少女は記憶の世界に覚醒する。 【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】 「……だから、違っていたんだ。沢山のことが」 七不思議の噂で有名な流刻園。夕暮れ時、教室には二人の少年少女がいた。 少年は、一通の便箋で呼び出され、少女と別れて屋上へと向かう。それが、悲劇の始まりであるとも知らずに。 【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】 「……ようやく、時が来た」 伍横町で降霊術の実験を繰り返してきた仮面の男。 最愛の女性のため、彼は最後の計画を始動する。 その計画を食い止めるべく、悲劇に巻き込まれた少年少女たちは苛酷な戦いに挑む。 伍横町の命運は、子どもたちの手に委ねられた。

脱獄

高橋希空
ホラー
主人公は唯一の家族である母を殺人犯に殺された。そんな彼はその殺人犯がいるという最も危険な牢獄の看守に就職したが、そこにいる囚人が何者かによって開け放たれ看守だからと追われる羽目に……。一緒に船に向かっていた囚人アルマに救われ、難を逃れるが…… ※元にした原作小説はノベルアップ+と野いちごで読めます。ただ設定が全く違います。 ※NOVERDAYSと小説家になろうにて公開中

サハツキ ―死への案内人―

まっど↑きみはる
ホラー
 人生を諦めた男『松雪総多(マツユキ ソウタ)』はある日夢を見る。  死への案内人を名乗る女『サハツキ』は松雪と同じく死を望む者5人を殺す事を条件に、痛みも苦しみもなく松雪を死なせると約束をする。  苦悩と葛藤の末に松雪が出した答えは……。

叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧Ver

Tempp
ホラー
大学1年の春休み、公理智樹から『呪いの家に付き合ってほしい』というLIMEを受け取る。公理智樹は強引だ。下手に断ると無理やり呪いの家に放りこまれるかもしれない。それを避ける妥協策として、家の前まで見に行くという約束をした。それが運の悪い俺の運の尽き。 案の定俺は家に呪われ、家にかけられた呪いを解かなければならなくなる。 ●概要● これは呪いの家から脱出するために、都合4つの事件の過去を渡るホラーミステリーです。認識差異をベースにした構成なので多分に概念的なものを含みます。 文意不明のところがあれば修正しますので、ぜひ教えてください。 ●改稿中 見出しにサブ見出しがついたものは公開後に改稿をしたものです。 2日で1〜3話程度更新。 もともと32万字完結を22万字くらいに減らしたい予定。 R15はGの方です。人が死ぬので。エロ要素は基本的にありません。 定期的にホラーカテゴリとミステリカテゴリを行ったり来たりしてみようかと思ったけど、エントリの時点で固定されたみたい。

処理中です...