上 下
27 / 29
死にたがりオーディション:一次審査

話3

しおりを挟む
 

「…俺は理解出来なかった。親父ならまだしも何で母さんがって…思った。だって、おかしいだろ?母さんの遺体は警察が持っていったはずなのに、何で死んでもなお母さんがこんな目に合わなきゃならねーんだって…」

「守山、くん…」


守山くんの手は震えていた。

確かに話を聞いてみると不可解な点が多すぎるような気がする。

守山くんのお母さんは、守山くんのお父さんに殺された。

そして、そのお父さんは警察に捕まってお母さんの遺体は警察の手に渡った。

ここまでは特におかしな点はない。

だけど、問題はその先にある。


「…まさか、その資料請求がなんてこと、誰が思うかよ…」


守山くんは言った。そう…オレの気になった点はこれなんだ。

死にたがりオーディションは、生きている人間の生首だけでなく既に死んでいた人間の生首まで請求したってことになる。

しかも、その遺体は警察の手の中にあるはずなのに、こうして死にたがりオーディションによって請求されてしまった…。

…それにもかかわらず、どうして死にたがりオーディションはこうも容易く警察から遺体を徴集することが出来たんだ…?

オレが頭を抱えていると、終夜くんが突然何食わぬ顔で話し始めた。


「それってさ…多分だけど、資料の3ページに書いてあった【このオーディションは国家公認のオーディションのため法は一切関与しないものとする。】っていうのと何か関係あるんじゃないかな…?」

「え?どういうこと?」


オレは何一つ分からなかったが、守山くんは何かに気付いたらしい。


「…なあ、シューヤ?もしかしてお前が言いたいことようはこういうことなんじゃないか?その規定があるからこそ、警察は一切関与出来ないって…」

「ううん…むしろその逆。なんじゃないかなって。…だからこそ、その規定も成り立つっていうか…それにそうだと仮定すれば、お母さんの亡骸を請求出来たとしても辻褄が合うでしょ?」

「…」


ここまでの話を経て、オレ含めて守山くんも終夜くんの説明に呆気に取られていた。


「あっ…ご、ごめん…!変に喋りすぎたよね…あくまで予想だし、そんな気にしないで」

「いや…一理あるかもしれねぇ」

「え」


守山くんはそういうと、すぐさま立ち上がった。


「…ありがとな。シューヤ、トーマ。話聞いて貰えてすげー楽になった。それに、次の目的も出来た」

「次の目的?」

「ああ、俺は必ず死にたがりオーディションを合格してみせる。んでもって、母さんのこともまだまだ聞かなきゃならねーことが、たくさんあるってわかったしよ!そのためにも、まずは一次審査を突破しねーとな!」


彼は笑った。

まるで胸の突っかかりでも取れたみたいに、スッキリした表情で笑っていた。


「そういや今何時か分かるか?俺の一次審査12時からあんだけど…」

「え、そうなの?今はえっと…11時40分だから…」

「やっべ!もうそんな時間かよ!走っていかねーと!」

「…じゃあ、ここでお別れだね」

「んなしょぼくれた顔すんなよ。これ、俺の連絡先な!」


彼はそう言って一枚の紙切れを渡してきた。


「あ、ありがとう…」

「じゃあなー!お前らも絶対受かれよー!」


彼は、一言そう言い残すとそのまま一次審査の会場であるカミ塾に向かっていった。

そして、残ったオレ達はというと…。



「…ところでさ、そのジュース飲まないの?」

「え、そういう終夜くんこそ…」


そうだった。

オレ達せっかく守山くんが作ってきてくれたジュースを、まだ一口も飲んでないんだった。


「でも…飲まないと駄目、だよね…」

「た、多分…」


手元にあるのは、あの守山くん特性の真っ黒いジュース。

見た目のヤバさゆえに躊躇してしまう。

けど、オレ達はお互い初ファミレス。

残していいのか…そもそもの、かってが良く分からない。


「…いや、僕は飲むよ」

「え」


何を思ったのか、終夜くんはそれを一気に飲み干した。


「ど、どう…?」


おそるおそる尋ねてみる。


「………あれ、意外と美味しい…」

「え、嘘でしょ…?」

「いやいや嘘じゃないって。飲んでみてよ」

「う、うん…」


表情こそは不味そうに飲んでるようには見えなかった。

終夜くんに施されるまま、オレも一口飲んでみた。



「…あ、ほんとだ」


不味いどころか、普通に美味しい…!

味はなんだろう…?甘いんだけど、程かな酸味もあって…うん、とにかく美味しかった。

ひとまずオレはコップ一杯のジュースを飲むことに専念した。

ーすると。


「あー!!!」

「ーぶふぅっ?!!」


突然、終夜くんが叫ぶ。

いきなりのことに驚いてしまい、思わずジュースを吹き出してしまった。


「ちょ、ちょっと…いきなり何?」


慌てて近くにあった紙ナプキンを数枚取り、テーブルと自分の口を吹いた。



「…ねぇ、兎馬くん。僕…とんでもないことに気付いちゃった…」

「は…?気付いたって何が?」


その表情は微かに青ざめてるようにも見えた。

…え、何?もしかしてただ事じゃない…?



「僕たちさ…手荷物不要ってことで、スマホくらいしか持ってきてなかったでしょ…?」

「うん…そうだけど。それが何か……ーあっ」


ここで、ハッと気づく。

…そうだ、オレ達今…



「お金…持ってない……….」

「そ、そうだよ…ど、どうしよう!?無銭飲食だよね!?これって…」

「いやえっと…確かにこのままだとそうなってしまうような…?」


や、やばい。
終夜くんの慌てっぷりからして、非常にまずいことになっているってことは分かる。

と、とりあえず冷静に…まずは店員に事情を説明しに行こう。


「あ、あの…」

「はーい、どうしました?」


ひとまずオレ達はテーブルにあった伝票を取ってレジに向かい、店員に話をしてみることにした。


「いやその…非常に言いにくいんですけど…オレ達いま…」

「はい…?」


店員は不思議そうに、こちらを見ていた。

その視線で、より一層緊張してしまう。

い、言いにくい…!だったら何でファミレスに入ったんだって言われたら元もこうも…っ



「ーちょっと…」


と、オレ達がレジで戸惑っていると突然背後から声を掛けられた。

声にそそのかされ、後ろを振り返ると…そこには、とても綺麗な女の人が立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。 完全フィクション作品です。 実在する個人・団体等とは一切関係ありません。 あらすじ 趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。 そして、その建物について探り始める。 あぁそうさ下らねぇ文章で何が小説だ的なダラダラした展開が 要所要所の事件の連続で主人公は性格が変わって行くわ だんだーん強くうぅううー・・・大変なことになりすすぅーあうあうっうー めちゃくちゃなラストに向かって、是非よんでくだせぇ・・・・え、あうあう 読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。 もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。 大変励みになります。 ありがとうございます。

脱出ホラゲと虚宮くん

山の端さっど
ホラー
〈虚宮くん休憩中〉虚宮くんは普通の高校生。ちょっと順応性が高くて力持ちで、足が早くて回復力が高くて謎解きが得意で、ちょっと銃が撃てたり無限のアイテム欄を持つだけの……よくホラーゲームじみた異変に巻き込まれる、ごく普通の男の子、のはず。本人曰く、趣味でも特技でもない「日課」は、幾多の犠牲者の書き置きや手紙を読み解き、恐怖の元凶を突き止め惨劇を終わらせる事。……人は彼を「終わらせる者」ロキ、と呼んだりする。

【連作ホラー】幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー

至堂文斗
ホラー
――其れは、人類の進化のため。 歴史の裏で暗躍する組織が、再び降霊術の物語を呼び覚ます。 魂魄の操作。悍ましき禁忌の実験は、崇高な目的の下に数多の犠牲を生み出し。 決して止まることなく、次なる生贄を求め続ける。 さあ、再び【魂魄】の物語を始めましょう。 たった一つの、望まれた終焉に向けて。 来場者の皆様、長らくお待たせいたしました。 これより幻影三部作、開幕いたします――。 【幻影綺館】 「ねえ、”まぼろしさん”って知ってる?」 鈴音町の外れに佇む、黒影館。そこに幽霊が出るという噂を聞きつけた鈴音学園ミステリ研究部の部長、安藤蘭は、メンバーを募り探検に向かおうと企画する。 その企画に巻き込まれる形で、彼女を含め七人が館に集まった。 疑いつつも、心のどこかで”まぼろしさん”の存在を願うメンバーに、悲劇は降りかからんとしていた――。 【幻影鏡界】 「――一角荘へ行ってみますか?」 黒影館で起きた凄惨な事件は、桜井令士や生き残った者たちに、大きな傷を残した。そしてレイジには、大切な目的も生まれた。 そんな事件より数週間後、束の間の平穏が終わりを告げる。鈴音学園の廊下にある掲示板に貼り出されていたポスター。 それは、かつてGHOSTによって悲劇がもたらされた因縁の地、鏡ヶ原への招待状だった。 【幻影回忌】 「私は、今度こそ創造主になってみせよう」 黒影館と鏡ヶ原、二つの場所で繰り広げられた凄惨な事件。 その黒幕である****は、恐ろしい計画を実行に移そうとしていた。 ゴーレム計画と名付けられたそれは、世界のルールをも蹂躙するものに相違なかった。 事件の生き残りである桜井令士と蒼木時雨は、***の父親に連れられ、***の過去を知らされる。 そして、悲劇の連鎖を断つために、最後の戦いに挑む決意を固めるのだった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幽子さんの謎解きレポート

しんいち
ミステリー
オカルトに魅了された主人公、しんいち君は、ある日、霊感を持つ少女「幽子」と出会う。彼女は不思議な力を持ち、様々な霊的な現象を感じ取ることができる。しんいち君は、幽子から依頼を受け、彼女の力を借りて数々のミステリアスな事件に挑むことになる。 彼らは、失われた魂の行方を追い、過去の悲劇に隠された真実を解き明かす旅に出る。幽子の霊感としんいち君の好奇心が交錯する中、彼らは次第に深い絆を築いていく。しかし、彼らの前には、恐ろしい霊や謎めいた存在が立ちはだかり、真実を知ることがどれほど危険であるかを思い知らされる。 果たして、しんいち君と幽子は、数々の試練を乗り越え、真実に辿り着くことができるのか?彼らの冒険は、オカルトの世界の奥深さと人間の心の闇を描き出す、ミステリアスな物語である。

【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗
ホラー
――その幻想から、逃れられるか。 降霊術。それは死者を呼び出す禁忌の術式。 歴史を遡れば幾つも逸話はあれど、現実に死者を呼ぶことが出来たかは定かでない。 だがあるとき、長い実験の果てに、一人の男がその術式を生み出した。 降霊術は決して公に出ることはなかったものの、書物として世に残り続けた。 伍横町。そこは古くから気の流れが集まる場所と言われている小さな町。 そして、全ての始まりの町。 男が生み出した術式は、この町で幾つもの悲劇をもたらしていく。 運命を狂わされた者たちは、生と死の狭間で幾つもの涙を零す。 これは、四つの悲劇。 【魂】を巡る物語の始まりを飾る、四つの幻想曲――。 【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】 「――霧夏邸って知ってる?」 事故により最愛の娘を喪い、 降霊術に狂った男が住んでいた邸宅。 霊に会ってみたいと、邸内に忍び込んだ少年少女たちを待ち受けるものとは。 【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】 「どうか、目を覚ましてはくれないだろうか」 眠りについたままの少女のために、 少年はただ祈り続ける。 その呼び声に呼応するかのように、 少女は記憶の世界に覚醒する。 【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】 「……だから、違っていたんだ。沢山のことが」 七不思議の噂で有名な流刻園。夕暮れ時、教室には二人の少年少女がいた。 少年は、一通の便箋で呼び出され、少女と別れて屋上へと向かう。それが、悲劇の始まりであるとも知らずに。 【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】 「……ようやく、時が来た」 伍横町で降霊術の実験を繰り返してきた仮面の男。 最愛の女性のため、彼は最後の計画を始動する。 その計画を食い止めるべく、悲劇に巻き込まれた少年少女たちは苛酷な戦いに挑む。 伍横町の命運は、子どもたちの手に委ねられた。

脱獄

高橋希空
ホラー
主人公は唯一の家族である母を殺人犯に殺された。そんな彼はその殺人犯がいるという最も危険な牢獄の看守に就職したが、そこにいる囚人が何者かによって開け放たれ看守だからと追われる羽目に……。一緒に船に向かっていた囚人アルマに救われ、難を逃れるが…… ※元にした原作小説はノベルアップ+と野いちごで読めます。ただ設定が全く違います。 ※NOVERDAYSと小説家になろうにて公開中

処理中です...