上 下
1 / 29
死にたがりオーディション

始動

しおりを挟む


オレの名前は月鎖兎馬(ツキクサ トウマ)
どこにもいる普通の高校生だ。

…いやオレの場合は一般の、普通以下かな。

男子高校生にしては低い身長で158㎝しかないし、体力的にも圧倒的に他の男子より身体も弱かった。
オマケに頭もさほど良くないときた。

だからこそ、オレは格好の的だったんだ。
…単にいじめやすいという理由で学校ではいつもいじめられていた。

毎日毎日、影で陰口を言われるがままだ。
もちろん学校には友達なんて呼べる人はいなかった。


「はぁ…今日もつまんなかったな…」


学校はつまらない。
そりゃあこんな毎日を過ごしているんだから、楽しいわけないよね。
最初は嫌で嫌で仕方なくて、学校なんて行きたくなかったけど…今は意外とそうでもないんだ。

こんなオレでも密かに楽しいと思えることが出来たんだよ。



「ーあ、兎馬くん!」

「ごめん、待った?」

「ううん、じゃあいこっか」

「うん!」


学校の校門から出ると、彼がいつものようにオレを待っていてくれた。

そう、これがオレの楽しみの一つ。

彼…入原終夜(イリハラ シュウヤ)くんとは、塾で知り合った。
学校は違うけど、少しずつ話していくうちに気があって、今となってはこうして一緒に塾へ行くくらい仲良くなった。


「ごめんね、終夜くん。いつも迎えに来てもらっちゃって」

「え、いいよそんなの。僕が好きで来てるだけだから」

「そう?ならいいんだけど」

「うん!だって、兎馬くんは大事な友達だから…これくらい全然平気だよ」


そう言って、終夜くんは笑う。

ほんと…終夜くんは優しい。
笑うとふにゃっとした顔になるところとか、男のオレから見ても可愛いなって思う。

別にオレはソッチのけがあるわけじゃないけど、唯一出来た大切な友達だからこそ、余計にこんなことを思うのかもしれない。



「?どうしたの…?なんか顔、赤いけど…」

「別に何も。それよりもさ、終夜くん…なんか元気ない?」

「え…そう…かな?」

「いやオレの気のせいだったらいいんだけど…無理して笑ってるように見えたから…」

「…」


オレがそういうと終夜くんは俯いて、そのまま黙り込んでしまった。


「えと…無理に言わなくてもいいから。オレも…終夜くんの気持ち、分からないわけじゃないから…」


そう、学校で上手くいっていないのはオレだけじゃない。

それは終夜くんも一緒だった。

彼もまた学校でいじめられていた。

しかも、そのいじめは単なる陰口だけでないらしくて…詳しい内容はまだ聞いてないから分からないんだけど相当酷いらしい。


「終夜くん…?」

「…」


何故か終夜くんは黙ったまま、その場から動こうとはしなかった。



「ご、ごめん…余計なこと言っちゃったね。ほら早く行かないと塾に遅刻しちゃうよ?」


こういうところが多分、オレがいじめられる原因の一つなのかもしれない。

無闇に聞いていい話でもないってことくらいちょっと考えれば分かるはずなのに、どうしてオレはこうも無神経なんだろうか。

とにかく、今のオレに出来ることは今の話の流れを変えるくらいだ。

そ、そうだ。
せめて塾に着くまでの間に楽しい話でもしたら、終夜くんの気を紛らわすことくらい出来るかも。


「あ、そだ。せっかくだしアニメの話とかする?」


オレはさっきの話をなかったようにするかのようにするべく出来るだけ明るく、終夜くんに話しかけた。


「………兎馬くん」


オレの気持ちが届いたのか、終夜くんはやっと答えてくれた。


…けど、その後に続く言葉はオレの思い描いた答えとは全く違っていた。









「………………あのさ、死にたがりオーディションって知ってる?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

藁人間

spell breaker!
ホラー
介護老人保健施設に入居しているわしにとって、レクリエーションの時間は苦痛でしかない。 レクをやりすごしていたとき、新人介護職員である靖川まなみがやってきて、マンツーマンでお話しましょうと持ちかけてきた。 そこでわしはかつての職業を鍵師であったことを明かし、現役のころの数奇なできごとを語る。 そのうち、わしは平衡感覚を失っていくのだった……。 ※本作は『小説家になろう』様でも公開しております。

【短編集】何処かの誰か

るくぶる
ホラー
何処かの誰かにあったかもしれない話 気が向いたら更新 小説初心者なんで拙い文になってますがよろしくお願いします

オーデション〜リリース前

のーまじん
ホラー
50代の池上は、殺虫剤の会社の研究員だった。 早期退職した彼は、昆虫の資料の整理をしながら、日雇いバイトで生計を立てていた。 ある日、派遣先で知り合った元同僚の秋吉に飲みに誘われる。 オーデション 2章 パラサイト  オーデションの主人公 池上は声優秋吉と共に収録のために信州の屋敷に向かう。  そこで、池上はイシスのスカラベを探せと言われるが思案する中、突然やってきた秋吉が100年前の不気味な詩について話し始める  

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

処理中です...