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唐突マリッジ
社交界デビュー前のえげつない噂と魔女ネーム
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〖社交界一の嫌われ者マクシミリアン・アダム・ジュール男爵の唐突過ぎる隠居-突然降ってきた爵位、新ジュール男爵の正体-〗
「話を聞かせてもらいたいな、パトリシア」
朝ご飯を食べて、さて魔法の練習だと張り切っていたらパパンに呼び出された。
ぶつくさと文句を盛大に吐き捨てつつ、パパンと対峙するようにソファに座った途端にバサリと置かれた今朝の新聞。
見出しには太文字であの排泄物男爵サマが隠居した事を報じていた。
細かい文字を追うと、どうやら排泄物男爵はお仲間のサロンでポーカーを楽しんでいたところ急に叫び出したのだとか。
幻覚でも見てたのかな?
たとえばお仲間の持ってるカードの絵柄が動き出してご自慢だったらしい行為を延々と流し始めて"オマエ人間じゃねえ"みたいな感じでめちゃくちゃ責められてボコボコにされたり、カードを持つ手の中で何か蠢いてる気がすると思ったら皮膚を食い破ってボコボコ湧いて出る蛆虫でも見えたのかな?
それとも寝ようとしたら枕元で延々と被害者達の恨みつらみの混じったうめき声が聞こえてくるもんだから寝れなくなっちゃって気が狂ったのかな?(すっとぼけ)
「お父様、私がかのジュール男爵のご隠居に関わっていると本気でお思いですか?面識もない男爵サマのご隠居に?」
「……パトリシア、魔法を使うと痕跡が残ることはフランから聞いてないのかい?」
「言っていたような、言っていなかったような……すみません、最近は魔力の回復方法の模索に夢中でたまに教えてもらったことがすっぽ抜けてしまうことがあるのです」
「魔力の回復方法を探らなければならないほどに魔力を消費したのかい?」
やっべ、墓穴掘った。
そう、何を隠そうかの排泄物男爵にうっかり、うっかり向いてしまった私の練習中の魔法"幻覚魔法(強)"と"死霊の橋渡し"が思いのほか魔力を食ったものだから、魔法を撃った日から2週間が経過した今も全体の2割しか回復していないのだ。
「違いますよ~、お師匠に魔力の回復方法を探しておけと言われたからですよ~。そりゃああれですよ?新しい魔法を開発しましたし、それを試してみようと思って的に当ててみましたけども、男爵に当たったかは分かりませんよ?」
「たまたま新しい魔法を試したら、たまたま男爵に当たってしまった……と……?」
「そうなりますね、男爵も不運ですね未完成の魔法が二つも、しかも1つは不安定なものでしたからね……」
「……分かった、陛下にはそう伝えておく……」
結果としてお咎めなしとはならなかった。
2ヶ月、離れでの魔法行使禁止と2週間以内で魔力回復方法を見つけること、そして……。
「ごきげんよう、アイヒベルク侯爵令嬢」
「お話ができるなんて光栄ですわ」
「ごきげんよう……アイヒベルク侯爵が娘、パトリシア・アイヒベルクです」
社交界デビューの下準備と称した王妃様主催のお茶会参加の罰が下された。
(帰りてぇ~!!!)
何を隠そう、前世から重度の出不精&ヲタクで人見知りLvMAXな私は来て早々帰宅したい欲が天元突破していた。
だって、出てくる話出てくる話全部親の自慢か婚約者の自慢だけなんだもん!
マウントトークしかしてねえんだもんコイツら!
適当にニコニコしながら茶飲んでると、案の定マウントの矛先がこちらにも向いた。
「ところでパトリシア様は魔法を扱えるとお聞きしたのですが、本当なのでしょうか?」
「えぇ……まぁ……まだまだ不安定ですが」
私の言葉に同じテーブルに座るご令嬢方が一気に色めき立った。
理由は昨日お師匠から聞いた。
この世界では魔法が使える人材は世界人口の5分の2、割と稀有な存在らしく、さらに女性で魔法を新しく作ることが出来る人材ーつまり魔女と呼ばれる存在ーは歴史的にも1000人~3000人の値を超えることが無いぐらいに超激レア存在なのだそうな。
つまりそんな超激レア存在な私と知り合えたということは、他のテーブルについているご令嬢方にさらにマウントが取れる、と思っているかは定かでは無いが両手を擦り合わせているような仕草を見るに当たらずとも遠からずと言ったところだろう。
(こういうのが嫌だったんだよな……)
「魔法は使えて当然よね、だってこの間ジュール男爵にかけられた魔法はあなたのものだったんだもの」
背後から嫌味ったらしいような鈴を転がしたような可愛らしくもトゲトゲしさも感じさせる声色が聞こえた。
こちらに来た人物を見つけた途端、同じテーブルに座るご令嬢方がサッと立ち上がり礼儀正しくカーテシーの姿勢を取った。
ご令嬢方に一拍遅れて私も立ち上がり、声の主の顔を初めて確認すると同時にカーテシーを取った。
「カーテシーまで素晴らしいなんて、教育が行き届いているのね」
(こういうのも嫌だったんだよな……
Ҩ(´-ω-`))
貴族令嬢のマナーは、まず母親が基礎を叩き込みそれから家庭教師がつくのが一般的とされている。
私の場合、言わずもがな基礎から家庭教師についてもらった。
私が母親に蛇蝎のごとく嫌われていて、父親に溺愛されていることは皆噂程度には知っている。
つまり、今私の目の前でふんぞり返って、嫌味ったらしく、こちらを見下す命知らずは分かっていて教育が行き届いていると言っているのだ。
「本当にさぞかし素晴らしい教育だったのでしょう。恥を知らずにエレオノーラ様に並ぼうとしているなんて」
「アメリア、魔女というのはなりたくてなるものではないの。私だって選べるとしたら魔女になんてなりたくなかったのよ、それは彼女も一緒だと思うわ。そうでしょう?えっと……」
「アイヒベルク侯爵が次女、パトリシア・アイヒベルクです」
優雅に人のつつかれたくないところをそうと分からないように突いてくる彼女はエレオノーラ・ヴァレンシュタイン第一王女、このヘデラ国で最も高貴な魔女として知られるヴァレンシュタイン王家、そしてヘデラ国唯一の魔女だった人だ。
「そうそう、パトリシア嬢だったわね。ジュール男爵にかけられた魔法は素晴らしいものだったわ。ところでフラン様は相変わらずなのかしら」
「相変わらずがどのような状態を指すのか分かりかねますが、たまに来ては宿題を出されたり、散歩がてらに侯爵領の人気のない場所で魔法の練習を見てくださる程度でございます。師匠もお忙しい身ですので」
「そう、相変わらずみたいで安心したわ。そろそろ失礼させていただくわね、これ以上はお母様に叱られてしまいますもの」
ごきげんようと優雅な仕草を崩すとこなく、会場から歩き去るエレオノーラ王女、きっと王妃様も彼女が会場に来たことには気づいていて目を瞑っていたのだろうと推察される。
最初から最後まで私に対する嫌味満載な初対面だった。
彼女は私とは違って、魔女であると判明しても母親から不倶戴天の感情を向けられることも罵詈雑言を浴びせられることもなく育ったのだから。
「……呪いを期待してのことか?どちらにせよめんどくさいからやらないけど、興味無いし」
魔女として勉強始めてすぐにお師匠に叩き込まれた技術の一つに人を呪う方法の数々があった。
学んでやりたいと思ったかどうかの答えはやりたいと思えるほど興味が湧かなかったと答えさせていただこう。
あんなめんどくさい手順いっぱいある上に効果がショボイやり方なんぞやるだけ無駄だわ。
あと純粋に興味無い、やるほどの興味が湧かない、やって得られる快感もどうせない、つまりやるだけ無駄。
「呪い?!」
「王女様にですか?!」
「おそらくですが、魔女としての格を測りたかったのではないかと。それには呪詛はうってつけですから、もし私がやらないとしても向こうが飛ばしてこないとも限りませんし」
"人を呪わば穴二つ"それはこの世界でも同様であった。
お師匠に聞いたところによると、魔女として魔法使いとしての格というか階級とでも言うのだろうか、どこの世界でも存在するヤツを用いて相手を推し量るアレで、階級を決める方法として一番手っ取り早いのは相手を呪うことである。
その呪いの強さ、そして呪い返しの難易度などで格が決まるらしい。
「私が産まれるまでおよそ7年間、王国唯一の魔女として持て囃されたでしょうから、自分が格上であると証明したいのではないかと。まあ欠片も興味が湧きませんが」
そう、エレオノーラ王女は私の7つ上の14歳。
来年この国を訪問するらしい、帝国の第二王太子殿下との婚約予定にある彼女は帝国のマナーを叩き込まなければならない立場にあるため呪いやら、呪い返しやらをやる時間など本当はない。
だからといって、刺激がある訳でもない勉強の時間に費やせる程彼女は我慢強い性格でもないようで、たまにお師匠に呪いを飛ばしては呪い返しをされているらしい。
「お師匠が呪い返ししかしてこないからつまらないのでしょう。日常の刺激を欲して私に呪いをかけさせようとでもしたのかと」
「パトリシア様はそんな誘いを突っぱねたのですか!?」
「ええ、本当に呪いというのは手順が多いのです。それに得られるものもわずかな上に呪い返しも下手をすると命を落としますからね、やるだけ無駄なのですよ」
その後適当にご令嬢方をあしらいつつ、なあなあにお茶会を終わらせて帰宅した。
それから2週間後、パパンの言いつけ通りにちゃんと色々な貴族の方々が開催するサロンやらなんやらに顔を出していたのに、また私はパパンに呼び出された。
〖アイヒベルク侯爵次女パトリシア嬢、ジュール前男爵のみならずエレオノーラ第一王女にも呪いを?!〗
「パティ……?」
「事実無根です。ジュール前男爵にかけたのは魔法であって呪いではありません。確かに魔女や魔道士はコミュニケーションツールかのように呪い合うこともございますが、私はめんどくさいのでやらないと決めています。そもそも呪いをかけておられるのはエレオノーラ様の方です」
「なんだって?」
「対象は私ではなく、お師匠の方ですが」
私の発言に頭を抱えたパパンに同情しかない。
「ジュール前男爵に魔法をかけたのは事実なんだね……?」
「……あ……」
やっちゃったZE☆
「で、お説教されたのね?」
「りふじんです……」
「どこがよ、自白したのはアンタでしょ」
結局パパンに2時間程お説教された。
なんならこれから多分パパンに頼まれたお師匠からもお説教される気しかしない。
「それでアンタに関する噂が流れてんのね」
「噂?」
「アンタが呪いを見境なくかけまくる魔女だとか、父親も呪いでアンタを溺愛するように仕向けてるとか、国家転覆を狙ってるとか色々ね」
「なんですかそれ……社交界こっわ……」
まさに疾風怒濤。
あっという間に話は大きくなり、尾ひれ背びれが付きまくる。
真偽はどうであれ、公然の事実となって行く。
それが社交界の噂というもの。
「半分はどうせあの子でしょ、アタシが構わなくなったからね。もう半分は暇だったからでしょうけど」
「私どっちかって言ったら被害者なのでは?」
「アンタは巻き込まれに行った方でしょ」
「産まれただけなのに目の敵にされて、挙句の果てにはお父様のコネでついていただいた師匠すらも奪ったとか思われているのにですか?」
「あの子に関することは同情するけど、ジュール前男爵に魔法放ったのは事実でしょ」
まぁ確かに魔法のつもりが呪いぐらいのクオリティになってしまったことは反省してる。
だけど言わせて欲しい。
私が魔法ぶっぱなさなくても、いずれ誰かが呪いやらなんやらやってたから!
そのぐらいのことを平然としてきた人よ?
なんならあの後、現ジュール男爵と思しき人から手紙来たからね?めちゃくちゃ便箋いっぱいあるからなんだと思ったらまさかの領民の子供たち(現ジュール男爵の采配で学校ができたらしい)からのお手紙でビビり散らかしたからね?
「で?魔力回復してるみたいだけど、見つかったの?」
「……はい……」
「めちゃくちゃ嫌そうね……なんだったの?」
「……くです……」
「なんて?」
「毒……です……」
この世界の魔法使いや魔女は得意な魔法や魔力の回復方法がアイコンみたいな役割を持っているらしく、"○○の魔女"、"○○の魔法使い"みたいに名乗れば大体通じるらしい。
例えばお師匠はハーブが魔力回復のファクターの為、名乗る時は"香草の魔法使い"と名乗っているらしい。
つまり何が言いたいのかと言うと……
「香草の魔法使いフランソワ・カロン様、改めてご挨拶申し上げます。毒の魔女パトリシア・アイヒベルクです……」
今後その魔女ネームは一生付いてくる上にさらにとんでもない噂が流れることが決定した瞬間っつーことである。
毒て……
毒て!!
まぁね?!私もそれはねえだろと思って、侯爵家お抱えの薬師に体に負担の少ない毒調合してもらって、グビっと飲んだら魔力が回復しやがるんだもん!!
まさかと思って、庭の一角でひっそりと栽培してたベラドンナ(有毒植物)の実をパクッといったら回復したからもう諦めたよね……
そんな私の魔女としての名前が"毒の魔女"なんて仰々しいものになった日からあっという間に社交界に駆け巡った私の魔女ネームは、やはりとんでもない噂を呼び込むかと思いきや、周りの反応は予想とは違うものだった。
「パトリシア様は毒で魔力を回復なさるんですよね、ということは毒は全て効かない体ということなのでしょうか?」
王妃様主催のお茶会で同じテーブルについたブリュール伯爵家のご令嬢レティシアにされた質問に、一瞬身構える。
毒の魔女になったということはつまり、ありとあらゆる毒が効かない体ということ。
よくて毒味役として終身雇用、悪ければ新しい毒の開発の片棒を担がされるかも分からない。
ブリュール伯爵家は長年王室付き医務官を排出する家、レティシア嬢も女性の身でありながらブリュール伯爵から直々に医学を学んだ才女ということはとても有名な話だ。
「えぇ、ポーションの研究や魔法の研究の一貫で育てていた毒草で試したところ、毒性が強ければ強いほど魔力の回復量が増えるようで、むしろ死ぬどころか健康になる始末です」
正直に答えればドン引きされるだろうけど、それはそれでいいや、合法的に引きこもれるし。
「あの!!私が作った毒入り料理を味見してみてくださいませんか!!」
まさかのドン引きされるどころかめちゃくちゃ目をキラキラさせてとんでもないことを言われるとは、思ってもみなかった反応に貴族令嬢にあるまじき顔をしてしまったよね。
もうマジ( ゚д゚)ポカーンって顔。
「それは……なぜ?」
なんて聞こうもんなら、めちゃくちゃキラキラしたオーラをまといながら教えてもらえましたよ。
曰く、昨今の毒は無味無臭、もしくは甘い匂いやらなんやらでおいしそうなものが多くなってきている。
無味無臭ならばともかく、おいしそうな毒はマズイ(おいしそうなら食べても平気とか気が付かずに食べて毒で( -_-)/Ωチーンなんてこともしばしば)だから彼女は不味くなる組み合わせの開発に乗り出したとの事、毒に特定の何かを混ぜたら不味くなり、毒が入っていなければ美味しくなる食材を模索しているのだけど、なんせ毒が入っているとわかっていて食べてくれる人なぞ居らん。
そこで、私の魔力の回復方法が毒だと知った、つまり私なら毒食っても死なん、つまり実験には最適!
ということらしい……
「……わかりました、実は家で食べられる毒にも限りがありまして、困っていたんです」
「本当ですか?!ありがとうございます!!本当に嬉しい……何からがいいかしら、そういえば昨日港から毒の魚が届きましてその肝からいかがかしら、あぁでもベラドンナを使ったベリーパイの方がいい?」
「落ち着いてください、私はほかの方とは違って逃げませんから」
まさかこれがきっかけでレティシア嬢と親友となるなんて知る由もなく、しこたま毒料理を食べて感想を伝え、魔力カンストするまで回復しましたとさ……
「話を聞かせてもらいたいな、パトリシア」
朝ご飯を食べて、さて魔法の練習だと張り切っていたらパパンに呼び出された。
ぶつくさと文句を盛大に吐き捨てつつ、パパンと対峙するようにソファに座った途端にバサリと置かれた今朝の新聞。
見出しには太文字であの排泄物男爵サマが隠居した事を報じていた。
細かい文字を追うと、どうやら排泄物男爵はお仲間のサロンでポーカーを楽しんでいたところ急に叫び出したのだとか。
幻覚でも見てたのかな?
たとえばお仲間の持ってるカードの絵柄が動き出してご自慢だったらしい行為を延々と流し始めて"オマエ人間じゃねえ"みたいな感じでめちゃくちゃ責められてボコボコにされたり、カードを持つ手の中で何か蠢いてる気がすると思ったら皮膚を食い破ってボコボコ湧いて出る蛆虫でも見えたのかな?
それとも寝ようとしたら枕元で延々と被害者達の恨みつらみの混じったうめき声が聞こえてくるもんだから寝れなくなっちゃって気が狂ったのかな?(すっとぼけ)
「お父様、私がかのジュール男爵のご隠居に関わっていると本気でお思いですか?面識もない男爵サマのご隠居に?」
「……パトリシア、魔法を使うと痕跡が残ることはフランから聞いてないのかい?」
「言っていたような、言っていなかったような……すみません、最近は魔力の回復方法の模索に夢中でたまに教えてもらったことがすっぽ抜けてしまうことがあるのです」
「魔力の回復方法を探らなければならないほどに魔力を消費したのかい?」
やっべ、墓穴掘った。
そう、何を隠そうかの排泄物男爵にうっかり、うっかり向いてしまった私の練習中の魔法"幻覚魔法(強)"と"死霊の橋渡し"が思いのほか魔力を食ったものだから、魔法を撃った日から2週間が経過した今も全体の2割しか回復していないのだ。
「違いますよ~、お師匠に魔力の回復方法を探しておけと言われたからですよ~。そりゃああれですよ?新しい魔法を開発しましたし、それを試してみようと思って的に当ててみましたけども、男爵に当たったかは分かりませんよ?」
「たまたま新しい魔法を試したら、たまたま男爵に当たってしまった……と……?」
「そうなりますね、男爵も不運ですね未完成の魔法が二つも、しかも1つは不安定なものでしたからね……」
「……分かった、陛下にはそう伝えておく……」
結果としてお咎めなしとはならなかった。
2ヶ月、離れでの魔法行使禁止と2週間以内で魔力回復方法を見つけること、そして……。
「ごきげんよう、アイヒベルク侯爵令嬢」
「お話ができるなんて光栄ですわ」
「ごきげんよう……アイヒベルク侯爵が娘、パトリシア・アイヒベルクです」
社交界デビューの下準備と称した王妃様主催のお茶会参加の罰が下された。
(帰りてぇ~!!!)
何を隠そう、前世から重度の出不精&ヲタクで人見知りLvMAXな私は来て早々帰宅したい欲が天元突破していた。
だって、出てくる話出てくる話全部親の自慢か婚約者の自慢だけなんだもん!
マウントトークしかしてねえんだもんコイツら!
適当にニコニコしながら茶飲んでると、案の定マウントの矛先がこちらにも向いた。
「ところでパトリシア様は魔法を扱えるとお聞きしたのですが、本当なのでしょうか?」
「えぇ……まぁ……まだまだ不安定ですが」
私の言葉に同じテーブルに座るご令嬢方が一気に色めき立った。
理由は昨日お師匠から聞いた。
この世界では魔法が使える人材は世界人口の5分の2、割と稀有な存在らしく、さらに女性で魔法を新しく作ることが出来る人材ーつまり魔女と呼ばれる存在ーは歴史的にも1000人~3000人の値を超えることが無いぐらいに超激レア存在なのだそうな。
つまりそんな超激レア存在な私と知り合えたということは、他のテーブルについているご令嬢方にさらにマウントが取れる、と思っているかは定かでは無いが両手を擦り合わせているような仕草を見るに当たらずとも遠からずと言ったところだろう。
(こういうのが嫌だったんだよな……)
「魔法は使えて当然よね、だってこの間ジュール男爵にかけられた魔法はあなたのものだったんだもの」
背後から嫌味ったらしいような鈴を転がしたような可愛らしくもトゲトゲしさも感じさせる声色が聞こえた。
こちらに来た人物を見つけた途端、同じテーブルに座るご令嬢方がサッと立ち上がり礼儀正しくカーテシーの姿勢を取った。
ご令嬢方に一拍遅れて私も立ち上がり、声の主の顔を初めて確認すると同時にカーテシーを取った。
「カーテシーまで素晴らしいなんて、教育が行き届いているのね」
(こういうのも嫌だったんだよな……
Ҩ(´-ω-`))
貴族令嬢のマナーは、まず母親が基礎を叩き込みそれから家庭教師がつくのが一般的とされている。
私の場合、言わずもがな基礎から家庭教師についてもらった。
私が母親に蛇蝎のごとく嫌われていて、父親に溺愛されていることは皆噂程度には知っている。
つまり、今私の目の前でふんぞり返って、嫌味ったらしく、こちらを見下す命知らずは分かっていて教育が行き届いていると言っているのだ。
「本当にさぞかし素晴らしい教育だったのでしょう。恥を知らずにエレオノーラ様に並ぼうとしているなんて」
「アメリア、魔女というのはなりたくてなるものではないの。私だって選べるとしたら魔女になんてなりたくなかったのよ、それは彼女も一緒だと思うわ。そうでしょう?えっと……」
「アイヒベルク侯爵が次女、パトリシア・アイヒベルクです」
優雅に人のつつかれたくないところをそうと分からないように突いてくる彼女はエレオノーラ・ヴァレンシュタイン第一王女、このヘデラ国で最も高貴な魔女として知られるヴァレンシュタイン王家、そしてヘデラ国唯一の魔女だった人だ。
「そうそう、パトリシア嬢だったわね。ジュール男爵にかけられた魔法は素晴らしいものだったわ。ところでフラン様は相変わらずなのかしら」
「相変わらずがどのような状態を指すのか分かりかねますが、たまに来ては宿題を出されたり、散歩がてらに侯爵領の人気のない場所で魔法の練習を見てくださる程度でございます。師匠もお忙しい身ですので」
「そう、相変わらずみたいで安心したわ。そろそろ失礼させていただくわね、これ以上はお母様に叱られてしまいますもの」
ごきげんようと優雅な仕草を崩すとこなく、会場から歩き去るエレオノーラ王女、きっと王妃様も彼女が会場に来たことには気づいていて目を瞑っていたのだろうと推察される。
最初から最後まで私に対する嫌味満載な初対面だった。
彼女は私とは違って、魔女であると判明しても母親から不倶戴天の感情を向けられることも罵詈雑言を浴びせられることもなく育ったのだから。
「……呪いを期待してのことか?どちらにせよめんどくさいからやらないけど、興味無いし」
魔女として勉強始めてすぐにお師匠に叩き込まれた技術の一つに人を呪う方法の数々があった。
学んでやりたいと思ったかどうかの答えはやりたいと思えるほど興味が湧かなかったと答えさせていただこう。
あんなめんどくさい手順いっぱいある上に効果がショボイやり方なんぞやるだけ無駄だわ。
あと純粋に興味無い、やるほどの興味が湧かない、やって得られる快感もどうせない、つまりやるだけ無駄。
「呪い?!」
「王女様にですか?!」
「おそらくですが、魔女としての格を測りたかったのではないかと。それには呪詛はうってつけですから、もし私がやらないとしても向こうが飛ばしてこないとも限りませんし」
"人を呪わば穴二つ"それはこの世界でも同様であった。
お師匠に聞いたところによると、魔女として魔法使いとしての格というか階級とでも言うのだろうか、どこの世界でも存在するヤツを用いて相手を推し量るアレで、階級を決める方法として一番手っ取り早いのは相手を呪うことである。
その呪いの強さ、そして呪い返しの難易度などで格が決まるらしい。
「私が産まれるまでおよそ7年間、王国唯一の魔女として持て囃されたでしょうから、自分が格上であると証明したいのではないかと。まあ欠片も興味が湧きませんが」
そう、エレオノーラ王女は私の7つ上の14歳。
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だからといって、刺激がある訳でもない勉強の時間に費やせる程彼女は我慢強い性格でもないようで、たまにお師匠に呪いを飛ばしては呪い返しをされているらしい。
「お師匠が呪い返ししかしてこないからつまらないのでしょう。日常の刺激を欲して私に呪いをかけさせようとでもしたのかと」
「パトリシア様はそんな誘いを突っぱねたのですか!?」
「ええ、本当に呪いというのは手順が多いのです。それに得られるものもわずかな上に呪い返しも下手をすると命を落としますからね、やるだけ無駄なのですよ」
その後適当にご令嬢方をあしらいつつ、なあなあにお茶会を終わらせて帰宅した。
それから2週間後、パパンの言いつけ通りにちゃんと色々な貴族の方々が開催するサロンやらなんやらに顔を出していたのに、また私はパパンに呼び出された。
〖アイヒベルク侯爵次女パトリシア嬢、ジュール前男爵のみならずエレオノーラ第一王女にも呪いを?!〗
「パティ……?」
「事実無根です。ジュール前男爵にかけたのは魔法であって呪いではありません。確かに魔女や魔道士はコミュニケーションツールかのように呪い合うこともございますが、私はめんどくさいのでやらないと決めています。そもそも呪いをかけておられるのはエレオノーラ様の方です」
「なんだって?」
「対象は私ではなく、お師匠の方ですが」
私の発言に頭を抱えたパパンに同情しかない。
「ジュール前男爵に魔法をかけたのは事実なんだね……?」
「……あ……」
やっちゃったZE☆
「で、お説教されたのね?」
「りふじんです……」
「どこがよ、自白したのはアンタでしょ」
結局パパンに2時間程お説教された。
なんならこれから多分パパンに頼まれたお師匠からもお説教される気しかしない。
「それでアンタに関する噂が流れてんのね」
「噂?」
「アンタが呪いを見境なくかけまくる魔女だとか、父親も呪いでアンタを溺愛するように仕向けてるとか、国家転覆を狙ってるとか色々ね」
「なんですかそれ……社交界こっわ……」
まさに疾風怒濤。
あっという間に話は大きくなり、尾ひれ背びれが付きまくる。
真偽はどうであれ、公然の事実となって行く。
それが社交界の噂というもの。
「半分はどうせあの子でしょ、アタシが構わなくなったからね。もう半分は暇だったからでしょうけど」
「私どっちかって言ったら被害者なのでは?」
「アンタは巻き込まれに行った方でしょ」
「産まれただけなのに目の敵にされて、挙句の果てにはお父様のコネでついていただいた師匠すらも奪ったとか思われているのにですか?」
「あの子に関することは同情するけど、ジュール前男爵に魔法放ったのは事実でしょ」
まぁ確かに魔法のつもりが呪いぐらいのクオリティになってしまったことは反省してる。
だけど言わせて欲しい。
私が魔法ぶっぱなさなくても、いずれ誰かが呪いやらなんやらやってたから!
そのぐらいのことを平然としてきた人よ?
なんならあの後、現ジュール男爵と思しき人から手紙来たからね?めちゃくちゃ便箋いっぱいあるからなんだと思ったらまさかの領民の子供たち(現ジュール男爵の采配で学校ができたらしい)からのお手紙でビビり散らかしたからね?
「で?魔力回復してるみたいだけど、見つかったの?」
「……はい……」
「めちゃくちゃ嫌そうね……なんだったの?」
「……くです……」
「なんて?」
「毒……です……」
この世界の魔法使いや魔女は得意な魔法や魔力の回復方法がアイコンみたいな役割を持っているらしく、"○○の魔女"、"○○の魔法使い"みたいに名乗れば大体通じるらしい。
例えばお師匠はハーブが魔力回復のファクターの為、名乗る時は"香草の魔法使い"と名乗っているらしい。
つまり何が言いたいのかと言うと……
「香草の魔法使いフランソワ・カロン様、改めてご挨拶申し上げます。毒の魔女パトリシア・アイヒベルクです……」
今後その魔女ネームは一生付いてくる上にさらにとんでもない噂が流れることが決定した瞬間っつーことである。
毒て……
毒て!!
まぁね?!私もそれはねえだろと思って、侯爵家お抱えの薬師に体に負担の少ない毒調合してもらって、グビっと飲んだら魔力が回復しやがるんだもん!!
まさかと思って、庭の一角でひっそりと栽培してたベラドンナ(有毒植物)の実をパクッといったら回復したからもう諦めたよね……
そんな私の魔女としての名前が"毒の魔女"なんて仰々しいものになった日からあっという間に社交界に駆け巡った私の魔女ネームは、やはりとんでもない噂を呼び込むかと思いきや、周りの反応は予想とは違うものだった。
「パトリシア様は毒で魔力を回復なさるんですよね、ということは毒は全て効かない体ということなのでしょうか?」
王妃様主催のお茶会で同じテーブルについたブリュール伯爵家のご令嬢レティシアにされた質問に、一瞬身構える。
毒の魔女になったということはつまり、ありとあらゆる毒が効かない体ということ。
よくて毒味役として終身雇用、悪ければ新しい毒の開発の片棒を担がされるかも分からない。
ブリュール伯爵家は長年王室付き医務官を排出する家、レティシア嬢も女性の身でありながらブリュール伯爵から直々に医学を学んだ才女ということはとても有名な話だ。
「えぇ、ポーションの研究や魔法の研究の一貫で育てていた毒草で試したところ、毒性が強ければ強いほど魔力の回復量が増えるようで、むしろ死ぬどころか健康になる始末です」
正直に答えればドン引きされるだろうけど、それはそれでいいや、合法的に引きこもれるし。
「あの!!私が作った毒入り料理を味見してみてくださいませんか!!」
まさかのドン引きされるどころかめちゃくちゃ目をキラキラさせてとんでもないことを言われるとは、思ってもみなかった反応に貴族令嬢にあるまじき顔をしてしまったよね。
もうマジ( ゚д゚)ポカーンって顔。
「それは……なぜ?」
なんて聞こうもんなら、めちゃくちゃキラキラしたオーラをまといながら教えてもらえましたよ。
曰く、昨今の毒は無味無臭、もしくは甘い匂いやらなんやらでおいしそうなものが多くなってきている。
無味無臭ならばともかく、おいしそうな毒はマズイ(おいしそうなら食べても平気とか気が付かずに食べて毒で( -_-)/Ωチーンなんてこともしばしば)だから彼女は不味くなる組み合わせの開発に乗り出したとの事、毒に特定の何かを混ぜたら不味くなり、毒が入っていなければ美味しくなる食材を模索しているのだけど、なんせ毒が入っているとわかっていて食べてくれる人なぞ居らん。
そこで、私の魔力の回復方法が毒だと知った、つまり私なら毒食っても死なん、つまり実験には最適!
ということらしい……
「……わかりました、実は家で食べられる毒にも限りがありまして、困っていたんです」
「本当ですか?!ありがとうございます!!本当に嬉しい……何からがいいかしら、そういえば昨日港から毒の魚が届きましてその肝からいかがかしら、あぁでもベラドンナを使ったベリーパイの方がいい?」
「落ち着いてください、私はほかの方とは違って逃げませんから」
まさかこれがきっかけでレティシア嬢と親友となるなんて知る由もなく、しこたま毒料理を食べて感想を伝え、魔力カンストするまで回復しましたとさ……
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