遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第2章

こんなプレゼントがあってたまるか!

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???


 あ、一体どっかいった。
……ま~~~~、いっか!


****


 ゆっくりと、

 慎重に、


 中を傷付けないよう手で徐々に徐々に広げていき中が見えてきた。暖色系の肉はとても柔らかいように思える。指でなぞると体液がついた。

 『ねぇ~……まだ?』
 「ああ、すまん観察していた」
 『うぅ~……早く、早く……!』
 「慣れないのか?」
 『いつやってもこればっかりは……』

 届いた言葉に一度手を止める。いつもはお喋りが過ぎる新月もこれだけはいつもの調子を保てないようで口籠る。
 早く、早く、と急かすので手を動かのを再開する。
 何度か手を動かし引き抜くと脊髄反射で肉が跳ねた。一緒に閉じて手が閉じ込められた。
 もう一度開かせて今度は閉じないように固定する。見えやすいようにするとまた言葉が届いた。

 『ぎゃっ! や、やめてぇ……!!!』

 催促にいちいち言葉を返すのも面倒になってきたので無視する。もう片方の手に握っていたものを握り直す。
 何度も同じ言葉を繰り返し送る送り主を叩く。五月蠅い、



 ゆっくり、

 慎重に、

 先程と同じく他の場所を傷付けないに差し込んでいき少しづつ切り開いていく。ある程度のところまできたので見やすくするため手で押し広げる。
 中の状態は―――――











 大量の寄生虫が針山に刺さり蠢いていた。


 『ふぃりぉm:81」-」2\!!!?」:$}』
 「五月蝿い」
 『グロ過ぎる!!! 何もスタシスで解剖しなくてもいいじゃん!!!!』
 「こいつは硬いんだ、スタシスではないと困る。それより見てみろ肝臓内が全部針山だ。器官の働きはしていないのか……?他にも見てみるぞ」
 『うぇ―――』

 嫌がる新月を、スタシスを撫でる。今は血を殆ど抜いているので安心して撫でることが出来た。

 「他のも見終わったらこの前見た透明標本、とやらにでもしてみようか」
 『えー! クロがあっちこっち切り過ぎてぼろぼろじゃん! それ隠す目的もあって頭二つ分しか分けなかったんでしょ!』
 「ああ、それもあるな」

 「クロス様――――!!! 新月さ――――ん!!!」

 肝臓の針山から一部針を採取していると扉の前から私達二人を呼ぶ声が聞こえる。ハリスだ、入れ、と声をかけると微かに金具が鳴る音がした。

 「あれ、どこですか―――???!!!」
 「書斎の方だ!!!」

 もう一度呼ぶ声がしたのでこちらも声掛けてると迷う事ない足音が向かってくる。今度はもっと近い場所から金具悲鳴が聞こえた。

 「クロス様―――って何だこりゃ!!」
 「【無限の胃袋】の入り口を広くさせてるんだ。入ってこい今インフェルノの解剖をしてるぞ」
 「すげえけど遠慮します!!!」
 「そう言わずにこい。これは勉強になるぞ」
 「えー。わ、分かりましたよ~」

 明け放れた異空間の入り口から遠慮の声が聞こえたが私がもう一度こいというと渋々と言った様子で目を瞑ったハリスが入る。
 恐る恐るといった様子で目を開くと凍った。効果音が付くぐらいに。
 氷漬けの体を運んで切った場所を見せると予想通り顔を背けた。

 「おいおい、こんなことで顔を背けていたら世の中やっていけないぞ? 人間の方が恐ろしいのだからな」

 逃げた顔を強引に前へ引き戻す。ハリスは首を振って逃げようする。絶賛成長期で日に日に大きくなっていくハリスを抑えつけることは前までよりも時間がかかる。流石に私の力には敵うことはなかったが。

 「珍しいんだぞこれ、顔を背けないで見てみろ」
 「いっ!! こ、これは……?!」
 「インフェルノの体内、肝臓と呼ばれる臓器の内部だ。見たところ地獄……針山と言われる人が死んだら向かうあの世の先の一部を模していてた。他の各部位もそれぞれ別の地獄になってるぞ」
 「し、死んだら向かう場所?!」
 「ああ、悪行をしたらな。特に何もないなら関わりがないし善業を積めば極楽浄土に行く。だからハリス、お前はこの光景を見ておけ。そしておけば魔が差す時に思い出して踏み止まれる。

 と、新月が言っている。
 私は万人がこの図でトラウマになって踏み止まるなんて考えられんがな。こんなものものともしない輩などいるだろうに」
 「は、はい……そのものともしない人って誰だ?……」
 『えー何で言っちゃうの~? 折角かっこいいところ作ってやったのに~!』

 話の元を明かすとぶうぶうと小言が飛んだ。お前こそ馬鹿だろ、ハリスは確かにやらないかもしれないが通用しない馬鹿もいるんだ。こんなことでかっこつけなんてしても意味が無い。
 雑音は放っておいて腕の中にいるハリスへと目を下に向けると灰色の頭は小刻みにに震えていた。
 もう死んでいるというのにこの光景は衝撃的だったらしい。開いた口が塞がらないといった様子で見入っていた。

 『クロも意地悪だね~。ハリスくん! クロは別に怖がらせようとしてるんじゃなくってハリスくんが死後苦しんで欲しくないから戒めてるだけだよ。怖がんないでね~』
 「新月さん……」
 「そうそう、こいつみたいに悪虐をしているやつは落ちる。―――つまり新月は地獄行きだ」
 『いや――――――!!!!』
 「っぷ、あはは!!」

 ハリスから離れてスタシスを撫でると鎖が腕に絡みついた。よっぽど怖かったらしい。
 それにつられてハリスも笑ったので鎖の締め付けが強くなった。

 「落ち着け、新月。ハリスも怖がらせて悪かった。だが知っておいて欲しかったのだ。許せ、近々お前の誕生日を祝う時に好きなものをやるから」
 「本当?! それ本当ですか?!!」
 「ああ、では早速解剖を再開するぞ」
 「『え~――――!!!」』



 解体を終わらせると青いハリスを抱えて異空間を出て書斎に戻る。まず目に付くのが大き過ぎて未だに本が独り立ちできていない本棚と唐木で出来た和製民芸家具のサイドボードだ。
 ソノサイドボードにも草木の装飾がされており、ガラス扉の向こう側には新月が六雲峰で捕まえた雲がフラスコ内で渦巻いていた。
 壁には私が大仕掛けの魔術を使う時のために開発した魔法陣の完成品、世界地図、ホロスコープ、何か分からない絵、この世界で発見した今まで見たことが無かった野菜や花のスケッチ、鳥に蝶といったもののが額縁に入っていた。
 次に仕切りにしていた深い緑のカーテンを引くと目に入るのが他の世界で仕入れた時計仕掛けの惑星儀に地球儀は両方とも木と金属が上手い具合に組み合わさったものだ。
 他にも何十種類もの珍しい鳥の剥製が木の枝に止まっているように見える木の土台にガラスケースが埋め込まれた大きな邪魔者がいた。
 大小様々な戸棚があるキャビネットには薬品の材料やら鉱石やらが溢れかえり上に花瓶が乗っている。
 このようになっている書斎、私の書斎という名の新月の物置だがまあ、まだ見れる範囲だろう。
 物で溢れかえったこの場のガラクタを踏みつけないようにゆっくりと歩き外に出る。




 あのインフェルノとの戦いから時間は流れハリスの誕生日近くとなった。ハリスの誕生日は10月5日だった。それを知ったのは一日、あと四日しかない。
 特に新月、ツァスタバ、ロザリアントの女三人は荒れに荒れていた。

 『クロ、すっごくマズイぞ! ハリスくんの誕生日プレゼントまだ決まってナッシングなのよ!』
 「の、割にはこたつでゲームしてるぞ。余裕綽々だな」
 『危機に貧すと人間逃げたくなるんだよ』

 畳の部屋、改築したと同時に作った部屋だがここは左の壁が障子と縁側になっているため中庭に植えられた草木が楽しめる場所となっていた。さらに新月が花道の真似事をした生け花があるので部屋全体が明るい。
 その隅に置かれたこたつで新月はゲームをしながら何か分からないが本を、私はインフェルノの解剖結果をまとめ上げていた。
 隣で締め切り前の漫画家の様な呻き声をあげる新月は育成していた勇者を錬金の画面に放ったらかしてこたつの中に引っ込んだ。私も入っているのに邪魔だな。

 『そういうクロはもう用意出来てんの?』
 「出来てるといえば出来てる」
 『ぶう! 置いてくなんて非道!』
 「知らん。ならローブでも作ってやればどうだ? ハリスは今成長期だろ。ついでにあのマントも酷使してきてボロいから新調していい頃合いだ」
 『あそっか』

 例えを上げるとぽん、と手を叩く音が出る。お前の目玉はどこについているんだ、背中か?

 『じゃあ今からどんなものがいいか聞きに行くぞ!!』
 「待て、私も行くのか?!」

 善は急げとばかりに腕を引っ張られる。こたつをひっくり返す勢いで引きずられる。
 待てが出来ない子供か。


 ハリスを探すと部屋に隠れて遊んでいた。扉を開けると慌てて背中に隠していたが持っていた玩具はこの前新月がお詫びにと買っていたプラスチック製のロボットだった。

 「『別に隠さなくていいだろ(でしょ)」』
 「え、なんか思わず……でなんですか?」
 「お前のローブでも作ろうと思ってな。ハリスはどんなものが欲しい」

 私が作った留め具だけシャツにつけた比較的寛いだ状態でベットの上で遊んでいたハリスと向かい合う形で椅子を置く。新月はいつものように私の上に座ってきたので椅子が軋む。
 少し考える素ぶりを見せて筈んだ声をあげる。

 「な、なら俺にあった効果が付属されているものが欲しいです!……はっ、す、すみません贅沢言って」
 『ノープロブレム! ハリスくん。ではクロや』

 パチンッ、と指が新月が鳴らした。頭を下げると上を見上げる赤い目玉と目が合う。私も手伝えと言うか。

 「はいはい、【鑑定】」

 もう慣れが生じてきた【鑑定】の能力を使うと出てきたのは毎度おなじみの青いステータス画面だ。

***********************

【Name】ハリス

【種族】人間

【性別】男

【年齢】12

【Lv】40

***【称号】***************
【捨て子】【神の弟子】【剛健な者タフガイ
*********************** 

【体力】100(+100、200)
【魔力】201(+300、501)
【攻撃力】76(+50+10、136)
【魔法攻撃力】90(+110、200)
【命中率】43
【防御力】67(+10、77)
【知力】50(+30、80)
【素早さ】40(+120+30+5、195)
【精神力】70(+5、75)
【運】60(+5、65)

***【装備】***************
武器 :サトゥルヌスの秒針(魔法底上げ+300、魔法攻撃力+110、防御力+10、知力+30、精神力+5、素早さ+30、運+5)

頭  :なし

腕  :なし

上半身:木綿のシャツ、時の神の祝福受けしルビー (攻撃+50、体力+100、素早さ+120)

下半身:木綿のズボン

靴  :靴下、革靴

***【スキル】***************
【物忌】【素早さ+5】【魔力+10】【回避力UP】
ーーー以下取得可能なスキルーーーーーーー
【開口の胃袋】
***【特殊スキル】*************
土壇場どんでん返し クリティカル・モウメント)
***********************
【職業】冒険者、弟子
***********************

 格段に上がっていた。
 特殊にある【土壇場どんでん返し クリティカル・モウメント)】を調べると不可能な状況で立場を入れ替えるというものらしい。といっても自分で発動することが出来ない物らしいが。
 それとスキルにあった【物忌】と【開口の胃袋】の方が使えるだろう。【回避力UP】は調べたところたまにしか発動しないポンコツだったがまあそれは置いて置こう。
 まず【物忌】だがこれは、妖異を関わらないように避けることが出来るもの。
 【開口の胃袋】は【無限の胃袋】の、小規模なものだろうか? しかし容器の大きさはあまり期待出来ないだろう。出来て精々シャツ一枚、

 一見たいしたことないステータスだったが開かられた格差に新月は地団駄を踏む。

『え――――――!!!! ハリスくんだけ狡い、俺だって上がってるでしょ―――』

***********************


【Name】新月(レモーネ)・カオス

【種族】神もどき

【性別】女(変幻自在)

【年齢】測定不可(BBA)

【Lv】45

***【称号】****************
【初めからあったもの】【おさぼりの神様】【宝の持ち腐れ】
***********************

【体力】120
【魔力】測定不可
【攻撃力】80
【命中率】60
【知力】20
【素早さ】55
【精神力】測定不可(図太い)
【運】70

***【装備】****************

武器 : 無し(足)

頭  :銀細工の髪飾り

耳  :銀細工の耳飾り

腕  :無し

上半身:軍服(ロリィタ)、シャツ、ベスト(黒色)

下半身:プリッツスカート

靴  :足防具付きヒールブーツ

***【スキル】***************

【狂気】【芸術家】【鍛治師】【飛行】【峰打ち】【美食家】【以心伝心】

--以下使われていないスキルです-------
【五感覚醒】【嘘発見器】【地獄耳】
***【特殊スキル】**********

【不老不死】【世界の図書館】【無限の胃袋】【創造と実現】【裁縫と裁断】【鑑定】【千里眼】 【憑依】

--以下使われていないスキルです---------
【変幻】【月の錬金術師】【輝きの細工師】【合成マジック】
***********************
【職業】旅人、冒険者
***********************
現在使える神通力の回数は0/1回です
***********************

 『神は………………………………………………………

 …………………………

 …………………………………………………………………死んだ』
 「いや生きてるだろ。お前が神だ」
 『い、いやつーちゃんやロサりんだってあんまり変わんないはず!!!』


**********************

 【Name】ツァスタバ

 【種族】魔族?多分魔族。

 【性別】女

 【年齢】1450(媒体の年齢)

 【Lv】256

***【称号】***************
【千年の歴史を知る者】【神の従者】
【密偵】【暗殺者】【義賊】
**********************
 【体力】   999(+150、1149)
 【魔力】   1456(+150+444、2050)
 【攻撃力】  756(+456、1212)
 【魔力攻撃力】120(+456、576)
 【防御力】  564
 【命中率】  167(+10、177)
 【知力】   264
 【素早さ】  567(+30+160、757)
 【精神力】  176
 【運】    51(+3、54)

***【装備】***************

武器:相転移式狩猟魔弾(魔法攻撃+456、素早さ+30、命中率+10)

頭  :プディリボン

耳  :無し

腕  :手袋(綿)

上半身:、燕尾服、ベスト (黒)、シャツ、リボンタイ

下半身:ベルト 、スラックス

靴  :靴下、始まりの神カオスが作りし履物(素早さ+150、魔力+444、素早さ+160)

***【スキル】***************
【執事の嗜み】【美食家】【掃除屋】【以心伝心】【体力+150】【運+3】【抜き足差し足忍び足】【金庫破り】【狙撃】【散弾】【凍結防止】【耐熱(中)】
***【特殊スキル】*************
【千年の歴史】【シークレットバトラー】【裏仕事】【念写】【世界図書館】【無限の胃袋】【裁縫と裁断】【悪夢再来 ナイトメア・アゲイン】【痛覚全遮断】【麻酔無効化】【状態異常全無効化】【時の愛想】
***********************
 【職業】執事
***********************


**********************

【Name】ロザリアント

【種族】精霊、ニンフ

【性別】女

【年齢】0

【Lv】10

【称号】メイド、神々の従者、粗野の妖精、恩寵与えし者

********************** 

【体力】50(+150、200)
【魔力】4779(+150、4929)
【攻撃力】20(+90+10、120)
【命中率】50(+15、65)
【知力】70
【素早さ】70(+5、75)
【精神力】800
【運】50
***【装備】***************

【装備】
武器   :硬鞭:キコク(攻撃力+90)

頭    :ホワイトブリム、(髪についているのは元になった素材の為含まれず)

耳    :なし

腕    :無し

上半身  :黒い給仕服 、エプロン、ガーネットのブローチ

下半身  :ドロワーズ、羊毛の黒いストッキング

靴    :ピンヒール

手持ち品 :室内帽、昼用仕事着、ローファー

***【スキル】***********
【樹木の檻】【成長促進】【植物の声】【以心伝心】【体力+150】【魔力+150】【命中率+15】【素早さ+5】【状態異常半減】【耐熱(小)】
***【特殊スキル】*********
土砂災害 マッドサイド】【地盤沈下 グラウンド・サヴサレント】【天獄両樹】【大地の声】【世界の図書館】【無限の胃袋】【裁縫と裁断】【鑑定】【念話】【溶解】【凍結耐性】【痛覚全遮断】【時の愛想】
*******************
職業:メイド
**********************


 こうして三人のステータスを見比べてみるとそれぞればらつきがあった。
 大抵の場合は名前の通りのものだがハリスは能力でのステータス補佐が5や10あたりなのに対してツァスタバやロザリアントは150が多い。
 
 ステータス補佐の能力は150が限度か、二人のステータスに150以下がないことからハリスのような+10といったものは全て上の能力に統一されるようだ。
 特殊能力も同じように“全”遮断というのは他のもので全て統一されたと結論付ける。

 何故こうなっているんだと2人に聞くと与えている休日である日曜に冒険者登録こそしてはいないがリフレッシュを兼ねて二人で極寒の地で魔獣をしつつ肉を調達してたらしい。
 どうりで食卓に魔獣の肉が上がりやすい訳だ。おかげで元魔獣の肉を気にする新月とハリスが毎日『今日のお肉はどこの肉?』としつこく聞く習慣が出来てしまった。

 そしてツァスタバとロザリアントの方にも元の媒体となったものの違いがはっきり出ている。
 ツァスタバが【凍結防止】【耐熱(中)】が普通の能力であるのに対しロザリアントは【耐熱(小)】だけ普通で【凍結耐性】というのか特殊能力にあったこれは生体が哺乳類だったか植物だったかの違いだろう。
 他にもツァスタバの特殊能力【悪夢再来 ナイトメア・アゲイン】は調べたら使った時に自分の目を見た対象者のトラウマを再現する。なければ創作するといったトンデモものだった。
 もしかしたら私も持っているかもしれない。……後で確認しておこう。

 しかしこの中で一番首を傾げたのがこの二人についている【時の愛想】というものだ。調べてもない、ということはアリアスが名前をつけたものでは無い、と考えると私の眷属のような立場の二人だからこそ持つことができた特殊中の特殊能力と考えるしかない。

 “愛想”なのだから愛情といったものだと思うが私が二人に置いているのは“信頼”だ。少々履き間違えているとことがあると思う。
 “神”が寄せている感情は全て“愛”となるのか?何だそれは。私は一纏めにした覚えはないぞとステータスを移す画面を叩くと“信頼”に変わった。
 これで良し、と思ったらツァスタバとロザリアントが床に膝をついた。ハリスが何か考えに至ったような顔で納得した顔をした。
 ハリスに事情を聞くと直せ、と五月蝿い。仕方なく直すと二人は復活して抱きついた。重い、

 ここでいつものように新月が叫ぶのかと思えば不気味な程静かだった。どうしたのかと後ろを振り返ると―――燃え尽きた灰がいた。

 『………』
 「だめだなこいつ。息をしてない」
 「少しも変わってないから死亡してるんですよ。あ、魂抜けた」

 ふわふわと抜けて行く新月の魂、省略で新魂を掴んで戻す。引き戻すとのっそりと自分の部屋に引き籠りに行った。
 あの様子ではしばらく拗ねるだろうから放っておくとして、いきなり暇になった。
 誰かの手伝いをするにしてもツァスタバとロザリアントの二人はケーキやら飾り付けに夢中で新月はあれだ。先にハリスにプレゼントでも渡すとしよう。

 「ハリスついでだ。何か欲しいものはあるか? なんでもいいぞ」
 「え、なんでもですか?」
 「ああ、それが私が用意した誕生日プレゼントだ。上限は設けさせて貰うが可能なものならなんでもいいぞ」
 「うわ贅沢過ぎる!!!……で、でしたら一つお願いがあります!――――







 数日後のハリスの誕生日当日、早朝早々に何故か私まで叩き起こされてハリスと一緒にゲルを追い出された。
 何故だ、新月はプレゼントを作ると言って私に素材を集めさせれるだけ集めさせて手伝いをさせまくったくせに。自分は未だに部屋で缶詰してるのに私は追い出すのか。薄情者め、

 嘆いても仕方ない。私とハリスは依頼をこなしたあとそのままハリスと人目を忍んでヴェレンボーンへと飛び初めてハリスと出会った場所、トワフ地方へと行った。
 もうずいぶん前に新月と一緒に野宿した場所まで来ると今年は山の頂上付近だと言うのに人の賑やかな声が風に乗って流れてくる。前に魔獣を刈り尽くしたから豊作に山の恵みで潤ってるらしい。なんにせよ面倒な手間がかからなくって良かった。
 ハリスを抱えてもう一度山から飛躍し目立たない場所にめがけて着地し、ハリスの土地勘を頼りに村まで来ると賑やかな声は大きく聞こえた。どうやら村は明るいらしい。
 さらにハリスの案内で進んでいると村人がこちらに気がつき賑やかな声は消失していった。
 小言で囁き合う村人の輪から何人かが飛び出す。うち一人はやや窶れた顔をした八重歯の女でこいつがハリスの母親だと理解した。

 「あ、あああ……!!!」
 「か、かあ、さん!!!」

 屍のような動きでハリスへと歩み寄るとハリスは駆け出し抱き合った。
  固く、固く抱きしめ合う姿を見て本当に連れて来て良かった。と思う反面ハリスが捨てられてというのに呑気に家族に合わせて良かったのだろうかと疑問に思う。誕生日だからといってこれはどうかと、
 捨て子のハリスに村にとって異物としか思われない私。ハリスは元々この村に住んではいたが私は違う。 むしろ魔獣か魔族かのどちらかだと思われているだろう。『村に厄災を呼ぶかもしれない得体の知れない男』だと、

 そのまま流れるようにハリスの実家へと流される。ハリスが簡単な経緯を説明して最近の状況を話すと家族の反応は様々だった。
 まずハリスの母は自分がハリスを生んだ日にここへ連れて来てくれたことに拝むように手を合わせくる。
 ハリスの姉夫妻は終始大泣きしたまま、父親は―――心配をしていたように見えたが遠回しに金銭の問題を出していた。ハリスが実家に戻って来てくれれば家が潤うと。
 母に武勇伝を伝えているハリスには悪いが新月がいたら不機嫌になっていたかもしれない。
 
 私には関係のない話だが。

 

 話す会話が尽きて今後ハリスはどうするかという話になると母親や姉夫妻はハリスに今度こそはと作物を渡していた。が、ここぞとばかりに父親が家を助けてくれと出しゃばる。決定権を持つのはハリスだと言うのに。
 私は私で話に花を咲かせるハリスの家族を簡素な木製のテーブルを挟んで眺めていたがふと時間を思い出し窓の外を見ると既に日が暮れていた。そろそろ帰らないとあとが面倒なことになる。
 軽く咳払いをして話を止めると真向かいの椅子に座っていたハリスに向き合う。

 「さて、ハリスどうする? お前ここに残るか?」
 「……いいえ、クロス様。俺はこのままクロス様や新月さん、ツァスタバさんにロザリアントさんと一緒に旅がしたいです。辛いことも馬鹿らしいこともあるけど楽しいし、何より一緒にいたいと思うんです。クロス様が良ければ俺をこのまま弟子として貰えないでしょうか」

 実の父親とは目を合わせず私に向かってきっぱりと言い放った。
 どこか安堵するところがある反面、私はいつも危険なことに巻き込まれているというのにそれでもついてくると言うのかと思った。やはりハリスは成長しているがその反面普通の人間よりも少々精神が強くなってしまったかもしれない。慣れてはいけない方向へ、

 「ハリス?! お前h「分かった。では戻るぞ。時間が無い」……」

 さも家に戻って当然だと言わんばかりだった父親を遮って会話を終わらせる。

 「話は決まった。御家族の方々、ハリスは私がこれからも面倒を見るということでよろしいか?」
 「「「は、はい」」」
 「あ、冗談じゃn―――っ!! ……い、いえ、なんでも御座いません」

 ハリスの今後の事を決めると母親、姉夫妻は驚きつつも目を丸くして頷く。
 話を纏めて立ち上がろうとすると一呼吸遅れて反対の意見を言いかけた父親が私の襟の合わせ目を掴もうと手を伸ばして固まった。
 
 大方、私としっかり目を覗き込んだため固まったのだろうけど。
 私の目、本来白い筈の白目が黒く、文字盤がある緑色。普通なら固まるだろ、神の目なんだから。
 固まったハリスの父親から離れると襟を直す。

 「では帰るぞハリス」
 「え、もう?」
 「また連れてきてやる。今日はもう遅いから戻らないとあいつらが五月蝿い。さあ、出ろ」
 「っ! はい、ありがとうございます!!」

 ハリスを外へと催促すると母親と喜び合いながら外へと出て行き姉夫妻も父親を引っ張て外へ見送りをするため出た。
 あとは私が出るだけだ。前に続いて扉の向こうへと出ようとすると夕日に照らされたテーブルが目についた。

 「………」




 「じゃあ、今度は行ってきますだよね? 父さん」

 家の外へ出るとハリスが珍しく悪戯っ子のように歯を見せて笑った。その笑顔に父親は罰が悪い顔をして下を向く。
 ハリスもそれなりに根に持っているところがあったようだ。

 「クスッ、それは皮肉かしら?」
 「かもね。じゃ、行ってくるね!」

 しかし下を向いた父親に打って変わって母親は面白おかしそうに笑った。その拍子に尖った犬歯が目立って見える。その口元は確かに少しだけツァスタバと似ていた。
 別れの挨拶として母子が向き合って額を合わせる。その行為は何処にでもいるような母子を描いたように見える。

……………………………………………………………

……………………………………………

………………………


 「………」
 「どうしました?」

 何んだろう、何か引っかかるものがあるのにそれが何か理解出来ない。ただ親子が抱きしめ合っているだけだろうに、どこが問題があるのか?
 じっとその様子を眺めていると首を傾げたハリスが顔を覗き込んでいた。

 「大丈夫ですか」
 「ああ、なんでもない。帰るぞ」
 「? はーい」





 また大陸を跨いでゲルまで戻ってくるとリビングから大きな声が聞こえる。何事だ?―――まさか密偵でも忍び込んで戦闘状況にでもなっているのか。
 部屋の光に当たらないよう壁際へ体を寄せて会話に耳を傾ける。こういう時に地獄耳は役立つ。


 「……でその時ですがーマスターは媒体の元が悪いとはいえ私を罰することなく『気にしなくていいと……ああ、マスターの心遣いにこのツァスタバは感動いたしましたぁ~」
 「え?

 『クロはそこまで重大とか思ってないからそこまで感動しなくてよろしよ』

なのですかお嬢様。ですが私で羨ましいと思ってしまいますわぁ!」
 「はい、もしや私はもう一度操られるかもしれないという事をも恐れず。尚且つ私が無意識に操られてスパイ活動をさせられているかもしれないというのに―――あ、そういえばロザリアント、貴女は準備出来ていますか?」
 「ええ、今はカーテンで仕切っていますが外は……お楽しみですわ!」
 「あら、お嬢様は待ちきれない程楽しみなのですか? 残念ですがハリスが返ってくるまでのお楽しみですよ! ケーキも用意してあるのでお待ち下さい。仕掛けには自信がありますから!――――



 「だだのガールズトークですね」
 「らしいな。おい、喋ってないで早く祝ってやれ」
 「「あら、お帰りなさいませマスター(ご主人様)」」
 『お帰りお二人さん! ではつーちゃん! ロザりん! どうぞ』

 話の盛り上がっているところに乗り込むと毎度お馴染みのことのように白い塊が飛びつき頬擦りする。それをお約束の様に引き剥がすと新月は黒いアリスの服装をしていた。
 よく似合っているところが何故か腹立たしい。

 『クロ、おねーちゃんは成し遂げたぞ褒めろ、これ可愛いい?』
 「ああ、似合っているぞ。腹立たしい程にな」
 『(∩´∀`)∩ワーイ!』

 疲れの色を濃く見せながらも装いに力を抜かない新月にどうだと聞かれて素直に感想を述べる。すると今度は足に引っ付いた。
 剥がせない、仕方ないからそのままダイニングまで行くと部屋は輪飾りやら風船が天井を彩り何故かシャンデリアが鎮座ましましていた。
 壁際には額縁を利用した壁飾りには本物の花が咲き乱れる様に咲いており余波は少し離れた畳の間にも及んでいた。開きっぱなしになっている引き戸から新たに壺に活けられた豪華な生花が追加されたのが見える。
 そして陽気になりそうな程華やかな部屋に違和感しか湧かない窓の外を覆い尽くす重々しい雰囲気の分厚い紺色の遮光の効果を持った布で作られたカーテン。大きく“ナイショ♡”と書かれた紙が糸で吊るされて掛かっていた。何だこれ、 

 ハリスも同様に華やかな部屋に不似合いのカーテンをジロジロと疑問を含んだ目付機で眺める。
 その様子に満足したのかツァスタバとロザリアントが司会者のように立ち振る舞う。

 「「ではでは皆様、御注目下さい。―――さあ、どうぞ!!」」

 二人が息を合わせてカーテンを左右同時に開き機械仕掛けの人形のようにお辞儀をする。
 カーテンの外は―――ダリアやサルスベリと言った九月を代表とする花が咲き乱れ月下美人が最高の状態で維持された庭があり食事の準備がされたテーブルには料理の他にデコレーションされたケーキが鎮座ましましていた。

 「ではハリス、上座にどうぞ」
 「ご主人様よろしいでしょうか?」
「ああ」

 ロザリアントが笑顔で大丈夫かと伺ってきたが主役が上座に決まっているだろう。
 座ると同時にツァスタバがメニューの紹介が始まる。

 「本日のメインディッシュは牛フィレ肉のロティですがマデラ酒を少し使ったソースがかかっています。アルコールは飛ばしてますし赤ワイン煮よりはハリスの口に合うでしょう。温野菜も添えてありますから一緒にどうぞ。
 あとは海老とトマトのマリネ、カリフラワーのポタージュスープにスズキのムニエルも用意しています。
ケーキかありますから量は少なめにしてますが」
 「うわ豪華! 久々の牛肉!!」
 『良し、牛肉だ! 食える!!』

 牛肉に喜びの声を上げる二人が素早い動きで料理を口に流し込んでいく。
 スープをマナー総無視で喉に流し込み口元に白い髭を作る姿が食い意地を全面的に押し出していた。

 『クロ食べるの遅い! まだ?!』
 「お前は食器を時折鳴らすのを止めろ。五月蝿い」
 『何? 食材に感謝ってやつ?! 感謝はしてるからいいじゃん』
 「ナイフとフォーク持って振り回すな。危ない」

 頰を膨らませて上目遣いの白頭を撫でる。全員に見守られながら食べ終わると待ってましたと言わんばかりにケーキが切り分けられる。
 白い壁にケーキナイフが入り1ピース皿から離れると中から小粒の葡萄の実やら金平糖が出てきてハリスは終始笑顔だった。しかしちょっとした瞬間にその笑顔が曇ることがある。あの父親の話だろうか?
 テーブルから少し離れた場所で女三人が騒ぎ合って次の準備をしているのを見てこちらを見ていないことを確認して話を切り出す。

 「ハリスお前は父親の話がまだ気掛かりなのか?」
 「え?い、いえ、何でもないです。……父さんは別にどうでもいいです。男だし自分でどうにか出来ます。姉さんも結婚して行ったし。ただまた今度作物が不作だとどうなっちゃうのかが心配で……母さんがどうなるのか」
 「それなら安心しろ。テーブルに私がつけてたカフスを置いてきた。あれはタンザナイトだから売ればダイヤモンドよりも高い。無駄遣いしないで村で生活する分には一生困らん。今頃気が付いて喜んでるだろうよ」
 「え、まじ?!」
 「ああ、ほら」

 目を見開くハリスにコートの袖を引っ張り右と左の袖口を見せる。勿論何も無いので袖がだらしなくなっている。

 「で、でもあれほぼ毎日付けてるじゃないですか?! そんな高価な物をなんで!!」

 ハリスが私の両手を握って泣き始めた、しかし顔は負の感情を前に出していない。泣きながら喜ぶ、というものか、忙しいやつだな。

 「あれは緊急時用の物で愛着も何もない。いざとなったらあれを売って金を作ったり命を買う物だ。問題は無い」
 「え、で、でも「「『ではではプレゼントの時間です!!」」』

 え?! あ、はい」

 何かを言おうとしたハリスの声は女三人の喧しい声にかき消され流れていった。これにはハリスも目が点になっている。

 「ではまずこの私、ツァスタバから誕生日プレゼントを渡したいと思います。
 ハリスへ、貴方は人間ですから私達と一緒にいることで辛いこともあるでしょう。
 食事は人間にとっても人では無いものにとっても辛いことを忘れさせてくれる大切な物です。よく食べて元気になって下さい」
 「ということで私がプレゼントするのは『いつでもどこでも携帯出来るコンパクト料理』です。
 見た目は薄い板になっているものですが魔力をほんの少し通せばたちまち質量を持った食材に早変わりします。さらに火属性の魔法で温めれば出来立てになりますから使って下さいね」

 まず始めにプレゼントを持ってきたのは食い意地が張りに張ったツァスタバだ。
 簡単な紹介をした後、どっさりと出てきた厚さ数cmの色取り取りの板をテーブルに並べてこれはアップルパイ、こちらがオリーブのオリーブ漬けと説明を始める。
 懐から同じような板ツァスタバが取り出し私達に見せる。板はきつね色に赤い文字で“アップルパイ”と書かれておりハリスが貰った物と同じ物だ。
 それをツァスタバが手の平に乗せて魔力を込めると理科の実験のような爆発音と煙を出す。手で煙を祓うとそこに合ったのは木の盆にのった正しくアップルパイ、さらにそこにツァスタバが『ウォレム』と叫び一種だけ盆が火に包まれた。
 また煙を払うと今出来上がりましたと言わんばかりのアップルパイが少し焦げた盆にのっており拍手が沸き起こる。

 前のどっから出てきた出所が分からん軽食はこれだったのか。あとで私もやってみよう。

 「では次、私が出しますわ。プレゼントはこちらの水晶を嵌め込んだイヤーカフという物です。これは地層を少し割って取り出したものです。 
 たいしたことはないですが魔法を抑制するものです。宮廷魔導師の弟子が修行のためにこの水晶を使った魔力封じの品を付けていたので丁度いいかと思いお嬢様が手伝って下さったのです。使われてない特殊スキルを使ってまで」

 そう言ってロザリアントがビー玉サイズ水晶が嵌め込まれた大ぶりな純銀製のイヤーカフをテーブルに置く。調べてみると魔法抑制水晶と出た。あまり特徴がない名前だな。

 視線を感じ新月を見るとやはりと言ってか顔に褒めろと書いてあった。今回ばかりは大真面目にやっていたので褒めて撫でると余計に離れなくなった。
 邪魔だと思ったがここで言って落ち込むと面倒なのでそのまま放置する。こいつが落ち込むことなんて滅多にないが。

 ケーキのスポンジ、は甘すぎるので新月に食べさせ中身の果実をフォークで刺して口へ運ぶ。横目でハリスを見ると送られた装飾品に目が輝いていた。
 確かに良い贈り物だ。しかし大きさに問題があった。普通の魔力封じの水晶は米粒程の大きさしか使われない。
 これはどう見ても規格外過ぎる。ロザリアントの性格のせいだろうか? 前に新月が

 『ロザりんはS属性!』

 と何をやらかしたのか知らないがロザリアントから逃げてきて小一時間程離れなかったし。
 しかしこの水晶のことも気掛かりだ。産出される量はほんの僅かだというのにこの大きさ、採り過ぎで歴史が変わらないことを願おう。


 次に新月だったがこいつは私が言った通り新しいマントが出てきた。物は変わらないただ運が1上がる高価がついただけだたった。
 でも運を底上げ出来る物は希少価値らしいので贈り物としては破格の物だと考える。

 私が何故運気を上げる品が希少価値だと知っているのかというと、新月と一緒に私の運気を上げるものを探して宮廷の一角で缶詰め研究をしている魔導師にそれとなく聞いた時のことだった。
 新月が筆談で相談して外で私が控えていると鼓膜を破らんとばかりの声が私がいた廊下にまで響く。
 出てきた新月によると運気が+1でも上がる物は希少価値な物で冒険者だけでなく宮廷魔導師、貴族、王族まで世界中のありとあらゆる種族が血眼で探していると聞いていたからだ。

 『いや~もうこの数日間怒涛の日々でしたよ! 鍛治師の真似事したり合間にマント作ったりしてたからね。もうやらないよこんなこと。やるとしても次は成人になった時に作ろうと思っているローブだけね』

 引っ付き虫がくっついたまま片手でハリスの顎の輪郭を撫で回すので二つの鉄剣制裁が入る。勿論私とハリセンを持ったハリスだ。

 『痛い~、でもこれ凄いでしょ?! 実はマントに防水の効果つけたし縁取りにラーメンの器の“雷文”入れたんだよ! かっこいいでしょ?!』
 「刺繍の意味は良いが現代では安上がりなイメージしかないからやめろ」
 『えー』
 「雷という意味で入れたのなら有りだとは思うがな」
 『わーい! で、だけどさ』

 痛みから復活した新月が眉を八の字に曲げて袖を引っ張るので支援すると新月の目が開かれる。目色が紫色に見えなくもない色に変わり雰囲気も一転する。

 『カフスがないようだけど何かあったでしょ? なぁーに? ねぇ、何があったの? おねーちゃんにも教えてよ、クロぉ』

 いきなりのことにハリス、ツァスタバ、ロザリアントの三人はぴたりと静止した。
 通常時のアホさ前回の声から一気に妙齢の女の声へと変わり問い掛ける姿は普段とは想像がつかないのだろう。
 向かい合った体制でしがみ付いていた腕が幹のような強い力で締め付ける。黙っていても仕方ないので素直に答えるといつもとは系統の違う笑顔が帰ってくる。

 「程々にな」
 『はーい♡』

 これから起こるであろうことに対して面倒なことはするなという意味合いで嗜めると甘えた返事が返ってきた。こいつは約束のボーダーラインすれすれしか守らないし例外箇所では守ってないから信用は出来ない。
 新月が通常時に戻ると硬直が溶けたツァスタバとロザリアントも笑顔で会話を再開する。
 ハリスも何かを感じ取ったようで新しいマントを被って合掌しているのが目に入る。

 悪いなハリス、この後の展開は予想がついてしまった。親孝行出来るといいな。片方がどうなるかは知らないが。





 さて、あとは運の女神……はこの世界にいないので鳩のアリアスに任せるとしよう。

 寝る、











****


 「ちきしょう! あの男ぶっ殺してやる」

 とある男が城の塀をよじ登ろうとしているとと別の男が声をかけた。

 「おいお前、何やってる」
 「あ、お前あのクロスっていう男に論破されたヘボ冒険者じゃねえか!!」
 「ヘボじゃね! 俺はA級冒険者モブドだぞ!!! 「はい捕獲。名前も言ったからもう言い逃れ出来ねーぞ」は?」
 「お前考えてねーのか? 夜の城に侵入しようとして普通捕まらないと思うか?」
 「……あ」
 「馬鹿だろ」
 「だね。引きずっていこう。これで細やかだが恩返しが出来た」
 「だな」

 もう一人の女が出てきて男を縄で捕獲する。

 「なっ……! そ、そんなぁーーー!!!!」

引きずられていく虚しい脱臼男悲鳴が夜空をかけましたとさ、ちゃんちゃん♪



 最後に出てきた男は脱臼男で捕まえた二人はクロノスが食中毒から助けた二人です。








おまけ

 クロノスが能力と言っているのはスキルの事です。相変わらず分かりづらい言い方をしていますが本人はずっとそれで通しているので勘弁してやって下さい。
 クロノスが置いていたカフスはあとでハリスの両親が気が付き父親が売りに出しました。 
 が、側面に新月が愛情として彫っておいた“クロノス”と“カオス”の字に質屋が気が付きあれよあれよと言う間に金額が付けられない伝説のアイテムとなり村が崇めて奉り厳重に保管される財宝になってしまったためハリスの父親は一生の生活には困らなくなりましたが大金は逃しました。
 きっと世界屈指の秘宝に登録されたことでしょう。


なぜクロノスの名が売れているかはまた本編でそれとなく流します。お楽しみに

メデューサの話のように神様は地獄耳です。
都合のいい時だけ……
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