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【第4話】

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「うッ、うぷ……、うぅッ!」

 飲み過ぎた。
 眼が回り、吐き気も止まらない。
 アルコールが強くもないのに、三多さんの毒舌に辟易(へきえき)して、ひたすら飲んでいたら、気づくとトイレの便器を抱きかかえて吐きまくっていた。
 トイレからもどってこない僕を心配してくれたのか、田中がやってきて個室の中に入ってきた。
 どうやら僕は、ドアのカギを掛け忘れていたらしい。

「おい、大丈夫かよ」

 僕のことなど気にせず、女子たちとよろしくやっていればいいものを、田中は僕の背中をさすってくれた。
 その思いがけないやさしさに僕は感動し、そしてすぐに自分の醜態を恥じた。
 恥じながら、背中をさすってくれる田中の手に連動するように僕は、胃液の混じった嘔吐物を便器にぶちまけた。
 それでも、胃の中のものを吐き出したおかげで、少しは楽になった。

「ありがとう。もう、大丈夫だよ……」

 唇を手の甲で拭って、僕は田中に礼を言った。

「おまえ、もう帰ったほうがいいよ」
「うん、そうだな……。帰るよ」

 そうして僕は、田中に店の外まで送ってもらったのだった。

(自己管理がなってないだとか、偽善者だとか、言いたい放題いいやがって!)

 三多さんの言葉が、酔った脳裡に張りついている。
 腹が立ってしかたがない。。
 フラつきながら歩いていると、どこからか、けたたましい声が聴こえてきた。
 どうやら、近くに見える公園から聴こえてくるようだった。
 
 何だろか?……。

 僕は声がするほうへ、歩いていった。
 公園に近づくにつれて、声がはっきりと聴こえてくる。
 園内に入っていくと、僕が唐揚げを渡したあのおじさんの姿が眼に入った。
 そのおじさんの周りを、4人組の若者が囲んでいた。

「おい、もっと水をかけろよ、こいつクッセーからさー!」

 そう言って笑っている若者に見覚えがある。
 あのおじさんを、うしろから蹴った中学生だ。
 他の3人は、彼の仲間の中学生だろう。
 おじさんは裸にされていて、その少年たちにペットボトルの水をかけられている。

 12月のこの時期に、そんなことをされたら凍死するよ……。

 その光景を眼にして、僕は怒りがこみ上げた。
 すると、そのとき、

「そんじゃ、これ、いっちゃいますか」

 仲間のひとりがそう言うと、2ℓのペットボトルに入っているコーラを上下にシェイクし始めた。
 そして、コーラのキャップを開けようと手をかけたとき、

「ウオォォォォ!!」

 僕はこみ上げた怒りに任せて、その彼に向ってダイブした。

「わわ、なんだー!」

 押し倒されて、僕の下敷きになった彼の顔に、

「オエーッ!」

 思い切り嘔吐(おうと)した。 

「うわー!」
「きったねェ!」
「なんなんだ、こいつよー!」

 そう叫ぶ少年たちに、僕は立ち上がると、嘔吐しながら近づいていった。

「おいおい、近寄んなよ!」
「キモいんだよ!」
「冗談じゃないぜ、クソー!」

 僕が近づいていくと、みんな関りを避けるように逃げていった。
 ふり返ると、僕が押しつぶした少年の姿はなく、おじさんがその場でかがみこみ込んでガタガタと身体を震わせていた。
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