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【序章】②

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 碧い海が広がる小島――
 海の香りをたっぷりと吸った風が僕の頬から耳をかすめてゆく。
 そこには、夢の中にいるのかと錯覚(さっかく)を覚えるほどの光景が広がっていた。
 一度たりとも行ったことのないカリブ海のように、海も、そして空も澄み渡っていた。
 さらに太陽の陽射しがとても眩しかった。
 だから僕は、眼を細めて思った。
 これが夢であろうと、現実であろうと、この現状を楽しまなければと。
 そう、もったいないじゃないか。

「イャッホー!!」

 身に着けているものをすべて脱ぎ捨てて、僕は海へ飛び込んだ。
 南の島だけあって、暦は12月だというのに海の水は適温だった。

 南の島?――

 ふと、そう思う。
 そこが南の島だということを認識できても、いったいどこの島なのかが見当もつかない。
 それ以前に、どうしてこんなところにいるのかがさっぱりだった。

 ???

 いくら考えてみても、頭の中に浮かぶのは「?」マークばかりだ。
 ってことは考えるまでもない。
 そう、これは夢ってことだ。
 夢ってことなら、泳ぎまくるしかないだろうよ。
 てなわけで、僕はまず潜水を試みた。
 けれど……、潜れない。
 何度試みても、すぐに浮いてしまうのだ。
 身長166cm、そして体重92㎏の僕は、幼いころからずっと「ぽっちゃり」型の僕は、潜水が出来なかった。
 でも、だからって、夢の中でも泳げないなんてありえないんじゃね?
 だって、だって、一度だけしか見たことない夢だけど、空を飛んだことがあるんだから。
 なのに、潜れないなんて絶対にありえない。
 だから、さらに試みた。

 ぐむむむ……。

 しかし、結果はやはり同じだった。

「ま、いっか~!」
 
 できないものはできない。
 ひとつのことをやり通すこともがんばることもできない僕は、諦めることがすこぶる早い。
 諦めが早いということは、つまり切り替えが早いという事なのだ。
 そんなわけで、僕は波に身を任せて漂った。

「うわー、気持ちいい!」

 身体がぷかぷかと浮いて、なんと心地いいことか。
 僕は浮き輪がなくても、ずっと浮いていることができる。
 考えてみれば、浮いてしまう身体で潜ろうとするほうが無理な話なのだ。
 眼を閉じて、しばらく波に揺られていると腹が減ってきた。
 こんな小島に食べるものがあるだろうか。
 確かヤシの木が一本あったような、なかったような。
 僕は片目だけ開けて、ヤシの木があったであろう方角を確認した。
 すると、あった。
 立派なヤシの木が一本。
 僕は海から上がって、ヤシの木の前に立って見上げた。
 
「フムフム、いいぞ。あるじゃないか」

 見上げた先には、ヤシの実がなっていた。
 それもみっつだ。
 僕は視線を下げて、周辺を見渡した。

 梯子(はしご)があればいいんだけど……。

 そう思ったが、こんな小島に梯子などあるわけもない。
 それならば登るしかないか、と思い直し、ヤシの木を両手で掴んだところですぐに諦めた。
 92㎏という重さに、僕の腕は耐えられやしない。
 ではどうするかと、改めて周辺に眼を向けてみる。

 よし、これならどうだ……。

 手ごろな石を拾い上げて、ヤシの実向かって投げてみた。
 が、届かない。
 何度くり返しても、ヤシの実に当たることはなかった。
 さすがに僕も腹が立って、ヤシの木に体当たりをし、そのうえで力士のようにてっぽうをかました。
 するとどうだろう。
 ヤシの実がひとつ落ちてきた。
 たまたまだったかどうかは定かではないが、僕は気をよくして砂地に転がっていくヤシの実を追った。
 そのとき、どこからともなくメロディ音が聴こえてきた。
 足を止めると、そのメロディ音は、僕が脱ぎ捨てた衣服の中から聴こえてくるようだった。
 そのメロディ音が、僕のスマホの着信音だということにすぐに気づいて方向転換をした。

「痛ってー!」

 方向転換をしたときに、足がもつれて僕は砂地へと頭から突っ込むように転んでしまった。

「なんだよ。夢だってのに、痛いじゃないかよ!」

 僕は起き上がって、頭や顔についた砂を払いながら、着信音を鳴らす衣服に、いや、正確にはズボンのポケットに入っているスマホまで歩いた。
 すぐさまズボンを手に取り、ポケットからスマホを取り出すと、そのとたん、着信音が切れた。

 おいおい、誰だか知らないが、ここで切れるかよ、クソ……。

 胸の中で悪態をつきながら着信歴を見ると、三多(みた)という名があった。
 一瞬、「誰だ?」と思った次の瞬間、いまのこの現状が夢ではないということ、そして、この場所にいる理由を思い出したのだった。
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