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【チャプター 17】
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(あれは、夢だったのか……)
妻の首を絞めて殺害し、その死体を山林の地中に埋めたそれ自体が夢だったのだと、中沢はそう思うことにした。
そしてその夢が、幻を見せていたのだと。
そう、だから死体は消えたのではなく、初めからそこになかったのだ。
すべては、半年前のあの夜からはじまったのだ。
中沢が伸ばした手を妻がさりげなく拒んだあのときから。
そのときから中沢は妻の裏切りを疑い、そうなるともう、それまでのように妻を見ることができなくなった。
髪型が変わり、美しさを増していく妻の姿を視界の端でしか捉えることができず、そのぶん意識の中では、男の影がしっかりとその存在を大きくしていた。
妻の行動のすべてに疑念をいだき、疑念はさらなる疑念を呼んで疑心暗鬼となり、心は嫉妬に狂っていった。
それだけに、妻が向けてくる微笑みややさしさは偽りなのだと思っていた。
生活のすべてが偽りの中にあるのだと。
だがそれは、ただの思いこみにすぎなかったのだと、いまになって中沢はやっと気づいた。
妻の首筋から嗅ぎ取った男の匂いさえも、過剰すぎた思いこみがそこにない匂いを拾ったのだろう。
妻は裏切ってなどいなかった。
嫉妬という激情が中沢を狂わせ、そんな妄想を見せたていたのだ。
妻の眼は、ずっと夫を見ていた。
見ていなかったのは中沢のほうだった。
(僕が馬鹿だった……)
見つめている中沢の視線に気づいて、妻が見つめ返してくる。
その瞳の中には、中沢の顔が映っている。
「そんなに見つめたりして、私の顔になにかついてる?」
「いや……」
中沢は苦笑して首をふり、視線を首筋へ、そして胸元へと移した。
パジャマの1番目のボタンが外れている。
その胸元から、豊かな乳房の膨らみがわずかに覗く。
息づくその膨らみに、中沢は急激な欲情を覚えた。
欲情に駆られるまま、妻の胸元へと手を伸ばす。
妻は驚いて夫の顔を見る。
中沢はパジャマの隙間から手を差しこみ、乳房に触れた。
「あなた――」
何か言おうとする妻の唇を、中沢は自分の唇で塞いだ。
妻は抗おうとし、それでもすぐに夫の唇に身を任せた。
豊かな乳房を弄(もてあそ)ぶように揉みしだく。
妻の息が荒くなり、唇を離すとくぐもった声がこぼれ出た。
中沢は首筋へと唇を這わせていき、パジャマのボタンを外していった。
彼の唇が乳房に触れ、すると妻は夫の顔を両手で引き上げた。
「あなた、お腹空いたでしょう? この先は、あとでゆっくり」
思わせぶりにそう言うと、妻はパジャマのボタンを留めて立ち上がり、キッチンに向かった。
中沢は肩透しを食ったような気持ちになり、苦笑した。
立ち上がると、食卓にいき椅子に坐った。
「あなたがよく眠っていたから起さずにいたのよ。まだ起きてこないようだったら、先に食べようと思ってたけど、よかったわ」
キッチンから微笑みを向ける妻に、中沢は素直な笑みを返した。
美しい妻がそこにいる。
僕の愛した妻が、そこに――
やはり夢だった。
こんなにも美しい妻を殺すことなどできるわけがない。
悪夢を観ていた。
そう、そして、その悪夢からようやくいま目醒めたのだ。
妻の首を絞めて殺害し、その死体を山林の地中に埋めたそれ自体が夢だったのだと、中沢はそう思うことにした。
そしてその夢が、幻を見せていたのだと。
そう、だから死体は消えたのではなく、初めからそこになかったのだ。
すべては、半年前のあの夜からはじまったのだ。
中沢が伸ばした手を妻がさりげなく拒んだあのときから。
そのときから中沢は妻の裏切りを疑い、そうなるともう、それまでのように妻を見ることができなくなった。
髪型が変わり、美しさを増していく妻の姿を視界の端でしか捉えることができず、そのぶん意識の中では、男の影がしっかりとその存在を大きくしていた。
妻の行動のすべてに疑念をいだき、疑念はさらなる疑念を呼んで疑心暗鬼となり、心は嫉妬に狂っていった。
それだけに、妻が向けてくる微笑みややさしさは偽りなのだと思っていた。
生活のすべてが偽りの中にあるのだと。
だがそれは、ただの思いこみにすぎなかったのだと、いまになって中沢はやっと気づいた。
妻の首筋から嗅ぎ取った男の匂いさえも、過剰すぎた思いこみがそこにない匂いを拾ったのだろう。
妻は裏切ってなどいなかった。
嫉妬という激情が中沢を狂わせ、そんな妄想を見せたていたのだ。
妻の眼は、ずっと夫を見ていた。
見ていなかったのは中沢のほうだった。
(僕が馬鹿だった……)
見つめている中沢の視線に気づいて、妻が見つめ返してくる。
その瞳の中には、中沢の顔が映っている。
「そんなに見つめたりして、私の顔になにかついてる?」
「いや……」
中沢は苦笑して首をふり、視線を首筋へ、そして胸元へと移した。
パジャマの1番目のボタンが外れている。
その胸元から、豊かな乳房の膨らみがわずかに覗く。
息づくその膨らみに、中沢は急激な欲情を覚えた。
欲情に駆られるまま、妻の胸元へと手を伸ばす。
妻は驚いて夫の顔を見る。
中沢はパジャマの隙間から手を差しこみ、乳房に触れた。
「あなた――」
何か言おうとする妻の唇を、中沢は自分の唇で塞いだ。
妻は抗おうとし、それでもすぐに夫の唇に身を任せた。
豊かな乳房を弄(もてあそ)ぶように揉みしだく。
妻の息が荒くなり、唇を離すとくぐもった声がこぼれ出た。
中沢は首筋へと唇を這わせていき、パジャマのボタンを外していった。
彼の唇が乳房に触れ、すると妻は夫の顔を両手で引き上げた。
「あなた、お腹空いたでしょう? この先は、あとでゆっくり」
思わせぶりにそう言うと、妻はパジャマのボタンを留めて立ち上がり、キッチンに向かった。
中沢は肩透しを食ったような気持ちになり、苦笑した。
立ち上がると、食卓にいき椅子に坐った。
「あなたがよく眠っていたから起さずにいたのよ。まだ起きてこないようだったら、先に食べようと思ってたけど、よかったわ」
キッチンから微笑みを向ける妻に、中沢は素直な笑みを返した。
美しい妻がそこにいる。
僕の愛した妻が、そこに――
やはり夢だった。
こんなにも美しい妻を殺すことなどできるわけがない。
悪夢を観ていた。
そう、そして、その悪夢からようやくいま目醒めたのだ。
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