上 下
4 / 44

【第4話】

しおりを挟む
 僕は内向的で、その上、「おはよう」や「おやすみ」そして「ありがとう」という言葉が苦手で、特に、「はい」と返事をすることができない子供でした。
 それがあなたには、素直じゃない、ということにつながり、そしてそれを強制されればされるほど、僕は頑なになって口を閉ざしてしまうのでした。
 そしてそれはまた、体罰へとつながったのです。
 真冬の凍えるような寒い夜、台所の板間の上に、裸で正座させられたこともありました。
僕はガタガタ震えながら、閉じられた曇りガラスの戸の奥の、テレビを観ながら笑うあなたの声を聴いていました。
 早く許されることを祈りながら。
 そんな僕の祈りに応えてくれたのは、父でした。
 父はガラス戸を開けると、

「もういいから、入ってこい。寒いだろ?」

 とやさしい声をかけてくれました。
 僕が涙ぐみながら立ち上がろうとすると、「まだダメ!」と言うあなたの声がし、父が「風邪引くだろう」と返すと、

「それぐらいで、風邪なんて引くもんですか。それに、この子は性根を叩き直さなけりゃならないんだから、あなたは黙ってて」

 そう言われて父は、それ以上は何も返せず、ガラス戸から顔を引っこめ、あなたの手が、冷たくガラス戸を閉めたのです。
 母さん、僕はそんなに悪い子だったのでしょうか。
「はい」と返事ができなかったことは、それは確かに素直じゃないことなのかも知れません。
でも、それが体罰となって返ってくるほどのことだったのでしょうか。
 母さん。
 あなたが僕に体罰を加えるとき、あなたの胸の内には、どんな感情が蠢いていたのでしょう。
 弱きものを責めることに、残虐的な悦びにも似た思いが芽生えていたのではなかったのですか? 
 そしてそれは、あなた自身が幼き頃、僕の祖母でありあなたの母から受けた体罰の記憶が蘇り、その恨みと憎しみが蒼白き炎となって、僕を打ち据える手に流れたのではないですか?
 僕にはそう思えてならないのです。
 なぜなら僕にも、弱きものを責める残虐的な悦びを覚えた経験があるからです。
 それは僕が、上京してから5年が経ったころのことです。
 その当時、僕にはつき合っていた彼女がいて、その彼女の誕生日に、ヨークシャ・テリアの仔犬をプレゼントしたことがありました。
 以前から彼女が、仔犬が欲しいと言っていたからです。
 彼女はその仔犬を抱き上げて頬擦りをし、とても歓んでくれました。
 仔犬を彼女は「チロ」と名づけ、でも、彼女の実家では飼うことができず、仕方なく僕の部屋で飼うことになったのです。
 それ以来彼女は、僕に逢いに来るというより、チロに逢いに来るといった感じで可愛がっていました。
 数ヵ月が経つとチロも成犬になり、僕はチロを散歩に連れていく楽しみを覚えました。
 けれどそれも、4、5回ほどで飽きてしまい、僕はチロを散歩に連れていかなくなりました。
 それでチロはストレスが溜まったのでしょう。
 ある日僕が仕事から帰ると、部屋の中が荒らされて乱雑していたときがありました。
 ティッシュの箱は噛み切られて散乱し、ベッドの布団はずれ落ちて、チロの糞と尿にまみれていました。
 僕はその光景に愕然とし、そんな僕にチロはシッポをふって近寄ってきました。
 悪びれた様子もなく、いつものように愛くるしい顔で近づくチロに、僕は凄まじいほどの怒りがこみ上げ、思わず力任せにチロを殴りつけたのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

大好きだ!イケメンなのに彼女がいない弟が母親を抱く姿を目撃する私に起こる身の危険

白崎アイド
大衆娯楽
1差年下の弟はイケメンなのに、彼女ができたためしがない。 まさか、男にしか興味がないのかと思ったら、実の母親を抱く姿を見てしまった。 ショックと恐ろしさで私は逃げるようにして部屋に駆け込む。 すると、部屋に弟が入ってきて・・・

【完結】大丈夫?身重の私をこんな待遇で詰問している騎士様達?

BBやっこ
大衆娯楽
強い女は好きですか?強気な女は可愛くないですか? 捕まった私は騎士の駐屯所へ連行されていた。 身重の私が巻き込まれてしかった騒動。その説明を求められる。 怪しいのは分かったけど、その態度はいかん。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。 「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」 「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」 「・・・?は、はい」 いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・ その夜。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

処理中です...