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【第3話】

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 僕の七五三の記念に、写真館で写真を撮るという日です。
 僕はその日、朝から愚図りだして、あなたがその日のために用意してくれた三つ揃いの服を着ようとせず、あなたが着せてくれようとしても、僕はそれに反抗的な態度を取って、あなたを怒らせました。

「どうしていつもお前はそうなの」

 尻を叩かれ、僕は泣き出して一層愚図りました。

「そんなに行きたくないなら、行かなくていい」

 あなたはそう言うと卓袱台に坐り、僕に背を向けて煙草を喫い始めたのです。
 そんなあなたの姿に僕はやっと服を着て、あなたに近寄りましたが、あなたは僕を許しませんでした。

「もう行かないんだから、洋服なんて着なくていい!」

 あなたは背を向けたままそう言い放ち、僕は、「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も許しを請いました。
 それでもあなたは僕を赦さず、ふり向きざまに僕を睨みつけたのです。
 とにかく僕は、あなたの望む素直で正直な良い子には程遠い子供でした。
 それでもあなたは、根気よく僕を躾けました。
 そして僕は、その度に体罰が待っていることがわかっているのに、あなたに逆らいつづけたのです。
 大人になり、結婚をし、父親になったいま思えば、それは逆らっているとしか考えられません。幼かった僕が、 なぜそれほどまでにあなたに逆らいつづけたのでしょうか。
 まるで他人事のように、いまの僕にはその理由がわからないのです。
 それどころか僕には、その幼きころの、あなたに逆らいつづけ困らせつづけた数々の反抗的な行為や行動の記憶がまったくないのです。
 車道を車が走ってくるとき、センターラインに駆け出していったことも、小鳥の首に輪ゴムをかけて殺してし まったことも、買ってもらえなかったチョコレートを店先に投げたことも、七五三の写真を撮りにいく日に朝から愚図りだしたことも、それはすべて、あなたから聞かされたことなのです。
 それでも、僕にはそういった行為や行動を取っていたという認識はあります。
 叱られながらも、写真館で撮った七五三の写真を観れば、僕には笑顔はなく、ムッとした顔は、泣き腫らしているのがわかるのですから。
 それなのに、僕の記憶の中にあるのは、あなたから受けた体罰ばかりです。
 それは皆、僕の過ちを正すための、あなたの愛の鞭だったことは理解しています。
 けれど、僕の記憶に、受けた体罰ばかりが残っているのは、きっと、その体罰が幼い僕にとって耐えがたいものだったからだと思います。
 こんなことを書いてしまうと、

『素直じゃなかったお前が悪いんだろう、良介――』

 あなたのそんな声が聴こえてきそうです。
 確かに、悪いのは素直になれなかった僕です。
 でも母さん。
 あなたから受けた体罰は、いまでは虐待といってもおかしくないものだったのです。
 あなたはよく僕をつねりました。
 つねられたその個所は、あたなの爪で皮膚が剥け、その痕は紫色になったものです。
 そしてあなたが、僕の手の甲に線香の火を押しつけたのは一度だけではなく、あるときは煙草の火だったこともあります。
 そのときの火傷の痕は、いまでも僕の手の甲に幾つも残っています。
 一生消えることのない傷として。
 そしてまたあなたは、室内を掃くほうきの柄で僕をとく殴りました。
 もうそれは日常といっていいほどで、その痛みに泣きじゃくりながら、僕はどうしてこんなに虐められるのか、僕はどうして生まれてきたのか、そう思う毎日でした。
 それだけに僕は、子供ながらに素直になろうともしました。
 でもそのほとんどが、あなたに上手く伝わらず、結局は失敗に終わってしまうことがほとんどでした。
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