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【Episode 80】
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土曜日。
クララ姫は約束どおり、ご主人の奥さんに連れられて公園にやってきた。
吾輩は改めて、クララ姫をみんなに紹介した。
緊張のためか、クララ姫は自己紹介をすると、それ以上の言葉をつなげることができず、固い微笑みを浮かべているだけであった。
そんなとき、マイケルが、
「昨日は、ゴン太からクララの話を聞いただけだったけど、こうして彼女を眼にしたら、すごく美しいじゃないか。ゴン太に彼女にはもったいないよ。そう思わないか、みんな!」
なんて言い出すものだから、
「いや、マイケル。クララは吾輩の彼女ってわけじゃないから」
吾輩は、想いとは裏腹に否定するしかなかった。
そして、「クララ姫」と口にしなかったのも、そんなことを口に出したとたんに、マイケルがひやかしてくるのは眼に見えていたからである。
そのマイケルは、
「え、そうなのか? それじゃ、おいら彼氏として立候補しちゃおうかな」
今度はそんなことを言い、場は一気に笑いの渦と化した。
本気なのか冗談なのかわからないが、さすがにマイケルは、ムード・メーカーなのだった。
吾輩としては悔しいかぎりであったが、そのお陰もあってか、クララ姫の緊張も和んで、みんなと仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
日曜日。
その日も公園にやってきたクララ姫は、以前からの仲間のようにすっかりみんなと打ち解けていた。
ずっと、気づかずにいてほしかったドン・ビトーもやってきて、
「おまえ、見ない顔だな。新入りか?」
クララ姫の身体を舐めるように見ながらそう言った。
そのドン・ビトーの態度に、クララ姫が顔を顰(しか)めた。
それを見逃さなかった吾輩は、
「彼女は、昨日からこの公園に来るようになったクララ。よろしくたのむよ、ドン」
勇気を持ってクララ姫の前に立ちはだかった。
そこまではよかったが、しかし、吾輩の脚がガクガクと震えてしまっていたのは言うまでもない。
「おい、ゴン太よ。俺様がいつ、おまえに話し掛けたんだ?」
ドン・ビトーは吾輩をぎろりと睨んだ。
そのドン・ビトーは、それでは自分のことを「俺」と言っていたのが、いつの間にか「俺様」に変わっていた。
「い、いや、話し掛けてはないけど、そ、その、クララが君の態度に恐がっていたから……」
心の中では、すでに白旗をふっている吾輩であった。
「恐がっていたから、なんだ。正義の味方のおまえがしゃしゃり出てきて、この俺様の邪魔をするってわけか、あ?」
ドン・ビトーは吾輩の鼻先まで顔を近づけ、牙を覗かせ威圧した。
「そそそ、そんな大それたことを、すす、するつもりは、毛頭ないよ……」
吾輩はビビりまくった。
思わずオシッコがちびりそうになるのを、なんとかこらえた。
「だったら、そこをどけ! 俺様の牙がおまえの喉を咬み切るまえにな」
ドン・ビトーは口端をつり上げ、牙を覗かせた。
吾輩はさらにビビって、いまにも腰が抜けそうになった。
それでも、
「い、いや、どくわけには、いかない」
精一杯の抵抗をみせた。
そして遂に、吾輩はオシッコを少しだけちびらせた。
「ほう、男犬として根性をみせたか。だが、それが無駄な足掻(あが)きだったと、あの世で嘆くんだな」
ドン・ビトーが口を開いて吾輩に飛びかかろうとした、そのとき、
「ビトー、いいかんげんにしろ!」
そう言う声が聴こえた。
その声に顔を向けると、マイケルの姿が!
と思いきやその隣向こうに、小太郎の姿があった。
クララ姫は約束どおり、ご主人の奥さんに連れられて公園にやってきた。
吾輩は改めて、クララ姫をみんなに紹介した。
緊張のためか、クララ姫は自己紹介をすると、それ以上の言葉をつなげることができず、固い微笑みを浮かべているだけであった。
そんなとき、マイケルが、
「昨日は、ゴン太からクララの話を聞いただけだったけど、こうして彼女を眼にしたら、すごく美しいじゃないか。ゴン太に彼女にはもったいないよ。そう思わないか、みんな!」
なんて言い出すものだから、
「いや、マイケル。クララは吾輩の彼女ってわけじゃないから」
吾輩は、想いとは裏腹に否定するしかなかった。
そして、「クララ姫」と口にしなかったのも、そんなことを口に出したとたんに、マイケルがひやかしてくるのは眼に見えていたからである。
そのマイケルは、
「え、そうなのか? それじゃ、おいら彼氏として立候補しちゃおうかな」
今度はそんなことを言い、場は一気に笑いの渦と化した。
本気なのか冗談なのかわからないが、さすがにマイケルは、ムード・メーカーなのだった。
吾輩としては悔しいかぎりであったが、そのお陰もあってか、クララ姫の緊張も和んで、みんなと仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
日曜日。
その日も公園にやってきたクララ姫は、以前からの仲間のようにすっかりみんなと打ち解けていた。
ずっと、気づかずにいてほしかったドン・ビトーもやってきて、
「おまえ、見ない顔だな。新入りか?」
クララ姫の身体を舐めるように見ながらそう言った。
そのドン・ビトーの態度に、クララ姫が顔を顰(しか)めた。
それを見逃さなかった吾輩は、
「彼女は、昨日からこの公園に来るようになったクララ。よろしくたのむよ、ドン」
勇気を持ってクララ姫の前に立ちはだかった。
そこまではよかったが、しかし、吾輩の脚がガクガクと震えてしまっていたのは言うまでもない。
「おい、ゴン太よ。俺様がいつ、おまえに話し掛けたんだ?」
ドン・ビトーは吾輩をぎろりと睨んだ。
そのドン・ビトーは、それでは自分のことを「俺」と言っていたのが、いつの間にか「俺様」に変わっていた。
「い、いや、話し掛けてはないけど、そ、その、クララが君の態度に恐がっていたから……」
心の中では、すでに白旗をふっている吾輩であった。
「恐がっていたから、なんだ。正義の味方のおまえがしゃしゃり出てきて、この俺様の邪魔をするってわけか、あ?」
ドン・ビトーは吾輩の鼻先まで顔を近づけ、牙を覗かせ威圧した。
「そそそ、そんな大それたことを、すす、するつもりは、毛頭ないよ……」
吾輩はビビりまくった。
思わずオシッコがちびりそうになるのを、なんとかこらえた。
「だったら、そこをどけ! 俺様の牙がおまえの喉を咬み切るまえにな」
ドン・ビトーは口端をつり上げ、牙を覗かせた。
吾輩はさらにビビって、いまにも腰が抜けそうになった。
それでも、
「い、いや、どくわけには、いかない」
精一杯の抵抗をみせた。
そして遂に、吾輩はオシッコを少しだけちびらせた。
「ほう、男犬として根性をみせたか。だが、それが無駄な足掻(あが)きだったと、あの世で嘆くんだな」
ドン・ビトーが口を開いて吾輩に飛びかかろうとした、そのとき、
「ビトー、いいかんげんにしろ!」
そう言う声が聴こえた。
その声に顔を向けると、マイケルの姿が!
と思いきやその隣向こうに、小太郎の姿があった。
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