ハニードロップ

蜜柑大福

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寮にて

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寮に着きまだ言う始を無視して始の部屋で騒ぐ事を決めて「また後でな」と言いロビーで別れた。

俺の部屋は今一人暮らし状態だけど、何となく始の部屋で集まっている。

始の同室者は外出が多いから、始も一人暮らしみたいにしている。

紫乃も始の隣が部屋だから始の部屋に勝手に泊まったりしていて、俺も楽に行き来出来る。

フッ、俺に感謝しろよ始…俺は今日始の部屋には行かない。

紫乃と二人っきりにするためにちょっと小芝居をした。

演技には自信はないが、始くらいだったら騙せるだろう。

普通に二人だけで話せと言っても始は紫乃にカッコ悪いところを見せたと会わないだろう、紫乃も会いに行く勇気がないだろう。

だから俺という第三者が割り込む事により二人は変に緊張しないと思った。

数分したら「悪い、行けなくなった」とメールを送り完璧だ。

他人の恋愛は興味がないが友人達なら応援したいと思うのは普通の事だろ?

ついでに始は童貞捨ててこい…その前に処女がなくなるかもしれないけどな。

俺は恋愛とか考えていない、また嫌な思いしたくないし…そもそも好きな人なんていないし、男子校だと出会いがなくていい。

……入学当時は出会いとか全然そんな事を考えていなかった。

今思えば男子校で本当に良かったと思っている。

共学だとまた誰かを好きになりフラれる恐怖に怯えなくてはならなくなる。

自分でも、こんなに恋愛に臆病になるとは思わなかった。

蓋を開けたら男子校でも何人かカップルはいた。

でも俺には関係ないと客観的に見ているから平気だ。

今でもそれは変わらない、河原が来るまでは俺がそんな対象にされた事はなかった。

河原にされ、俺は快楽に弱くキスが好きなんだと気付いたが別に河原が好きなわけではない。

イケメンだが男だし…俺より身長が高く意地悪で俺様な男、好きになる要素が一つもない。

初めて付き合った彼女と似ても似つかない奴だ。

まぁ意外と約束は守るんだなとそこは感心した…紫乃にキスはする必要あったのかと疑問だが…

河原だってゲイではなさそうだった、紫乃にキスをした時俺にキスした時のあの熱っぽい瞳ではなくただ唇を押し当てたように見えたし、周りの好意の反応に無関心だった。

なんで俺だけにあんな顔をするんだ?自信過剰ではなく、純粋に疑問だ。

自分でも普通の顔だと思う、惚れたわけでもないだろうし…

他の奴より喧嘩腰で突っかかったから嫌われてるとか?

そこで合わなかったピースが嵌まったようにスッキリして手を叩いた。

なるほど、嫌いだからあんな嫌がらせをしていたわけか…そう思うと嫌な奴だなと思い始めた。

嫌がらせのためだけに俺はアイツにキスされ触られたのか、腹が立つ。

キスはそんな軽々しくするものじゃないだろ…自分を大切にしろよ。

やるなら正々堂々勝負しろ!殴り合いで勝てる気はしないが拳で語り合い友情が芽生えるもんだろ。

席が隣だし俺としてはあまりギスギスしながら一年間隣で過ごしたくないから友人になるか無関心になるかどっちかにしてほしい。

俺は、河原の事嫌いではないんだよな…キスされても…

「三条優紀くん、だよね」

「…はい?」

なんかまだ自分の部屋に帰る気がしなくてロビーのベンチに座り考え事をしていたら、声を掛けられそちらを見る。

そこにいたのは寮の管理人である若い男だった。

あまり生徒に声を掛ける管理人ではなく、名前も入寮の時一度だけ聞いただけだから忘れた。

かろうじて顔は寮で見かける事があるから覚えていた。

何の用だろうか、管理人が声を掛けてくるなんて珍しい。

「君の部屋の事なんだけどね、今日から二人部屋になる事が決まったから」

「……は?」

「今日決まった事だから急で悪いね、君なら適任だと担任の先生から言われてるから…他に空きはないんだ」

適任って、ただ空きが俺の部屋しかないって事だろ。

それって誰が相手でも適任になるんじゃないのか?

用件だけ言い管理人は管理人室に向かって歩き出した。

突然の事で理解するのに少し時間が掛かった。

いきなり二人部屋って言われても、どうすればいいんだ?

確かに寮部屋のほとんどは二人部屋だ。

人数が余っていたから俺は一人部屋を使わせてもらっている。

管理人に文句を言える事ではない。

いったい誰なんだ?同学年が同室になるから同じクラスか、それとも別のクラスか。

さっきまで友人同士が上手くいくかなと思っていたのに。

快適な一人部屋が崩れていく、始と紫乃の恋仲どころじゃない!

誰かが実家から寮生活に変えたって事だよな。

いきなりプライベートに他人が入ってくるのはとても嫌で急いで部屋に向かって走る。

もう誰かいるのだろうか、担任が決めたならさっき言ってくれれば良かったのに…

途中から寮に入る奴もいる、家の都合とか…でもそんな奴は滅多にいないから珍しい。

三階の自分の部屋の前に立つ、ドアに耳を当てるが人がいる気配はない。

息が切れて苦しい、全速力だったからな…なんとか落ち着こうと深呼吸する。

表札はまだ俺のしかない、誰が同室者か分からない。

事前に知ってたら掃除もしていたのに、散らかってはいないが他人が来るならある程度綺麗にしていた。

でも、まだ誰もいないなら間に合うか…さっさと掃除して新しい同室者を迎えよう。

いろいろ考えても仕方ない、上手くやっていくしかないんだから。

カバンから鍵を取り出し、差し込む…カチャと音がしてドアが開いた事を知らせる。
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