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第四章 6月
お姉さま、予想外です! 4
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「東郷先輩、あの、ありがとうございます」
「私、感じが悪かったかしら?」
柚鈴がお礼を言うと、東郷先輩はすぐに質問してきた。
「ええと…」
「感じ悪く思えたわよね?それなら良いのだけど」
「いいんですか?」
「ええ。そうすればあの人達は、私のせいに出来るでしょう?」
「え?」
言ってることの意味が分からずに柚鈴が聞き返すと、幸が隣からもしかして、と質問してくる。
「あの…先輩方の憎まれ役になるおつもりでしたか?」
「まあ、それに近いものは狙っていたけれど」
東郷先輩は頷いた。
柚鈴は意味が分からずにいると、幸はすぐに気付いたようで教えてくれる。
「柚鈴ちゃんが断っても角が立つでしょう?上級生だし。だから同じ学年の東郷先輩が強引に話を断ったということにしたんじゃないかなって」
「え?」
柚鈴は目を見開いてから、東郷先輩を見つめた。
そ、そんなことを考えてくれてるなんて、思いもしなかったのだ。
しかし東郷先輩は幸の質問を肯定している。
つまり、あの攻撃的な態度も全部柚鈴のため…?
信じられないような気持でいると、東郷先輩は苦笑した。
「体育祭のことがあったから、こんなことがあるんじゃないかと思って気にはしていたの。今日見つけられたのは運が良かったとしか言いようがないけれど。私は丸く収めるのは上手でもないし、どうせ収まらないなら、下級生の柚鈴さんよりも私が表に出た方が良いと思ったのよ」
「そ、そんな。申し訳ないです」
「先日お姉さまにも言われたけど、私は多少柚鈴さんに強引だったから、お詫びと思ってくれればいいわ」
お姉さま…助言者である荻原翔子さんの一言は東郷先輩にはよほど重いのだろう。
東郷先輩はいつになく殊勝な態度だった。
「でも、先ほどの人達と気まずくなりませんか?」
「ならないこともないでしょうけど、先ほどの方たちとはクラスも違うし。それに下級生一人に大勢に詰めかけるのはマナー違反だったと思うから、いいわ。話してみなければ始まらないけれど、それはもっと個人の責任のあるものだと思うから」
あっさりと言った東郷先輩だが、それでも先ほどのため息を思い出すと、本当は争い事は好きではないのかもしれない。
意外な一面だ。
そのままそこにいても仕方ない、とばかりに東郷先輩は先を促して歩き出した。
「でも柚鈴さん。今後はもっとお誘いを受けるわよ」
「…」
「先ほどの方たちもそうだけど、悪意のないものは断りにくいけれど大丈夫?」
さりげなく告げられた言葉に、柚鈴は言葉もない。
柚鈴の様子に、東郷先輩は呆れたように付け足した。
「私とペアになってしまえばいいのに」
「え、ええ?!そ、それは、すみません…」
柚鈴がしどろもどろになると、そんな態度は予想内だったかのように東郷先輩の表情は動かなかった。
「前年度の生徒会長、小鳥遊志奈さんだけがあなたのお姉さまなのね?」
「…はい」
改めて聞かれると、多少恥ずかしいような気もするが、今更変に否定しても仕方ない。
柚鈴はこくりと頷いた。
「小鳥遊志先輩の方はどうなのかしら?」
「え?」
「小鳥遊先輩は昨年度、とても人気のあった方よ。憧れているひとも多いみたいだし、噂も…」
東郷先輩は何か気になることがあるように考え込んだ。
「噂ですか?」
そう柚鈴が聞き返すと、眉を顰めて首を振った。
「噂は噂ね。柚鈴さんがお姉さまは1人だと言うのなら、それでいいわ」
「いい、ですか?」
「姉妹がいても別に助言者を持つ人達も沢山いるし、それで完全に諦めるつもりもないけれど、小鳥遊志奈先輩といえば、私のお姉さまも一目置く存在だったから。柚鈴さんが中々他に気持ちがいかないのも分からないではないわ」
「…」
「そんなに意外そうな顔しないでくれる?」
「いえ、あの」
「私、感じが悪かったかしら?」
柚鈴がお礼を言うと、東郷先輩はすぐに質問してきた。
「ええと…」
「感じ悪く思えたわよね?それなら良いのだけど」
「いいんですか?」
「ええ。そうすればあの人達は、私のせいに出来るでしょう?」
「え?」
言ってることの意味が分からずに柚鈴が聞き返すと、幸が隣からもしかして、と質問してくる。
「あの…先輩方の憎まれ役になるおつもりでしたか?」
「まあ、それに近いものは狙っていたけれど」
東郷先輩は頷いた。
柚鈴は意味が分からずにいると、幸はすぐに気付いたようで教えてくれる。
「柚鈴ちゃんが断っても角が立つでしょう?上級生だし。だから同じ学年の東郷先輩が強引に話を断ったということにしたんじゃないかなって」
「え?」
柚鈴は目を見開いてから、東郷先輩を見つめた。
そ、そんなことを考えてくれてるなんて、思いもしなかったのだ。
しかし東郷先輩は幸の質問を肯定している。
つまり、あの攻撃的な態度も全部柚鈴のため…?
信じられないような気持でいると、東郷先輩は苦笑した。
「体育祭のことがあったから、こんなことがあるんじゃないかと思って気にはしていたの。今日見つけられたのは運が良かったとしか言いようがないけれど。私は丸く収めるのは上手でもないし、どうせ収まらないなら、下級生の柚鈴さんよりも私が表に出た方が良いと思ったのよ」
「そ、そんな。申し訳ないです」
「先日お姉さまにも言われたけど、私は多少柚鈴さんに強引だったから、お詫びと思ってくれればいいわ」
お姉さま…助言者である荻原翔子さんの一言は東郷先輩にはよほど重いのだろう。
東郷先輩はいつになく殊勝な態度だった。
「でも、先ほどの人達と気まずくなりませんか?」
「ならないこともないでしょうけど、先ほどの方たちとはクラスも違うし。それに下級生一人に大勢に詰めかけるのはマナー違反だったと思うから、いいわ。話してみなければ始まらないけれど、それはもっと個人の責任のあるものだと思うから」
あっさりと言った東郷先輩だが、それでも先ほどのため息を思い出すと、本当は争い事は好きではないのかもしれない。
意外な一面だ。
そのままそこにいても仕方ない、とばかりに東郷先輩は先を促して歩き出した。
「でも柚鈴さん。今後はもっとお誘いを受けるわよ」
「…」
「先ほどの方たちもそうだけど、悪意のないものは断りにくいけれど大丈夫?」
さりげなく告げられた言葉に、柚鈴は言葉もない。
柚鈴の様子に、東郷先輩は呆れたように付け足した。
「私とペアになってしまえばいいのに」
「え、ええ?!そ、それは、すみません…」
柚鈴がしどろもどろになると、そんな態度は予想内だったかのように東郷先輩の表情は動かなかった。
「前年度の生徒会長、小鳥遊志奈さんだけがあなたのお姉さまなのね?」
「…はい」
改めて聞かれると、多少恥ずかしいような気もするが、今更変に否定しても仕方ない。
柚鈴はこくりと頷いた。
「小鳥遊志先輩の方はどうなのかしら?」
「え?」
「小鳥遊先輩は昨年度、とても人気のあった方よ。憧れているひとも多いみたいだし、噂も…」
東郷先輩は何か気になることがあるように考え込んだ。
「噂ですか?」
そう柚鈴が聞き返すと、眉を顰めて首を振った。
「噂は噂ね。柚鈴さんがお姉さまは1人だと言うのなら、それでいいわ」
「いい、ですか?」
「姉妹がいても別に助言者を持つ人達も沢山いるし、それで完全に諦めるつもりもないけれど、小鳥遊志奈先輩といえば、私のお姉さまも一目置く存在だったから。柚鈴さんが中々他に気持ちがいかないのも分からないではないわ」
「…」
「そんなに意外そうな顔しないでくれる?」
「いえ、あの」
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