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第四章 6月
お姉さま、予想外です! 3
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…それって、何の問題も解決していない。
根本的な発想の違いすぎて困ってしまう。
するとまるで柚鈴と同じような感じているかのように東郷先輩は大きなため息をついてみせた。
「私は、その日誰とどう過ごすかは、柚鈴さんの自由ではないかと言っているんですけど?」
…意外にも、東郷先輩がまともなことを言っている。
まさかそんなことを言うとは。
失礼かもしれないけれど、いつもは柚鈴の自由を奪おうとしている人、だと思っていた東郷先輩がだ。
思わずあっけに取られていると、『集団の先輩方』はあからさまにむっとした様子だった。
「まあ」
「それでは、私たちが小鳥遊柚鈴さんの自由を奪ってるみたいじゃない」
「実際そう見えます」
東郷先輩は容赦がなかった。
一瞬でも、東郷先輩が救いに思えた気持ちを振り切ってしまうほど、戦闘モードに入ってしまっていることに気付く。
待って、東郷先輩。
私のことで争わないで、とかなんとか言って、茶化して引き止めたい気持ちだが、間に合わない。
東郷先輩の攻撃が始まってしまった。
「柚鈴さんの助言者にどうしてもなりたいという強い気持ちもなく、ただ前年度の憧れの生徒会長の義理の妹というだけで寄ってきた方々に、自分のペアにしたいと感じている後輩が振り回されるのは不快です」
いや、確かに。東郷先輩の言ってることはその通りなのだが、明らかにまずい気がする。
ちらり、と横にいる幸に目線を寄越すと顔を引きつらせて固まっている。
…ご、ごめん。幸ちゃん。またそんな顔をさせて。
柚鈴は心の中で謝った。
そんな1年生の気持ちなど知らず、2年生の会話は進んでいく。
「酷いわ、そんな言い方」
「酷い?事実と全く異なることを私は言いましたか?それでしたら是非どの辺がどう違うか教えて頂きたい」
酷薄、ともとれる笑みを浮かべた東郷先輩は反論があればどうぞ、と促して見せた。
東組特待生の一人である東郷先輩の得意なのはこういう言い合いなのだろうか。その言葉の強さは武器にもなるのだろう、と思った。
強引なお誘いは何度か受けたが、ここまで攻撃的だったことはない、と思う。
柚鈴に対する好意はあったから。
今みたいな東郷先輩の相手はなるだけしたくない、というのが正直な所だ。泣いてしまうかもしれない。
『集団の先輩方』は既に東郷先輩の物言いにムッとしながらも困惑しているようで、少し考えてから、言葉を返した。
「…少なくとも振り回してはいないつもりです」
「それは主観的な話でしょう。柚鈴さん、あなた、この方々とお昼と放課後をご一緒にしたいという気持ちがあるの?」
「それは…」
うわ、ここで話を振りますか。
柚鈴は冷や汗を感じた。
東郷先輩の刺々しい態度には賛同しがたい気持ちがある。
しかしこの言葉に否定的な言葉を返せば、後々困るのも用意に想像できる。
どちらを選んでも無傷ではいられないんじゃないだろうか。
か、角の立たない人生を歩みたいのに…
その場にいる先輩方全員に返答を待たれて、柚鈴は泣きたい気持ちになった。
しかし、泣いてどうなるような状況でもなかった。
迷ったら、一番譲れないことは死守しよう。
そう思って、絞り出すように口を開いた。
「……すみません」
『集団の先輩方』にそう告げて頭を下げた。向こうから困惑した様子の雰囲気が伝わってくる。
柚鈴が気まずくていたたまれなくなるより先に、東郷先輩が柚鈴の手を引いた。
「お話は済んだということで、では失礼します」
そのまま、スタスタと歩きだしてしまう。
勢いのある東郷先輩に引きずられるように柚鈴はついていくことになり、幸が戸惑ってから、先輩方に頭を下げて追いかけてきた。
東郷先輩の手は、妙に力強く、痛いぐらいだった。
少し力を緩めてもらえないかお願いしようと声を掛けようとして柚鈴は気付いた。
東郷先輩の顔は妙にこわばっている。
もしかして、気を張ってる?
そんなことを柚鈴が思っていると、どうやら正解だったらしい。
校門の中に入り、置いてきた人たちが見えなくなると、東郷先輩は気が抜けたと言わんばかりにため息をついた。
根本的な発想の違いすぎて困ってしまう。
するとまるで柚鈴と同じような感じているかのように東郷先輩は大きなため息をついてみせた。
「私は、その日誰とどう過ごすかは、柚鈴さんの自由ではないかと言っているんですけど?」
…意外にも、東郷先輩がまともなことを言っている。
まさかそんなことを言うとは。
失礼かもしれないけれど、いつもは柚鈴の自由を奪おうとしている人、だと思っていた東郷先輩がだ。
思わずあっけに取られていると、『集団の先輩方』はあからさまにむっとした様子だった。
「まあ」
「それでは、私たちが小鳥遊柚鈴さんの自由を奪ってるみたいじゃない」
「実際そう見えます」
東郷先輩は容赦がなかった。
一瞬でも、東郷先輩が救いに思えた気持ちを振り切ってしまうほど、戦闘モードに入ってしまっていることに気付く。
待って、東郷先輩。
私のことで争わないで、とかなんとか言って、茶化して引き止めたい気持ちだが、間に合わない。
東郷先輩の攻撃が始まってしまった。
「柚鈴さんの助言者にどうしてもなりたいという強い気持ちもなく、ただ前年度の憧れの生徒会長の義理の妹というだけで寄ってきた方々に、自分のペアにしたいと感じている後輩が振り回されるのは不快です」
いや、確かに。東郷先輩の言ってることはその通りなのだが、明らかにまずい気がする。
ちらり、と横にいる幸に目線を寄越すと顔を引きつらせて固まっている。
…ご、ごめん。幸ちゃん。またそんな顔をさせて。
柚鈴は心の中で謝った。
そんな1年生の気持ちなど知らず、2年生の会話は進んでいく。
「酷いわ、そんな言い方」
「酷い?事実と全く異なることを私は言いましたか?それでしたら是非どの辺がどう違うか教えて頂きたい」
酷薄、ともとれる笑みを浮かべた東郷先輩は反論があればどうぞ、と促して見せた。
東組特待生の一人である東郷先輩の得意なのはこういう言い合いなのだろうか。その言葉の強さは武器にもなるのだろう、と思った。
強引なお誘いは何度か受けたが、ここまで攻撃的だったことはない、と思う。
柚鈴に対する好意はあったから。
今みたいな東郷先輩の相手はなるだけしたくない、というのが正直な所だ。泣いてしまうかもしれない。
『集団の先輩方』は既に東郷先輩の物言いにムッとしながらも困惑しているようで、少し考えてから、言葉を返した。
「…少なくとも振り回してはいないつもりです」
「それは主観的な話でしょう。柚鈴さん、あなた、この方々とお昼と放課後をご一緒にしたいという気持ちがあるの?」
「それは…」
うわ、ここで話を振りますか。
柚鈴は冷や汗を感じた。
東郷先輩の刺々しい態度には賛同しがたい気持ちがある。
しかしこの言葉に否定的な言葉を返せば、後々困るのも用意に想像できる。
どちらを選んでも無傷ではいられないんじゃないだろうか。
か、角の立たない人生を歩みたいのに…
その場にいる先輩方全員に返答を待たれて、柚鈴は泣きたい気持ちになった。
しかし、泣いてどうなるような状況でもなかった。
迷ったら、一番譲れないことは死守しよう。
そう思って、絞り出すように口を開いた。
「……すみません」
『集団の先輩方』にそう告げて頭を下げた。向こうから困惑した様子の雰囲気が伝わってくる。
柚鈴が気まずくていたたまれなくなるより先に、東郷先輩が柚鈴の手を引いた。
「お話は済んだということで、では失礼します」
そのまま、スタスタと歩きだしてしまう。
勢いのある東郷先輩に引きずられるように柚鈴はついていくことになり、幸が戸惑ってから、先輩方に頭を下げて追いかけてきた。
東郷先輩の手は、妙に力強く、痛いぐらいだった。
少し力を緩めてもらえないかお願いしようと声を掛けようとして柚鈴は気付いた。
東郷先輩の顔は妙にこわばっている。
もしかして、気を張ってる?
そんなことを柚鈴が思っていると、どうやら正解だったらしい。
校門の中に入り、置いてきた人たちが見えなくなると、東郷先輩は気が抜けたと言わんばかりにため息をついた。
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