拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、勝負です! 5 ~小牧ひとみのやる気~

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また怒られないように、用心深く遥の様子を伺いながら花奏は聞いた。
「ひとみさまが、どうかされましたか?」
「…私、貴女があの子のことをお姉さまって呼んでいること、気づいていてよ」
「う…」
「こそこそするのはお止めなさい。別にそうしたいなら怒らないわ」
少し優しい口調が混じるような気がした。
花奏は思わず感動する。さすが!さすがは遥さま!!お姉さまの助言者メンター!怒らずに認めてくださった!
思わずニヤリとしてしまってから、頬を緩めたまま聞き直した。
「お姉さまが、どうかされましたか?」
花奏の言葉を宣言どうりに怒らず、遥さまは何かを思い出したようにため息をついた。
「…あの子が今年、参加する競技。あなた知っていて?」
「いえ、聞かされてません」
そういえば。
確かに何度か聞いたのだけど、当日のお楽しみ、とか言われて教えてもらっていない。
そして競技に出ている姿も見ていない。と言うことは何かに出ていないのだろう。
花奏が見逃すはずはないのだ。それは自信がある。
小牧ひとみは、南組の生徒だから、体育祭の競技は最低2つは出るはずだ。出れる最大数は4つ。

「あれ??」
そこでふと花奏は気付いた。
もう残す競技は組対抗リレーのみ。
ダンス部新体操部合同ダンスは、部活での参加ではあるが、数に入れていいことになっている。だがリレーに出るとしても数が少なすぎではないだろうか。
もちろん南組であっても、最低数の数でれば体裁は保てるが、ちょっとおかしい。
だって小牧ひとみは…。
花奏が首を傾げた時、遥は忌々し気にいった。

「あの子、借り物競争にしか出ない気だったのよ」
「は?」
花奏は我ながら、間抜けな声を出してしまったことに気付いた。
借り物競争?
確かに体育祭において目玉競技ではある。だがこう言ってはなんだが、ひとみにとって旨味のある競技とは言えない。
だって小牧ひとみには、助言者メンターもメンティもいるのだ。
まあ、決まっている相手と走っても悪いわけではないだろうが、南組の生徒が、しかも小牧ひとみが、借り物競争だけとはおかしかった。
小牧ひとみの身体能力は飛びぬけているのだ。それこそ陸上競技においても。
そのことで高等部進学の際、ひとみを巡ってひと悶着あったし、それを終結させてくれたのが、この市原遥さまだ。
当然、あらゆる競技にお誘いがあるはずだった。

「で、でも、お姉さま、借り物競争の参加者にいなかったような…」
「組対抗リレーの参加者が急遽、どうしても借り物競争に出たいって言うから代わってあげたんですって」
「…わぉ」

本当に借り物競争にしか出ないつもりだったんだと知って、驚きのあまり感嘆の言葉を出すと、遥さまに睨まれてしまい慌てて目を逸らした。
しかし、遥の怒りは既にひとみお姉さまにあるのだろう。
そのことをそれ以上咎められることはなかった。

「たいしてやる気のない顔していて、腹が立つったらないわ」
「遥さま、どうしてそんなこと許したんですか?遥さまに言われれば、ひとみさまだって…」
「あの子がそんなことしてるなんて知らなかったわよ!あなたもでしょう?!」
「でした~。すみませ~ん…」
遥さまも、ひとみさまの体育祭参加競技数を知らなかった。
考えてみれば当然である。
もし遥さまが前もって知っていたら、ひとみさまは参加可能数MAXで白組に貢献できる競技に参加させられていたはずだ。
『白組と私のために貢献なさい!』とかなんとか言って。
そして、ひとみさまは喜んで参加していたはず、なのだが。

…え~と。
花奏はここで、単純な疑問が浮かんでしまった。
「ええと、それでどうして今私は遥さまに連れられているのでしょうか?」
もはや最後の競技は組対抗リレーのみ。形はどうであれ、それにひとみさまが出ることになった今、遥先輩が事を知って怒っているのはまだ分かるのだが、なぜ花奏を連れて、そしてどこに行こうというのか。

遥は立ち止まって振り返るとはっきり言った。
「責任を取ってもらうためよ」
「責任?」
「ええ」
意味が分からずに聞き返すと、遥さまは強い視線を花奏に向けてはっきり言った。

「ひとみは、あなたと組が分かれて応援されないから、やる気が出ないそうよ」
「へ?」
「だから私は助言者メンターとして、あの子の行動を正す義務があるの。反論は許さなくてよ?」
きっぱりと言い切った遥の視線は、有無を言わさぬ迫力を秘めていた。
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