189 / 282
第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭です! 9 ~明智絵里~
しおりを挟む
明智絵里は自己分析すると、自分という人間は他人と合わせることが、とても苦手だと考えている。
努力して積み重ねて習得できるもの。例えば勉強だとか、ソロでの楽器演奏だとか。
そういったものは得意だ。
勉強での答えが流動的に変わるなんてことはあまりないし、楽器は楽譜通りに引けばいい。
特にメトロノームのように、きっちりと同じテンポを刻んでくれるものがあれば、それに合わせればいいから簡単だ。
でも、人と行動を共にすることはそうはいかない。
周りの人のその時の環境や気分で行動やリズムが変わってしまうから、正しい答えがないんじゃないかって思うのだ。
でも周りの人は、正しい答えを知っているように、行動を合わせていく。
そう、例えばこの『ムカデ競争』みたいに。
1年白組からの出場選手である明智絵里は、口から「1.2.1.2」と掛け声を他の人と合わせながら、懸命に足を動かしていた。
自分が口から出してる言葉と、足のリズムがあっているかさえ、もはや分からなかった。
ただ、練習していたときと同じように、なるだけ周りに合わせようと動くだけだ。
不思議なもので、運動神経が良い人はこういった競技の際、少しばかりリズムがずれても、周りの迷惑になることなく、淡々と自分のリズムを刻んでいけるようだ。
まるで天性の感覚でも持っているように、ぶれることはない。
だが、明智絵里は違う。
周りとずれてしまうと、混乱してリズムが分からなくなり、ガタガタと崩れてしまう。
修正が効かなくなうと足がもたつくので、ひたすら掛け声と前の人の動きに集中して足を動かすだけだ。
私は、本当に不器用だわ。
学年主席であり、勉強に置いては誰よりも秀でて、要領の良さも発揮出来る明智絵里が、まさかそんな風に思っているなどと、周りは思わないだろう。
だが彼女は、本当にそう思っていた。
世の中なんて、普遍的なものばかりだというのに、それに合わせると言うセンスがない。
そのことが彼女にとって、努力では解消しずらい大きな問題なのだ。
それでも、出来ないなら努力するしかない。
細やかでも、懸命に頑張る以外ない。
どうしても、自分の刻むリズムがずれていると感じつつも、その感覚に巻き込まれないように練習通りに足を動かして。
ムカデの真ん中程度にいて、良く見えるわけではないけれど、スタート地点では遥か遠くにしか感じないゴールが近づいてきているのは分かる。
この勝負はグランド一周。
コーナーを曲がり直線コースに入っている。
同じチームの選手は、競っている隣を走る黄組のムカデを気にして、掛け声を大きくし、ペースを上げているので、リズムは速くなっていっているのだが、明智絵里は前の人の動きと声だけに集中しているので気づいてはいない。高揚している周りとひたすら集中している明智絵里では、その点がまず大きく違う。
ただひたすら、リズムが合わないことに焦りを覚えつつ、合わせているだけだ。
リズムの修正。リズムの修正。リズムの修正。
練習ではなかったノーミスでここまで来ていることにも、まるで気づいていない程の集中力だ。
そのことだけに意識を傾けて、周りの状況など見えてないという姿勢は間違いなく才能の一つなのだが、本人も周りも今この瞬間にそのことには中々気づかないだろう。
そのまま、ゴールに到着して。
同じ白組の選手がそこで気を抜いて将棋倒しに倒れ込むのに巻き込まれつつ。
明智絵里は一度大きく息を吐いてから、まだ頭の中でリズムを刻んでいる自分をどこか冷静な気持ちで感じた。
周りの喜ぶ声に、どうやら上手くいったらしいと感じながら、冷静でいるために整理し続けた感覚のせいで、中々達成感を感じない。
努力が成果を上げたこの時にも、何か自分の中に抜け落ちてるものを感じてしまうのだった。
努力して積み重ねて習得できるもの。例えば勉強だとか、ソロでの楽器演奏だとか。
そういったものは得意だ。
勉強での答えが流動的に変わるなんてことはあまりないし、楽器は楽譜通りに引けばいい。
特にメトロノームのように、きっちりと同じテンポを刻んでくれるものがあれば、それに合わせればいいから簡単だ。
でも、人と行動を共にすることはそうはいかない。
周りの人のその時の環境や気分で行動やリズムが変わってしまうから、正しい答えがないんじゃないかって思うのだ。
でも周りの人は、正しい答えを知っているように、行動を合わせていく。
そう、例えばこの『ムカデ競争』みたいに。
1年白組からの出場選手である明智絵里は、口から「1.2.1.2」と掛け声を他の人と合わせながら、懸命に足を動かしていた。
自分が口から出してる言葉と、足のリズムがあっているかさえ、もはや分からなかった。
ただ、練習していたときと同じように、なるだけ周りに合わせようと動くだけだ。
不思議なもので、運動神経が良い人はこういった競技の際、少しばかりリズムがずれても、周りの迷惑になることなく、淡々と自分のリズムを刻んでいけるようだ。
まるで天性の感覚でも持っているように、ぶれることはない。
だが、明智絵里は違う。
周りとずれてしまうと、混乱してリズムが分からなくなり、ガタガタと崩れてしまう。
修正が効かなくなうと足がもたつくので、ひたすら掛け声と前の人の動きに集中して足を動かすだけだ。
私は、本当に不器用だわ。
学年主席であり、勉強に置いては誰よりも秀でて、要領の良さも発揮出来る明智絵里が、まさかそんな風に思っているなどと、周りは思わないだろう。
だが彼女は、本当にそう思っていた。
世の中なんて、普遍的なものばかりだというのに、それに合わせると言うセンスがない。
そのことが彼女にとって、努力では解消しずらい大きな問題なのだ。
それでも、出来ないなら努力するしかない。
細やかでも、懸命に頑張る以外ない。
どうしても、自分の刻むリズムがずれていると感じつつも、その感覚に巻き込まれないように練習通りに足を動かして。
ムカデの真ん中程度にいて、良く見えるわけではないけれど、スタート地点では遥か遠くにしか感じないゴールが近づいてきているのは分かる。
この勝負はグランド一周。
コーナーを曲がり直線コースに入っている。
同じチームの選手は、競っている隣を走る黄組のムカデを気にして、掛け声を大きくし、ペースを上げているので、リズムは速くなっていっているのだが、明智絵里は前の人の動きと声だけに集中しているので気づいてはいない。高揚している周りとひたすら集中している明智絵里では、その点がまず大きく違う。
ただひたすら、リズムが合わないことに焦りを覚えつつ、合わせているだけだ。
リズムの修正。リズムの修正。リズムの修正。
練習ではなかったノーミスでここまで来ていることにも、まるで気づいていない程の集中力だ。
そのことだけに意識を傾けて、周りの状況など見えてないという姿勢は間違いなく才能の一つなのだが、本人も周りも今この瞬間にそのことには中々気づかないだろう。
そのまま、ゴールに到着して。
同じ白組の選手がそこで気を抜いて将棋倒しに倒れ込むのに巻き込まれつつ。
明智絵里は一度大きく息を吐いてから、まだ頭の中でリズムを刻んでいる自分をどこか冷静な気持ちで感じた。
周りの喜ぶ声に、どうやら上手くいったらしいと感じながら、冷静でいるために整理し続けた感覚のせいで、中々達成感を感じない。
努力が成果を上げたこの時にも、何か自分の中に抜け落ちてるものを感じてしまうのだった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~
テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。
なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった――
学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ!
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
DECIDE
yuri
青春
中学生時代、イケメンで成績優秀、スポーツ万能という非の打ち所がない完璧な少年がいた。
少年はオタクだった。嫌いなキャラは『何でもできてイケメンでモテる主人公』
そしてある日気付く「これ…俺のことじゃね?」そして決心した。
『高校生活では、目立たないように過ごす!」と、思っていたのに…
ほのぼの学園百合小説 キタコミ!
水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。
ほんのりと百合の香るお話です。
ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。
イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。
★Kindle情報★
1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4
2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP
3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3
4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P
5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL
6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ
Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H
★第1話『アイス』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE
★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI
★Chit-Chat!1★
https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる