179 / 282
第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭への準備です 10
しおりを挟む
…体育祭終わったくらいに、遥先輩と凛子先輩には、志奈さんのことをちゃんと言おうかな…
素直すぎる程に、柚鈴の誤魔化しを信じてくれる遥先輩にも、一生懸命、柚鈴たちをフォローしてくれる凛子先輩にも、感謝の気持ちしかない。
二人ならば、それを正直に伝えても、受け止めてくれそうな気もする。
多少怒られたりするかもしれないけれど、それは今まで黙っていたのだから仕方ない。柚鈴自身が悪い。
本当に今更、と言われても仕方ないけれど。
早く伝えたい気持ちにもなってきていた。
ただ、体育祭前のこの慌ただしい時に伝えることが良いのかどうか。
うん。体育祭が終わったら、二人に話そう。
密かにそう決意をした。
そんな柚鈴の気持ちを知らない遥先輩は話の続きが気になったらしい。柚鈴に促してくる。
「でも、体育祭は平日よ。紫乃舞さまを、あなた体育祭に連れ出せるの?」
「連れ出すと言うかなんというか。今日、大学はどうにかして体育祭を見に行くと言われてましたので」
その目的が、柚鈴のペア作りの邪魔をする、ということは一先ずおいておくことにする。
だがありがたいことに、遥先輩は、なんでどうしてなどとは言い出さなかった。
「紫乃舞さまが?…まあ、あの方なら、そんな発想もあり得ないことではないけれど…」
「どういう人なんですか…」
「どう、というか。柚鈴さん、今日お会いしたんでしょう?ああいう方なのよ」
説明するまでもない、といった口調の遥先輩だ。
それだけで済まそうとする遥先輩は、随分とおおざっぱな気もするが、妙に言いたいことも分かる気がするので複雑な所だ。
とにかく、しのさんは、本当に体育祭に来そうな人なんだなと思う。
…大丈夫なんだろうか。
あの人、体育祭をかき混ぜそうだけど。
柚鈴が見たままが、しのさんということなら、そういうことである。
「私は、紫乃舞さまと一緒に走ることが出来るなら、今回の件、上手くまとまるかもしれないと思うわ」
「…本当にそう思われるのですか?」
「ええ。紫乃舞さまと競おうとする方なんて、ほとんどいないのではないかしら?」
「…危険人物だからですか?」
「あなた面白いことを言うわね」
…私は、ちっとも面白くありません
「なんだか楽しみになって来たわ。是非、一緒に走ってね」
「…いや、私の目的は人を楽しくすることではないんです」
「あら、ほほほ」
遥先輩は、自分が私欲に走ったことを言ったことに気付いたように、誤魔化して笑った。
「でも、紫乃舞さまはああいった方だから、支援者も多かったのよ。つまらない学園生活を出来る限り面白くしたいと仰ってて。実際なさったことはユニークなことばかりだったから」
「支援者がいたんですか?本当に多かったんですか?…というかいたのは支援者だけですか?」
思わず怪しんで聞くと、遥先輩はとぼけたように目線を逸らした。
「そうねえ。突拍子もないことをされるから、支援者と同じくらい批判したりされることも多かったかもしれないわね」
…ですよねえ。
しれっと言ってのけるあたり、遥先輩もなかなかいい性格をしている。
ほほほっと軽く笑ってごまかして、遥先輩は付け足した。
「同じ学年に生徒会長として小鳥遊志奈さまがいらっしゃったから、大きな問題になったようなこともなかったし。まあ、いらっしゃらなかったら問題になったことも多かったかもしれないけれど」
「…例えば、どんなことがあったんですか?」
思わず聞いてしまった柚鈴に、答えを返しかけてから、何かに気付いたようにして遥先輩はふふっと笑った。
「教えてあげてもいいけれど、今度にした方がいいと思うわ」
「え?」
「お食事をなさったほうがいい、ということ。あなたのお友達は二人とも終わらせているわよ」
「ええ!?」
その言葉に柚鈴が振り返ると。
気が付けば、薫だけでなく幸まで食事を終えている。
どうやら、柚鈴が遥先輩と話している間、黙々と食事をしていたらしい。
そして食事を終えた今度は、疲れたためだろう、眠そうに目を細めている。
どうりで、さっきから何も言わなかったはずである。
疲れと戦いながら、黙々と食べていたのだろう。
「ごめん、二人とも」
「まあ、いいよ。そろそろ部屋に帰るつもりだったけどさ」
「柚鈴ちゃん~。私は待ってるから安心していいよ~」
しかし幸は半分寝ている。薫が反抗されないのを良いことに、よしよしと頭を撫でると、小さく頭を振るませて、嫌そうにしている。
…これは申し訳ない。
遥先輩はにっこりと笑った。
「私も食事をしたいから、お話は今度にしましょう。せっかくの料理が覚めてしまっていてよ?」
「はい、食べます。ありがとうございました」
「ええ。それではごきげんよう」
遥先輩と薫が立ち去っていくと、柚鈴は慌てて食事と向き合った。
確かにすっかり冷めてしまっている。
幸が寝てしまわないうちにと、柚鈴は箸を急いだ。
素直すぎる程に、柚鈴の誤魔化しを信じてくれる遥先輩にも、一生懸命、柚鈴たちをフォローしてくれる凛子先輩にも、感謝の気持ちしかない。
二人ならば、それを正直に伝えても、受け止めてくれそうな気もする。
多少怒られたりするかもしれないけれど、それは今まで黙っていたのだから仕方ない。柚鈴自身が悪い。
本当に今更、と言われても仕方ないけれど。
早く伝えたい気持ちにもなってきていた。
ただ、体育祭前のこの慌ただしい時に伝えることが良いのかどうか。
うん。体育祭が終わったら、二人に話そう。
密かにそう決意をした。
そんな柚鈴の気持ちを知らない遥先輩は話の続きが気になったらしい。柚鈴に促してくる。
「でも、体育祭は平日よ。紫乃舞さまを、あなた体育祭に連れ出せるの?」
「連れ出すと言うかなんというか。今日、大学はどうにかして体育祭を見に行くと言われてましたので」
その目的が、柚鈴のペア作りの邪魔をする、ということは一先ずおいておくことにする。
だがありがたいことに、遥先輩は、なんでどうしてなどとは言い出さなかった。
「紫乃舞さまが?…まあ、あの方なら、そんな発想もあり得ないことではないけれど…」
「どういう人なんですか…」
「どう、というか。柚鈴さん、今日お会いしたんでしょう?ああいう方なのよ」
説明するまでもない、といった口調の遥先輩だ。
それだけで済まそうとする遥先輩は、随分とおおざっぱな気もするが、妙に言いたいことも分かる気がするので複雑な所だ。
とにかく、しのさんは、本当に体育祭に来そうな人なんだなと思う。
…大丈夫なんだろうか。
あの人、体育祭をかき混ぜそうだけど。
柚鈴が見たままが、しのさんということなら、そういうことである。
「私は、紫乃舞さまと一緒に走ることが出来るなら、今回の件、上手くまとまるかもしれないと思うわ」
「…本当にそう思われるのですか?」
「ええ。紫乃舞さまと競おうとする方なんて、ほとんどいないのではないかしら?」
「…危険人物だからですか?」
「あなた面白いことを言うわね」
…私は、ちっとも面白くありません
「なんだか楽しみになって来たわ。是非、一緒に走ってね」
「…いや、私の目的は人を楽しくすることではないんです」
「あら、ほほほ」
遥先輩は、自分が私欲に走ったことを言ったことに気付いたように、誤魔化して笑った。
「でも、紫乃舞さまはああいった方だから、支援者も多かったのよ。つまらない学園生活を出来る限り面白くしたいと仰ってて。実際なさったことはユニークなことばかりだったから」
「支援者がいたんですか?本当に多かったんですか?…というかいたのは支援者だけですか?」
思わず怪しんで聞くと、遥先輩はとぼけたように目線を逸らした。
「そうねえ。突拍子もないことをされるから、支援者と同じくらい批判したりされることも多かったかもしれないわね」
…ですよねえ。
しれっと言ってのけるあたり、遥先輩もなかなかいい性格をしている。
ほほほっと軽く笑ってごまかして、遥先輩は付け足した。
「同じ学年に生徒会長として小鳥遊志奈さまがいらっしゃったから、大きな問題になったようなこともなかったし。まあ、いらっしゃらなかったら問題になったことも多かったかもしれないけれど」
「…例えば、どんなことがあったんですか?」
思わず聞いてしまった柚鈴に、答えを返しかけてから、何かに気付いたようにして遥先輩はふふっと笑った。
「教えてあげてもいいけれど、今度にした方がいいと思うわ」
「え?」
「お食事をなさったほうがいい、ということ。あなたのお友達は二人とも終わらせているわよ」
「ええ!?」
その言葉に柚鈴が振り返ると。
気が付けば、薫だけでなく幸まで食事を終えている。
どうやら、柚鈴が遥先輩と話している間、黙々と食事をしていたらしい。
そして食事を終えた今度は、疲れたためだろう、眠そうに目を細めている。
どうりで、さっきから何も言わなかったはずである。
疲れと戦いながら、黙々と食べていたのだろう。
「ごめん、二人とも」
「まあ、いいよ。そろそろ部屋に帰るつもりだったけどさ」
「柚鈴ちゃん~。私は待ってるから安心していいよ~」
しかし幸は半分寝ている。薫が反抗されないのを良いことに、よしよしと頭を撫でると、小さく頭を振るませて、嫌そうにしている。
…これは申し訳ない。
遥先輩はにっこりと笑った。
「私も食事をしたいから、お話は今度にしましょう。せっかくの料理が覚めてしまっていてよ?」
「はい、食べます。ありがとうございました」
「ええ。それではごきげんよう」
遥先輩と薫が立ち去っていくと、柚鈴は慌てて食事と向き合った。
確かにすっかり冷めてしまっている。
幸が寝てしまわないうちにと、柚鈴は箸を急いだ。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~
テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。
なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった――
学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ!
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
未来の貴方にさよならの花束を
まったりさん
青春
小夜曲ユキ、そんな名前の女の子が誠のもとに現れた。
友人を作りたくなかった誠は彼女のことを邪険に扱うが、小夜曲ユキはそんなこと構うものかと誠の傍に寄り添って来る。
小夜曲ユキには誠に関わらなければならない「理由」があった。
小夜曲ユキが誠に関わる、その理由とは――!?
この出会いは、偶然ではなく必然で――
――桜が織りなす、さよならの物語。
貴方に、さよならの言葉を――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる