拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、お茶会参加のはずでした! 3

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中庭から突っ切って。
今は体育祭の準備グラウンドに人が集まっているため、人気のない体育部の部室棟の横を通り過ぎかけて。

立ち止まった岬さんは、備え付けの自動販売機まで戻って、ジュースを購入する。
迷いなくコーヒーのブラックを買ってから、こちらに差し出した。
…もしかして、柚鈴の分ということだろうか?
しかし、何がいいかなど一言も聞いてはこなかった。志奈さんから好みでも聞いているんだろうか。
柚鈴が受け取るのを迷っていると、岬さんは不思議そうに首を傾げた。

「はい。これでいいよね?どうぞ?」
「…はい。ありがとう、ございます」
「ううん。本当なら茶道部でお茶飲めてたはずだもんね。安くあげて申し訳ない」
それから自分の分に、同じコーヒーを買ってから。
柚鈴を促して、先に進んだ。

脚が長いからか、モデルのように泳ぐように歩く人で。
柚鈴は早歩きについていくことになる。
一応こちらがちゃんとついて来てるのは確認しているようだけど、マイペース感はアリアリだ。

そのまま特別棟の非常階段を上って。
図書室の裏に当たるのだろう。小さなスペースがある所で立ち止まった。
「ごめんね。もっと広いところでもいいんだけど、あんまり目立つのも何だし」
「いえ。私も目立たない方が助かります」
「そ?」

そりゃあ、そうだろう。
柚鈴は目立たないが、この人は大いに目立つように思える。
制服でもないし、なんか派手だし。
ゆっくり座って話せる空間は魅力的だけど、注目されていては居心地が悪い。
「それで…岬先輩は」
話を促そうとすると、すぐに相手から手で会話を制された。

「ああ、先輩はいらないよ。まあOGだけどさ、私は今ここに在籍してるわけでもなし。ああ、しので良いよ」
「…え」
「お姉さんの志奈には、そう呼ばれてるからね」
「志奈さんにですか?」
「うん。で?あなたは何てお名前ですか?小鳥遊さん」

飲み物の好みは知っているのに、名前は知らない。
どういう情報の聞き方をしているのだろうと思って、柚鈴は目を丸くする。
恐らく情報の出は志奈さんだろうと思うのだけど。
なんとなく、志奈さんの大学生活が垣間見える気がしつつ、柚鈴は答えた。
「…柚鈴です。小鳥遊柚鈴と言います。どうぞよろしくお願いします」
「柚鈴ちゃんね。よろしくね」

鷹揚な態度で受け答えをするしのさんは、とてもとても強引だ。
だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
強引だけど、距離は近すぎない。
そのなんとも言えない個性的なペースがなんだか好ましくて。
不思議なことに柚鈴は少しずつ、この人が好きになっているのを気付いた。
志奈さんの友達というのも納得する。
多分、人との間合いの取り方が絶妙に上手いのだ。

「…それで、しのさん。私に頼みごとって何ですか?」
「うん。ま、それもなんだけどさ。私の一つめの目的は、柚鈴ちゃんっていう志奈の義妹になった子がどんな子か知りたいってことだから、そっち先ね」
「え」」
「外見が知れたことでも、まずは満足だけどね。ちょっとお話したいな」
「…はぁ。外見、ですか」

地味ですよね、すみません。
そう言いかけて、流石に止める。
それを謝る筋合いはない、はず。
思わず心の中だけで思っていれば良いはずのことが口から洩れかけて、どうにか抑え込んだ。

…謝ってどうする。
一先ず、自分で突っこんでおいて。
まあ志奈さんの知り合いで、その友達であるこの人もこれだけ目立つ容姿なのだ。
多少は頭によぎってしまっても仕方ないだろう。
と、自分を慰めてた。

何を話そうか、ひとしきり悩んでいる様子の相手に。
先ほどのことで気になることがあったのでこちらから聞いてみることにした。

「茶道部の相原先輩とは、あまり仲良くないんですか?」
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