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第三章 5月‐結
お姉さま、デートの時間です 6 ★幸の時間★
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近くで話が聞こえたらしい、沢城先輩のお母さんがクスクスと笑い出すのが見えて、幸は赤くなる。
こんなに力説するような内容でもなかったことに、ようやく気付いたのだ。
だが沢城先輩は大真面目に言葉を返してくれた。
「すみません。確かに大切なデザートへの配慮が欠けていたようです。では、お返し分遠慮なく、春野さんのオムライスを頂きますね」
「はい。ありがとうございます」
その言葉に幸がカウンターテーブルの端に置いてあったシルバー入れから新しいスプーン差し出した。それを見て沢城先輩は少しだけがっかりしたような表情をみせる。
「お返しなので、口まで運んで頂けるのかと思いました」
「へ?」
「なんでもありません」
聞き返すとすぐに、何事もなかったようににっこり笑って幸からスプーンを受け取って、幸のオムライスをすくった。
「うん。とても美味しいです」
一口食べると、沢城先輩はとても幸せそうな表情を見せたので、さっきの不思議な一言はひとまず忘れることする。
そこにすかさず、沢城先輩がもう一口ハンバーグをフォークで差し出すので。
じ、自分で食べれるのに…と思いつつ、目の前の誘惑には勝てず、幸は口を開いて食べてしまった。
とはいえ沢城先輩がフォークを手に持ったまま、すぐに顔を背けて震えるように笑うのは、流石に幸も見逃さない。
「沢城先輩、私で遊んでますよね?」
少し冷たい目線を向けると、沢城先輩は慌てたように首を振った。
「とんでもないです。とても可愛らしいとは思いましたけど、遊んでなんていません。そう思わせてしまったなら謝ります」
「…」
「本当にすみません」
眉を下げて、沢城先輩は躊躇いなく頭まで下げてしまう。
謝罪は本心からのようで、とても申し訳なさそうだ。
その表情にはウソがなさそうで、幸はしぶしぶ矛を収めた。
「なら良いのですが…」
「はい。許してくださって良かったです」
すぐににっこり笑われて、多少胡散臭い。
疑わし気な幸に気づかないのか、それともわざと気付かないフリをしているのか。
沢城先輩はようやく自分のハンバーグを食べた。
「うん。確かに美味しいです。春野さんの表情の理由がよく分かります」
「良く分かるって…沢城先輩のご両親のお店じゃないですか」
「ふふ、そうですね」
沢城先輩はにっこり笑って見せた。それから少し照れたように付け足された。
「でも春野さんと一緒だと、いつもより美味しい気がします」
「…なるほど」
幸はその言葉には素直に頷いた。
「確かにそうですね。誰と一緒に食べるかで同じ食べ物でも感じ方は違いそうです」
「そうでしょう?」
「はい」
もう一度頷いてから、そのまま真剣な表情で繋げる。
「それなら今日のこのオムライスは、沢城先輩と一緒だからこその今日限定、世界でたった一つのオリジナルと言っていいかもしれませんね」
「え」
「どうせなら、そうくらい言い切ってしまった方が素敵じゃないですか」
悪戯っぽく笑って。幸は幸せそうにオムライスを口に運んだ。
大好きなオムライスがとっても美味しい。
それだけでも幸にとっては最良な日だし、ならついでに気持ちもより特別にしてしまえばより良い一日になりそうだと思う。
沢城先輩がいつもより美味しいというなら、乗っかってしまって、もっと大げさにしてしまえばいい。
美味しいより、とびきり美味しい。
特別な日なら更に美味しい。
目の前にあるオムライスが、世界で一番美味しい。
そう思えるなら思った方が、単純に幸せで良いと思うのだ。
沢城先輩は幸の言葉に少し驚いたように目を見開いてから、やがて楽しそうに笑った。
「世界でたった一つと春野さんの記憶に残るわけですか。確かにそれは素敵ですね。私が今日の食事がいつもより美味しく感じる理由が分かった気がします」
同意してから、沢城先輩は幸せそうに目を細めた。
「今日は一緒に来てくれてありがとうございます」
「い、いいえ。お誘い頂いたのは私ですから、私こそ、ありがとうございます」
幸は慌ててお礼を返して、それから改めて沢城先輩の方を向いた。
こんなに力説するような内容でもなかったことに、ようやく気付いたのだ。
だが沢城先輩は大真面目に言葉を返してくれた。
「すみません。確かに大切なデザートへの配慮が欠けていたようです。では、お返し分遠慮なく、春野さんのオムライスを頂きますね」
「はい。ありがとうございます」
その言葉に幸がカウンターテーブルの端に置いてあったシルバー入れから新しいスプーン差し出した。それを見て沢城先輩は少しだけがっかりしたような表情をみせる。
「お返しなので、口まで運んで頂けるのかと思いました」
「へ?」
「なんでもありません」
聞き返すとすぐに、何事もなかったようににっこり笑って幸からスプーンを受け取って、幸のオムライスをすくった。
「うん。とても美味しいです」
一口食べると、沢城先輩はとても幸せそうな表情を見せたので、さっきの不思議な一言はひとまず忘れることする。
そこにすかさず、沢城先輩がもう一口ハンバーグをフォークで差し出すので。
じ、自分で食べれるのに…と思いつつ、目の前の誘惑には勝てず、幸は口を開いて食べてしまった。
とはいえ沢城先輩がフォークを手に持ったまま、すぐに顔を背けて震えるように笑うのは、流石に幸も見逃さない。
「沢城先輩、私で遊んでますよね?」
少し冷たい目線を向けると、沢城先輩は慌てたように首を振った。
「とんでもないです。とても可愛らしいとは思いましたけど、遊んでなんていません。そう思わせてしまったなら謝ります」
「…」
「本当にすみません」
眉を下げて、沢城先輩は躊躇いなく頭まで下げてしまう。
謝罪は本心からのようで、とても申し訳なさそうだ。
その表情にはウソがなさそうで、幸はしぶしぶ矛を収めた。
「なら良いのですが…」
「はい。許してくださって良かったです」
すぐににっこり笑われて、多少胡散臭い。
疑わし気な幸に気づかないのか、それともわざと気付かないフリをしているのか。
沢城先輩はようやく自分のハンバーグを食べた。
「うん。確かに美味しいです。春野さんの表情の理由がよく分かります」
「良く分かるって…沢城先輩のご両親のお店じゃないですか」
「ふふ、そうですね」
沢城先輩はにっこり笑って見せた。それから少し照れたように付け足された。
「でも春野さんと一緒だと、いつもより美味しい気がします」
「…なるほど」
幸はその言葉には素直に頷いた。
「確かにそうですね。誰と一緒に食べるかで同じ食べ物でも感じ方は違いそうです」
「そうでしょう?」
「はい」
もう一度頷いてから、そのまま真剣な表情で繋げる。
「それなら今日のこのオムライスは、沢城先輩と一緒だからこその今日限定、世界でたった一つのオリジナルと言っていいかもしれませんね」
「え」
「どうせなら、そうくらい言い切ってしまった方が素敵じゃないですか」
悪戯っぽく笑って。幸は幸せそうにオムライスを口に運んだ。
大好きなオムライスがとっても美味しい。
それだけでも幸にとっては最良な日だし、ならついでに気持ちもより特別にしてしまえばより良い一日になりそうだと思う。
沢城先輩がいつもより美味しいというなら、乗っかってしまって、もっと大げさにしてしまえばいい。
美味しいより、とびきり美味しい。
特別な日なら更に美味しい。
目の前にあるオムライスが、世界で一番美味しい。
そう思えるなら思った方が、単純に幸せで良いと思うのだ。
沢城先輩は幸の言葉に少し驚いたように目を見開いてから、やがて楽しそうに笑った。
「世界でたった一つと春野さんの記憶に残るわけですか。確かにそれは素敵ですね。私が今日の食事がいつもより美味しく感じる理由が分かった気がします」
同意してから、沢城先輩は幸せそうに目を細めた。
「今日は一緒に来てくれてありがとうございます」
「い、いいえ。お誘い頂いたのは私ですから、私こそ、ありがとうございます」
幸は慌ててお礼を返して、それから改めて沢城先輩の方を向いた。
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