拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、デートの時間です 1 ★幸の時間★

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試験休みのお昼前。
常葉学園の校門の前で、春野ゆきは昨日選んだワンピースを着て、時間より前にしっかり待機していた。
沢城先輩が案内してくれる場所の土地勘がないという理由で、この場所を待ち合わせにお願いしたのは幸だ。
万が一にも遅れては申し訳ない。

昨日、念入りに乾かした髪はいつもより纏めやすく、いつも髪の上部だけ、まとめて流している所を、編み込みも入れてみた。
何事も楽しむときは、形が大切。
今日の幸はとびきり楽しむ態勢というわけだ。

ほどなくして、沢城先輩は現れた。
袖もとに花柄の刺繍がされたカーキ色のワンピースで、高い身長に良く似合っていて上品で大人っぽい。
髪型はいつも通りではあるが、洋服が違うだけでもなんだか印象が違うものだなあと、幸は思った。

「ごきげんよう、幸さん。お待たせしてしまいましたか?」
眉を下げて、申し訳なさそうな顔を見せた沢城先輩に、幸は慌てて首を振った。

「いいえ。わざわざここまで来ていただいたんですから。待つのは当然というか、そもそもそんなに待ってないので大丈夫です」
そう言ってにっこり笑うと、沢城先輩は少し安心したような表情を見せる。

「それなら良かったです。今日は随分可愛らしいですね。そういった姿を見れただけでもお誘いして良かったなあと思ってしまいます」
ストレートな賛辞に、嬉しいを通りこして少し恥ずかしくなってしまう。一瞬動揺で目線を彷徨わせてから、答える声は小さくなってしまった。
「あ、ありがとうございます。沢城先輩もなんだか大人っぽくて素敵です」
「そうですか?ありがとうございます。私服でここまで来ることはあまりなかったのですが、新鮮でした」
「すみません。わざわざありがとうございます。助かりました」
「いいえ。私はバス通学なので定期がありますし。それに春野さんが、万が一にも迷子になってしまっては大変ですから、大丈夫ですよ」
そういって朗らかにほほ笑む様子に、少しばかり幸は申し訳なさを感じないわけにはいかない。

迷子を心配されるような年齢では勿論ないのだけど、それでも迎えに来てもらいたい事情もあれば、そこは反論できるわけもなく、そういってくれる沢城先輩の優しさに甘えるのが大正解なのだ。

「次からはきっと、一人でいけると思います」
決意を込めて、幸がそう言うと、沢城先輩は目を輝かせた。
「またご一緒してくれるんですか?」
「え?」
嬉しそうに聞いてくる沢城先輩に幸はキョトンとした表情を返す。そのまま良く考えずに返答する。
「あ、いえ。友達が今度一緒に今日のレストランに行きたいって言ってて」
「ああ」
あからさまにがっかりしたような表情を見せた沢城先輩に、ええ?と慌てた。
もしかして、この人がとっても寂しがりやなのかもしれないという考えは消えていない。
思わず勢いのまま、沢城先輩の手を取った。
「あの、沢城先輩が良ければ、是非また一緒にお出かけしましょう」
「本当ですか?」
沢城先輩はぱっと笑顔になった。
「ふふ。気を使わせてしまったでしょうか?それでも嬉しいです。色々と行ってみたい場所があるので、一緒にいきましょうね」

人懐こい笑顔で、幸は不思議に思った。
この感じの良い先輩が、まさか友達がいないわけでもあるまいし。
どうして、こうも自分と出かけるのを喜ぶのだろうか。

考えられるとすれば…
とっても飴が大好物だった、とか
桃太郎のきび団子で、鬼退治にまで3匹の動物が付き合ったように、甘味というものは特別である、という考え方はどうだろう?

もしくは。
本当は助言者メンターになりたかったけれど、バッチを手にすることが出来ず、幸との関係で助言者メンター気分を楽しんでいるとか?

釈然としない。話の筋は通る気もするけど、どうも違う気がする。
どうも不思議な先輩だなあと思いながら、促されて。
幸は一緒にバス停へと向かうことにした。
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