拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、茶道部のお誘いを受けました 7

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薫は機嫌の良いまま、幸と戯れるのを止めない。

「幸さあ、オムライス食べるなら、汚れてもいい服装の方が良いんじゃないの?」
「な、なんで?私、こぼしたりしないよ」
「いや、万が一のこともあるでしょうが」
動揺する幸に、もっともらしく薫は付け足した。

「せっかくのデートなのに、失態おかして、助言者メンター候補がいなくなりましたじゃあ、可哀想だしね」
「そんなへましません!というか、別にその人は助言者メンター候補じゃないもん」
「そうなの?」
柚鈴が聞くと、幸はあっさり頷いた。

「GWの時に、偶然学校で会って飴をあげたの。そのお礼だって」
「ふ、ふうん」
飴のお礼に、オムライス…?
幸の説明が予想外で、柚鈴は分かるような分からないような返事を返す。薫の方は残念だったなと、肩を叩いてる。
幸は二人の反応に首を傾げた。
「残念がってないよ。助言者メンターになる相手じゃなくなって仲良く出来れば嬉しいもの」
にっこりと笑う顔が可愛らしくて、柚鈴も釣られて笑みが漏れた。
「可愛いと思うよ、ワンピース」
「本当?」
「うん。オムライス美味しかったら教えてね?というか後日、一緒に連れていってね」
「うん。勿論だよ」

人懐こい幸が、親しい上級生が出来るのは当然だろうと思っていたが、食べ物効果なのか、よっぽど良い先輩なのか、この機嫌の良さ。
自分が抱えている東郷先輩の問題を思うと、羨ましいを超えて清々しい。
楽しんできてね、と心から思わずにはいられなかった。

「柚鈴は?そっちの関係はどう?」
「そっちって助言者メンター?」
「そそ」
ニヤリと笑った薫の姿は、になっていないかと揶揄する様子で、柚鈴は思わず口を尖らせた。
「薫のその楽しそうな顔…」
「お、その顔は何かあったね?」
「なんかやな感じ」
今度はこちらが拗ねた顔をする番のようだ。
おもわず目線を逸らす。そこに幸が加わった。

「柚鈴ちゃんはね、今日二人の先輩に声を掛けられていたんだよ」
その言葉に。
思わず柚鈴は疲れ切ったため息を漏らす。薫は悟ったような顔で頷いた。
「ちゃんと相談には乗ってやるから、そんな顔をしなさんな」
「薫は楽しそうだから、言いたくないなあ…」
「私が楽しそうだろうがなんだろうが、柚鈴の苦労が変わるわけじゃないんだから、気にしなくて大丈夫」
「苦労が変わらなくても、気分が変わります!」
もうっと言い返すと、あははと笑って、薫は立ち上がってきて柚鈴の頭をガシガシと撫でた。
勿論、髪型はくしゃくしゃになり、あっという間に幸の二の舞だ。

髪を押さえて、薫の手から逃れると、今度は幸と二人でベットに腰かけて、さあ話をしてくださいと言わんばかりに待たれていた。
なんか大型犬と小型犬みたい…
ちゃんと話す出すの待っているよという、行儀の良さを見せるところが尚更だ。

こんなときに、二人で気が合うのだから本当に迷惑だ。
柚鈴は小さくため息をついて、椅子に座りなおした。
どうせ凛子先輩に相談するつもりだったのだ。
今更話す相手が増えても、志奈さんのことを知っている二人なら良いかと思いなおすことにした。

GWに、助言者メンターを作らないと決めたことから初めて、2年東組の東郷先輩の申し込みから3年の茶道部の誘いまで合わせて話すと、薫は口笛を吹いた。

「もてるねえ」
「も、モテてるのかな?」
その言葉には頷き難い。

志奈さんは、柚鈴自身がどうこうというより、義理の妹になったことで柚鈴に熱心なんだし。
東郷先輩は妙な思い込みで動いている気がする。
茶道部の部長、相原先輩に関しては、そもそも茶会の出欠確認に来ただけだし、それだって別に柚鈴を評価してというわけでもなさそうだ。
身に余る、といえる事態ばかりで、余るだけに全く状況についていけてない気がする。

幸がその人柄で、食事に誘われていることの方がよっぽど「もてる」状況に思える。
しかも本人も楽しんでいるので羨ましい、の一言だ。
身の丈にあった出来事というのがやっぱり一番、ということだろうか?
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