89 / 282
第二章 5月‐序
オトウサンとのお出かけ ★5★
しおりを挟む
「志奈の方は、新しい家族が出来るって聞いたら、すぐ受け入れてくれて、それどころか妹が出来るって喜ばれてね。親戚からは結構驚かれたんだよね。普通はもっと動揺するものだから、きっと志奈が我慢してるんだろうって言われたりしたよ」
「それは、志奈さんはなさそうです」
初めての顔合わせの時も嬉々とした表情の志奈さんを思い浮かべると、そんな慎ましやかに耐えていたとも思えず、柚鈴は言った。
だよねえ、とオトウサンがカラッとした笑い方で同意する。
「志奈は我慢は出来る子だけど、今回のことは本当に嬉しそうでね。特に妹が欲しかったみたいで、何よりそこを喜ばれたよ。常葉学園のメンター制度だっけ?自分にも特定の誰かが出来るって本当に嬉しそうだった」
「……」
まさかオトウサンもメンター制度のことを知っていると思わず、柚鈴は一瞬思考を停止させた。
今更なのかもしれないけれど、志奈さんに妹としての歓迎ぶりが親公認だと思うと気恥ずかしくも思える。義理とはいえ、姉妹なのだから良いのかもしれないけれど。
ごまかすような気持ちで、水を差す言葉を探す。
「志奈さんなら、生徒会長でなかったらどんなメンティだって出来た気もするんですけど」
柚鈴が曖昧に笑って言うと、オトウサンはそうかな?と首を傾げた。
「志奈は誰かを選ぶ、というのは苦手だと思うから、柚鈴ちゃんみたいな子が妹になって良かったと思うよ」
「え?」
意味が分からずに聞き返すと、オトウサンは一度柚鈴の方を見て、目線を前に戻した。
「柚鈴ちゃんみたいに、志奈を特別扱いしない子にね」
「あ、いえ。私も志奈さんは、すごい人なんだろうなって思ってます」
「うん、そうだね」
戸惑った柚鈴の言葉に、オトウサンは相槌を打った。
「志奈は親の僕が言うのもなんだけど美人だろう。大概のことはそれなりに出来てしまうし、志奈の母方の祖母に当たる人が行儀作法を厳しく教えたりしたおかげで育ちの良いお嬢さんに育ったと思う」
自慢話と思うにはどこかオトウサンは淡々とした口調だ。
何が言いたいのかよく分からず、柚鈴は首を傾げた。
「おかげでね、どうも志奈は、役割や求められる事柄に応えようとするような所があるんだ。だからかな、志奈本人の資質以上に周りから特別なイメージを持たれやすくてね」
「特別なイメージですか?」
「こう言ってはなんだけど、片親っていうのは特に成長期の子たちにとって、ちょっと特別だろう」
その言葉は、言葉の意味の理解より早く、肌で感じるところがあって沈黙するしかなかった。
片親である、ということは、それだけで周りの子とは違う何かになってしまうのは、自身で知っていたから。
その事実は受け止めるしかないし、その上で色んな選択をして自分を作っていくしかない。
志奈さんはすごい人なんだろう。
美人だし、生徒会長をやっていて、要領もいい。
そこに『お母さんが小さな頃に亡くなってしまった』片親であるという事実が加わる。
柚鈴にとっては『片親』ということは、あまり意味を持たない言葉だった。もちろん周りは思うこともあったようだけど、柚鈴自身が努力をして、他の人の言葉には惑わされないと思い込んで、意地になってそうしてきた。寂しい、とか悲しい、とか悔しいとか、そういうのが全然ないわけじゃなかったけど、自分が負けないことが、お母さんを守ることの一つだと信じていたから、そう出来てきた。
だから、『片親』の言葉に負けたことはないと思うけれど、そう勝ち負けを感じる時点で、確かに『片親である』ということは普通ではないのだ。
良く分かっている。
志奈さんはどうだったのだろう。
今もその事実が志奈さんを困らせてるとは思わなかったが、過去は分からない。
柚鈴が志奈さんを『特別扱いしない』というのはそういうことも含まれているのだろうと思えた。
『片親』なんて、柚鈴には当たり前とも言えるから。
「それは、志奈さんはなさそうです」
初めての顔合わせの時も嬉々とした表情の志奈さんを思い浮かべると、そんな慎ましやかに耐えていたとも思えず、柚鈴は言った。
だよねえ、とオトウサンがカラッとした笑い方で同意する。
「志奈は我慢は出来る子だけど、今回のことは本当に嬉しそうでね。特に妹が欲しかったみたいで、何よりそこを喜ばれたよ。常葉学園のメンター制度だっけ?自分にも特定の誰かが出来るって本当に嬉しそうだった」
「……」
まさかオトウサンもメンター制度のことを知っていると思わず、柚鈴は一瞬思考を停止させた。
今更なのかもしれないけれど、志奈さんに妹としての歓迎ぶりが親公認だと思うと気恥ずかしくも思える。義理とはいえ、姉妹なのだから良いのかもしれないけれど。
ごまかすような気持ちで、水を差す言葉を探す。
「志奈さんなら、生徒会長でなかったらどんなメンティだって出来た気もするんですけど」
柚鈴が曖昧に笑って言うと、オトウサンはそうかな?と首を傾げた。
「志奈は誰かを選ぶ、というのは苦手だと思うから、柚鈴ちゃんみたいな子が妹になって良かったと思うよ」
「え?」
意味が分からずに聞き返すと、オトウサンは一度柚鈴の方を見て、目線を前に戻した。
「柚鈴ちゃんみたいに、志奈を特別扱いしない子にね」
「あ、いえ。私も志奈さんは、すごい人なんだろうなって思ってます」
「うん、そうだね」
戸惑った柚鈴の言葉に、オトウサンは相槌を打った。
「志奈は親の僕が言うのもなんだけど美人だろう。大概のことはそれなりに出来てしまうし、志奈の母方の祖母に当たる人が行儀作法を厳しく教えたりしたおかげで育ちの良いお嬢さんに育ったと思う」
自慢話と思うにはどこかオトウサンは淡々とした口調だ。
何が言いたいのかよく分からず、柚鈴は首を傾げた。
「おかげでね、どうも志奈は、役割や求められる事柄に応えようとするような所があるんだ。だからかな、志奈本人の資質以上に周りから特別なイメージを持たれやすくてね」
「特別なイメージですか?」
「こう言ってはなんだけど、片親っていうのは特に成長期の子たちにとって、ちょっと特別だろう」
その言葉は、言葉の意味の理解より早く、肌で感じるところがあって沈黙するしかなかった。
片親である、ということは、それだけで周りの子とは違う何かになってしまうのは、自身で知っていたから。
その事実は受け止めるしかないし、その上で色んな選択をして自分を作っていくしかない。
志奈さんはすごい人なんだろう。
美人だし、生徒会長をやっていて、要領もいい。
そこに『お母さんが小さな頃に亡くなってしまった』片親であるという事実が加わる。
柚鈴にとっては『片親』ということは、あまり意味を持たない言葉だった。もちろん周りは思うこともあったようだけど、柚鈴自身が努力をして、他の人の言葉には惑わされないと思い込んで、意地になってそうしてきた。寂しい、とか悲しい、とか悔しいとか、そういうのが全然ないわけじゃなかったけど、自分が負けないことが、お母さんを守ることの一つだと信じていたから、そう出来てきた。
だから、『片親』の言葉に負けたことはないと思うけれど、そう勝ち負けを感じる時点で、確かに『片親である』ということは普通ではないのだ。
良く分かっている。
志奈さんはどうだったのだろう。
今もその事実が志奈さんを困らせてるとは思わなかったが、過去は分からない。
柚鈴が志奈さんを『特別扱いしない』というのはそういうことも含まれているのだろうと思えた。
『片親』なんて、柚鈴には当たり前とも言えるから。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~
テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。
なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった――
学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ!
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
DECIDE
yuri
青春
中学生時代、イケメンで成績優秀、スポーツ万能という非の打ち所がない完璧な少年がいた。
少年はオタクだった。嫌いなキャラは『何でもできてイケメンでモテる主人公』
そしてある日気付く「これ…俺のことじゃね?」そして決心した。
『高校生活では、目立たないように過ごす!」と、思っていたのに…
ほのぼの学園百合小説 キタコミ!
水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。
ほんのりと百合の香るお話です。
ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。
イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。
★Kindle情報★
1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4
2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP
3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3
4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P
5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL
6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ
Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H
★第1話『アイス』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE
★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI
★Chit-Chat!1★
https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる