拝啓、お姉さまへ

一華

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第二章 5月‐序

GWに待っているもの ★9★

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「すみません。聞こえてなくて」
「良いのよ。真美子も勉強しだすとそんな感じだもの」
志奈さんは特別なことでもないという感じで、柚鈴を手招いた。
「ご飯出来たから一緒に食べましょう」
「あ、ありがとうございます」
そう言えばお腹がすいた気がして、柚鈴は頷いた。
しかし、真美子さんのような人と一緒にされるのは、申し訳ない気がする。

「今日のお昼は親子丼とお味噌汁です」
志奈さんが満面の笑みで笑った。
食事をするための部屋に移動し、ダイビングテーブルに進むと良い香りがした。
並べられた料理がとても見栄えがよくて、驚いてしまう。
「志奈さん、料理上手なんですね」
「料理は全然したことなかったわ。今日のは本当に特訓したの」
そう志奈さんが力を込めて言うと、オトウサンは何かを思い出したかのように小さく笑った。
志奈さんはその様子に肩を竦めた。
「この家は、昔から通いの家政婦さんが料理を作ってくれてたし、高等部に入ったら寮でしょう?休みに帰っても、家政婦さんが心配だからって料理を作り置きしてくれて、包丁なんて授業くらいしか握ったことなかったわ。この春のお父様たちの結婚がきっかけで、家でも料理をすることになったでしょう?全然出来ないんだって改めて気づいたのよ。だからわたしの当番の日は友達に教えてもらいながら作ってるの」
それでも、と志奈さんは付け足す。
「一番作ってくれてるのは、お母さん。その次がお父様なの。それくらいまだまだ役になってないのよ。今日は柚鈴ちゃんが帰ってくる日だから、色々頑張ったんだから」

その言葉に志奈さんの妙な気迫が伝わってくる。
更にふと疑問が湧いた。
「あ、あの。もしかして、私がご飯を作る日って」
「そんな日はないわ」
はっきりと志奈さんが言い切った。
「そもそも柚鈴ちゃんは、料理は得意だって聞いているもの。もう少しくらいは姉として、私が自信がつくまではここは譲ることが出来ないの」

その言葉に柚鈴は多少、眩暈を覚えた。
まさかここで『姉の意地』とも取れる言葉が出てくるとは思ってもいなかった。
この様子だと志奈さんは手伝わせてくれなさそうだ。オトウサンはどうだろうか?
休みの日に当番制にするなら、是非仲間に入れてほしいのだが。
最後の希望はお母さんではあるが、それこそ志奈さんが料理の勉強のために手伝いそうな気がする。

まさか、休みに家でやることがないのではないかと多少不安を覚えつつ。
せっかくの昼食が冷めないうちにと手を合わせた。
「頂きます」
志奈さんとオトウサンも、その様子にそれぞれ合掌して食事を始める。
料理経験が全くないというのは嘘ではないらしく、勉強している間に随分時間もたっていたので多少卵の焼きむらを感じるが、良い出汁の香りがした。
麺つゆじゃないんだ、とすぐ分かる舌触り。
親子丼が、麺つゆで簡単に出来ることは、お母さんが教えてくれたので知っている。夏の素麺が終わる頃、残った麺つゆでの定番メニュー。

だが、志奈さんが作ってくれた親子丼は、きちんと出汁をとった味。お母さんの出汁の味とも違うことがすぐ分かった。
「美味しいです。手間が掛かった味ですね」
そういうとオトウサンはなるほどねぇと笑って柚鈴を見た。
「百合さんのいう通り、柚鈴ちゃんは舌が敏感なんだね」
「え?」
「手を抜くと、嫌がりはしないけどすぐ分かるって言ってたよ」
楽しそうな笑顔に、柚鈴の方が慌ててしまう。
お、お母さん、何の話をしているんだ。
少々居心地が悪くなって、誤魔化すように志奈さんの方を見た。
「料理が好きな友達が誰かいるんですか?真美子さんのイメージではないですけど」
「そうね。確かに真美子じゃないわ。真美子は料理も出来なくはないみたいだけど、そもそも食に興味がないみたい。今回は、同級生の料理好きな子に指導を頂いたの。その子の家で、何回も作らせて貰ったから、大分上手になったわ」
「何回も?それ大丈夫なんですか?」
「その点は抜かりないわ。その子の家は料亭で、親子丼はその日の賄いだったんだもの」
つまり、下手くそな仕上がり分の親子丼も、誰か料理人の口に入ったという事だろうか。
それは迷惑な、と思ったが、志奈さんの麗しい笑顔に少し考える。

料理人の方が男性ばかりなら、意外と喜ばれたのかもしれない。

浮かんだ考えに、我ながらどうかとも思う。
これは確認するのが怖いのでやめておく。うん、知らない方が却っていい。
とにかく親子丼は回数こなしただけにとても美味しく、志奈さんの手作りお昼ご飯をしっかりと堪能させてもらった。
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