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第一章 4月
お姉さまが欲しかったもの ★9★
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「対外的にはそう思われているようですけど、違います」
それからたっぷりと間を持たせて、今田さんを諭すように言った。
「緋村さんが生徒会に非協力的だったのは、今田先輩が生徒会役員をしていて、その為に助言者の役割をきちんと果たさなかったからです」
「ええ!?」
何を言われてるか分からない、というような声に、志奈さんは穏やかな表情のままつづける。
「緋村さんは、随分今田先輩を慕っていました。だから、今田先輩が生徒会役員になって、陸上部部長の役割を疎かにしている間、文句一つ言わなかったはずです。緋村さんが部長になった後、後輩育成に専念していたのは、今田先輩を反面教師にしていたからに他ありません」
「は、反面教師って」
「助言者に指導されなかった陸上部員が、後輩に熱心に教えるなんて、その助言者を模範にしてるなんて考える方がおかしいでしょう?」
そう言うと、今田さんは目を丸くして傷付いたような顔をしてから、考え込むように黙った。
「今田先輩。例えば卒業式くらい、緋村さんに何か言われませんでしたか?」
志奈さんが問いかけると、今田さんははっとして顔を上げた。
「まさか、あれってそういう意味だったの?」
小さく呟いた様子には心当たりがあるらしい。
その様子には志奈さんは呆れたようにため息をついた。
「緋村さんは、そもそも生徒会に良い思い出がないんです。大切なペアを取られた象徴ですから。だから、今田先輩卒業後の生徒会には非協力的だったし、今の生徒会長が今回の件を頼んでも了承してくれなかったはずです」
志奈さんは淡々と言うと、今田先輩は腕を組んで不満そうな顔をした。
「そんな話、楓に聞かなきゃ、本当にそうか分からないわ」
「そうでしょう?」
志奈さんは頷いて同意した。
それからにっこりと笑う。
「ですから、今田先輩には緋村さんと今回お話して頂きたいんです。私の言ったことが本当かどうか確かめてください」
「あー」
実に嫌そうになるほどね、と今田さんは目を泳がせる。
「つまりお嬢の思った通りなら、私が楓の気持ちを聞きだして整理することで、結果的に楓が高等部の陸上部に口を出すことになるってわけね」
「はい。その通りです」
志奈さんがにっこり笑う。
その自信ありの表情が今田さんは納得いかないんだろう。
腕を組んで、不満そうな表情を崩さない。
「どうしても承諾頂けなければ、仕方ありません。緋村さんには好かれていないと評されている私が高等部に出向きましょう。それで有沢さんと話をして、今回の件での過ちが何か教え諭して、話を納めます」
志奈さんが言えば、それまで黙っていた真美子さんが冷静な眼差しを今田さんに向けた。
「ですが、後輩を育成することに情熱を注いでいた緋村さんのことですから、本当は今回の件、自分で有沢さんの指導をしたいでしょうね」
「緋村さん、可哀想に。本当は自分が指導したいだろうに、助言者が原因で生徒会にわだかまりがあるばかりに、素直にそれができないなんて」
志奈さんが憐れむような声で、ため息まじりに畳みかける。
今田さんはむうっと唸って顔色を変えた。
それから大きくため息をつく。
「もう。分かったわよ、一度楓と話してみるわよ。でも、楓が本当に私のせいで生徒会にわだかまりがあるならともかく、そうじゃなかったら知らないわよ。私は楓に陸上部に関わるようになんて指導しないからね」
「それに関しては間違いないので問題ありません」
志奈さんは自信たっぷりに言うと、真美子さんも合わせたように小さく微笑んだ。
二人の息の合った様子に、今田さんはしばらく沈黙してから、にいっと笑った。
「もう、お嬢ったら相変わらず良い性格してるわ。真美子も揃って、嫌な感じ。私は練習があるから、もう行くからね。終わったら速攻、楓に会いに行かなきゃならないんだから」
切り替えたように、大きく口を開けて笑ってから、今田さんはこちらに背を向けた。
「はい。頑張ってくださいね」
「おうよ。今度の大会、応援しに来なさいよ」
大きく手を振って、今田さんは走って行った。
それからたっぷりと間を持たせて、今田さんを諭すように言った。
「緋村さんが生徒会に非協力的だったのは、今田先輩が生徒会役員をしていて、その為に助言者の役割をきちんと果たさなかったからです」
「ええ!?」
何を言われてるか分からない、というような声に、志奈さんは穏やかな表情のままつづける。
「緋村さんは、随分今田先輩を慕っていました。だから、今田先輩が生徒会役員になって、陸上部部長の役割を疎かにしている間、文句一つ言わなかったはずです。緋村さんが部長になった後、後輩育成に専念していたのは、今田先輩を反面教師にしていたからに他ありません」
「は、反面教師って」
「助言者に指導されなかった陸上部員が、後輩に熱心に教えるなんて、その助言者を模範にしてるなんて考える方がおかしいでしょう?」
そう言うと、今田さんは目を丸くして傷付いたような顔をしてから、考え込むように黙った。
「今田先輩。例えば卒業式くらい、緋村さんに何か言われませんでしたか?」
志奈さんが問いかけると、今田さんははっとして顔を上げた。
「まさか、あれってそういう意味だったの?」
小さく呟いた様子には心当たりがあるらしい。
その様子には志奈さんは呆れたようにため息をついた。
「緋村さんは、そもそも生徒会に良い思い出がないんです。大切なペアを取られた象徴ですから。だから、今田先輩卒業後の生徒会には非協力的だったし、今の生徒会長が今回の件を頼んでも了承してくれなかったはずです」
志奈さんは淡々と言うと、今田先輩は腕を組んで不満そうな顔をした。
「そんな話、楓に聞かなきゃ、本当にそうか分からないわ」
「そうでしょう?」
志奈さんは頷いて同意した。
それからにっこりと笑う。
「ですから、今田先輩には緋村さんと今回お話して頂きたいんです。私の言ったことが本当かどうか確かめてください」
「あー」
実に嫌そうになるほどね、と今田さんは目を泳がせる。
「つまりお嬢の思った通りなら、私が楓の気持ちを聞きだして整理することで、結果的に楓が高等部の陸上部に口を出すことになるってわけね」
「はい。その通りです」
志奈さんがにっこり笑う。
その自信ありの表情が今田さんは納得いかないんだろう。
腕を組んで、不満そうな表情を崩さない。
「どうしても承諾頂けなければ、仕方ありません。緋村さんには好かれていないと評されている私が高等部に出向きましょう。それで有沢さんと話をして、今回の件での過ちが何か教え諭して、話を納めます」
志奈さんが言えば、それまで黙っていた真美子さんが冷静な眼差しを今田さんに向けた。
「ですが、後輩を育成することに情熱を注いでいた緋村さんのことですから、本当は今回の件、自分で有沢さんの指導をしたいでしょうね」
「緋村さん、可哀想に。本当は自分が指導したいだろうに、助言者が原因で生徒会にわだかまりがあるばかりに、素直にそれができないなんて」
志奈さんが憐れむような声で、ため息まじりに畳みかける。
今田さんはむうっと唸って顔色を変えた。
それから大きくため息をつく。
「もう。分かったわよ、一度楓と話してみるわよ。でも、楓が本当に私のせいで生徒会にわだかまりがあるならともかく、そうじゃなかったら知らないわよ。私は楓に陸上部に関わるようになんて指導しないからね」
「それに関しては間違いないので問題ありません」
志奈さんは自信たっぷりに言うと、真美子さんも合わせたように小さく微笑んだ。
二人の息の合った様子に、今田さんはしばらく沈黙してから、にいっと笑った。
「もう、お嬢ったら相変わらず良い性格してるわ。真美子も揃って、嫌な感じ。私は練習があるから、もう行くからね。終わったら速攻、楓に会いに行かなきゃならないんだから」
切り替えたように、大きく口を開けて笑ってから、今田さんはこちらに背を向けた。
「はい。頑張ってくださいね」
「おうよ。今度の大会、応援しに来なさいよ」
大きく手を振って、今田さんは走って行った。
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