拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
上 下
55 / 282
第一章 4月

お姉さまが欲しかったもの ★5★

しおりを挟む
き、気まずい。

居た堪れない柚鈴を落ち着かせるように肩を叩いてから。
志奈さんは幸の方を見て、目を細めて愛想よく笑顔を作る。
「ごきげんよう。柚鈴ちゃんと仲良くしてくれているのね。初めまして。小鳥遊志奈です。常葉学園大学部一年で、昨年は高等部にいたのよ。それから、こちらは」
後ろからやって来た女性を手で示してから、柚鈴にも紹介してくれる。

「笹原真美子。私と同じ大学部の一年生。昨年までの高等部では、特進科の首席だったのよ。常葉学園始まって以来の才媛と言われているのよ」
真美子さん、と呼ばれたその人は口元だけで笑ってみせた。
「こんにちは。そう、貴女が志奈の妹になった子なの。ご噂はかねがね」
「初めまして。あの、小鳥遊柚鈴です。噂の妹です…」
もはや何といえば良いのかわからず、ろくな自己紹介が出来なかった。
どんな噂を聞いているのか聞きたいような怖いような。

なんとも気まずい気持ちになりながら、幸の方を見た。本当は紹介した方がいいのだろうけど、言葉が浮かばない
「ごめん、幸。あの自己紹介してもらってもいい?」
幸は気持ちの切り替えをするように目を瞬かせてから、柚鈴を安心させるように軽く笑って頷いた。

「初めまして。小鳥遊柚鈴さんの友人の春野幸です。高等部一年生で文芸部に所属してます。どうぞよろしくお願いします」
そういって深々と頭を下げた友人に心から感謝の気持ちを送る。

ありがとう、幸。本当に不甲斐なくてゴメン。

幸の自己紹介を聞いてから、志奈さんは改めて柚鈴を見た。
思い巡らすように少しだけ沈黙してから、口を開いた。

「そうか、生徒会長だったことももう知られちゃったのね」
呟くと、少し残念そうな表情を浮かべる。柚鈴は頷いて、なるべく淡々と言った。
「先輩からは気に入られていて、後輩からは慕われてて、すごく人気の生徒会長だったんですよね」
「そうね」
特に否定する様子もなく頷いてから、志奈さんはこちらを伺うように見た。

「それで、柚鈴ちゃんはどう思ったの?」
「え?」
「嫌だった?嬉しかった?」
その質問の意図が分からず、柚鈴は困惑してしまう。
「そんなの分かりません。私のことじゃないのに、嫌とか嬉しいとか、そんなことは思いませんし」
「そう」
何かの答えを期待していたように、少し悲しそうに目を伏せた志奈さんに、動揺してまう。

「でも」
だから、何が正しい答えなのか分からないまま、勢いのまま言葉を繋げてしまった。
「でも、なんだかあんまり幸せな高校生活には思えませんでした」
志奈さんは、その言葉に一瞬驚いたような顔を見せた。それから、にっこりと笑った。
「そう」
その笑みに、少し安心しつつ、罪悪感も覚えてしまう。
今日はなんだか、志奈さんに酷いことばかり言ってる気がする。
「…すみません。勝手なこと言って」

「ううん。いいの。そもそもこんな会話を柚鈴ちゃんとしたかったの」
志奈さんはふふっと笑って、柚鈴の頭を撫でた。

ううっ。なんか困る。

居心地が悪い気持ちを抱えながら、大人しくそれを受け入れた。
志奈さんは嬉しそうに目を細めてから、頭から手を離した。

「そうね。一つ言わないといけないと思うのだけど。私にとって高校生活は充実して楽しかったわ。常葉学園で役割を与えられて、それを頑張れて幸せだったと思っている」

背筋をピンと張って、堂々とした様子で、志奈さんは何にも臆する様子はない。
そして、その瞳は深く、柚鈴から逸れる事はない。

「でもね、柚鈴ちゃん。ある面では、柚鈴ちゃんの言う通り、もしかしたら幸せじゃなかったのかしら?なんて思うこともあるの。だから、ある面では柚鈴ちゃんの考えは正解」
「ある面?」
柚鈴が問うと、志奈さんは頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

修行のため、女装して高校に通っています

らいち
青春
沢村由紀也の家は大衆演劇を営んでいて、由紀也はそこの看板女形だ。 人気もそこそこあるし、由紀也自身も自分の女形の出来にはある程度自信を持っていたのだが……。 団長である父親は、由紀也の女形の出来がどうしても気に入らなかったらしく、とんでもない要求を由紀也によこす。 それは修行のために、女装して高校に通えという事だった。 女装した美少年が美少女に変身したために起こる、楽しくてちょっぴり迷惑な物語♪(ちゃんと修行もしています) ※以前他サイトに投稿していた作品です。現在は下げており、タイトルも変えています。

処理中です...