拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さまが欲しかったもの ★7★

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「遥ちゃんがわざわざ常葉学園に来た理由かぁ」
理由を聞き終わると、志奈さんは思慮深く考えこんだ。
それから真美子さんと目を合わせる。
まるで答え合わせでもするように。

「やっぱり、陸上部の家系を頼って、よねぇ」
「でも元部長の緋村先輩は、常葉学園にはいないと聞きましたけど」
志奈さんの言葉に、柚鈴が反応すると、あっさり肯定された。

「確かに大学部1年に、緋村さんはいないわ。陸上部の強い大学に誘われたって聞いたわ。私の言う『常葉学園にいる陸上部の家系』と言えば、2年生にいる方よ」
「緋村さんの助言者メンターだった今田先輩か」
真美子さんは成る程、と頷いた。
今の陸上部部長の助言者メンターである緋村楓さん。そしてその更に上の助言者メンターの今田智子さん。
そもそも助言者メンター制度自体、ピンときてない柚鈴には遠い遠い存在にしか思えなかったが、志奈さんと真美子さん的には間違いないらしい。
お互いに微笑みあってから、話を先に進める。

「でも今田先輩の性格から考えて、家系だからって口出しはしないでしょうね」
「そうね」
「そんな」
それじゃ困ると声を上げた柚鈴に対して、志奈さんはだって、と言葉を足した。

「今田先輩は、陸上部の家系の縛りメンタリングチェーンを実にめんどくさがっていたもの。古い慣習を自分の代で少しでも変えたいって言ってたわ。遥ちゃんだって、何か手は考えてきたとは思うけど、簡単には手を貸してくれないでしょうね」
そう言ってから、志奈さんは思考を巡らせるように視線を動かした。

「ねぇ、真美子」
「はいはい」
「今田先輩、緋村さん、有沢さんどこを動かすのが一番なのかしら?」
志奈さんは、ゲームの答えを聞くかのように軽く真美子さんに問いかける。
真美子さんは少しだけ間を置いて答えた。

「そうねぇ。今田先輩じゃない?緋村さんは私たちの頃の生徒会でも手を焼いていたじゃない」
「あら、緋村さんでも説得は出来ると思うのよ」
「説得?」
真美子さんは、冷笑とも取れる笑い方をした。
「その場合は脅迫の間違いでしょう?」
「失礼ね。説得よ」
真美子さんの物騒な言い方を志奈さんは不満そうに訂正してから、本題に戻った。

「でもそうね。今田先輩が一番よね。あの人には一度きちんと言っておいた方が良いとは思っていたの」
どうも志奈さんの言葉は、一つ一つ穏やかではない。
柚鈴の知っている志奈さんは、どこまでもおっとりした天然な人だったのだが、何かが違う。

「あ、あの。志奈さん?」
「柚鈴ちゃんのお友達の心配事を解決しに行きましょうか」
状況が分からなくなりそうで、声をかけた柚鈴に。
志奈さんは「問題ない」とでも言わんばかりに柔らかく笑ってみせた。
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