拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さまは有名人? ★5★

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「とりあえず柚鈴さんも、先に自己紹介をどうぞ」
困惑するが促されて、自己紹介する。
「は、はい。小鳥遊柚鈴です。どうぞよろしくお願いします」
「え?小鳥遊さん?去年の有名な卒業生と同じ名前ですねぇ」
花奏さんもやはり苗字で引っかかったようで、しかし市原寮長とは違い、目を丸くして明らかに驚いている。
今回は志奈を指すと思われる言葉もついて来るのだから、原因は間違いない。

しかし、『有名な』卒業生?
昨年まで中等部学生だった花奏さんにまで知られてる『有名』とはどういうことなんだろう。
つい口ごもっていると、花奏さんはうーんと眉間に考えるように人差し指を添えつつ、視線を宙に舞わせる。

「でもあちらの小鳥遊様は、同い年くらいの親戚は従兄の男性だけだったはずですねぇ」
「あら、良く知ってるわね」
「去年の高等部文芸部写真部合同出版の『憧れのあの人神7かみセブン』見せてもらいましたもん」

憧れのあの人、神7!?
なんだ、それ?

その存在は市原寮長も知っているらしく、なるほどと相槌を打った。
「あら、そうなの。でも、そうね。こちらの小鳥遊柚鈴さんは中学はこの辺りの地域の公立だったみたいだし、お住まいも違うし、苗字が一緒なのはたまたまみたいね」
「そうなんですか?凄いねぇ、小鳥遊さん」
あぁ、2人の話がどんどん進んでいく。柚鈴は焦るが、花奏さんは気付かず、ふわふわとした笑みを浮かべている。
「す、すごい?」
「去年卒業された小鳥遊先輩というのは、常葉学園ではとーっても有名人なんだよ。多分、色んな人に名前で驚かれちゃうねぇ」
「へ、へぇ」
「私も恐れ多いので、同級生のよしみで小鳥遊さんではなく、柚鈴ちゃんと呼んでもいい?」
「ど、どうぞ」
「じゃあ、よろしく。柚鈴ちゃん」
私のことは花奏と呼んでね、とにっこり天真爛漫な笑顔を見せられた。

あぁ、もう頭が働かない。取り敢えず頷いてしまう。
えっと、呼び方?
呼び方は花奏、ちゃんでいいのかな?
それくらいしか頭でまとまらない。

「呼び方については、柚鈴さん。寮では寮生同士はなるべく下の名前で呼び合うことにしているの。同じ生活を送ることになる家族みたいなものだから、と何代か前の寮長の決め事でね。特に問題なければ、そのようにお願いするわ」
「あ、はい。えと市原寮長のことはなんと呼べば?」
「私のことも遥と下の名前で良いわ。寮長と呼ばれても学園で困るから、先輩でもさん付けでもお好きによろしくてよ」
よろしくてよ、の言葉に、聞きなれず一瞬考えてしまうが、続いて柔らかく笑われれば、受け入れてしまう。
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