散華へのモラトリアム

一華

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第二章

猫の戯れ 3

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ポーカーフェイスに笑顔を張り付けたまま出方を伺うべく言葉を待っていると、弥生はフフンと鼻で笑った。
「私ね。ちょうど育ちが良くて、頭が良くて、私のことを助けてくれる、とびきり可愛い子を探していたのよ」
「……?」
「やっぱりどうせなら関わるなら可愛くなくちゃ嫌じゃない?そしたらたまたま、珪くんがその子のことを思い出して。適任じゃないかって。調べてみたらものすごくちょうど良いのよね」

話が見えない。そこまで詳しく珪に瑞華のことを話してもいない。だが、ある程度把握しているという言い方だ。
流石に眉を顰めて疑問を表すと、弥生は悪い笑顔でニヤリと笑った。
「調べる…?」
「この家に出入りしたことがある家柄の子で、風人くんと同じ大学に通っている女子なんて限られるんでしょう?」
「まさか、その話だけで?」
確かにその話なら珪にも漏らしたが、そんな僅かな情報で…という驚きだ。

「あらいやだ。この家には、その話だけで十分に仕事が出来る人がいるじゃない?」
「つまり、兄貴が?」
「はい!ご名答」

大正解と見せられた笑顔に、風人はさすがに絶句した。
確かに弥生なら、九条次期当主たる月人つきひとを動かすのはさぞ容易いだろう。
そして、風人と同じ大学に通っている娘のいる、九条に出入りがあった家柄の人間くらい、その人ならばすぐに検討もつくはずだ。
個人さえ特定できれば、その後は人を使って調べることなんて容易い。
さぞや迅速にかつ正確に行われているはずである。
その口ぶりから、結果が既に弥生に渡っているのも分かる。

「それで私のお願いごとを花宮瑞華さんにすることに決定しました!というお知らせを風人くんにね。いやあ、写真を見たら、本当に美人で可愛くてびっくりしちゃった。風人くんの大学ミスコンとかしないわけ?あれはいいわあ。写真集つくりたいわぁ。うん、風人くんたら、良い素材を寄せてくれてるわ」
「お願いごとってなんですか?」
なるべくにこやかに話を聞き出そうとするが、弥生は風人の内心を透かしみるように笑っている。

「あら。瑞華ちゃんにとってもメリットのあるお願いよ」
「へえ」
こうなるとどうしようもないなと、どこか諦めつつ、調べられてるならいいかと雑な気持ちになる。
繋いだ言葉は少々投げやりになった。

「なら、嫌がってる結婚でもおじゃんにしてあげるんですか?」
「え?そんな話もあるの?」
驚いたように目を丸くした弥生に、しまったと口をつぐんだが、もう遅い。
下手に餌を与えてしまった気がする。
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