後宮にて、あなたを想う

じじ

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143 侍女の言葉

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 一通り聞き終えた奏輝は黄怜を見つめて告げた。

「黄怜様…私が口を挟むべきことではございませんが、あまりに陛下のお気持ちを考えておられないのではないかと」

 いつもは寄り添うような温かい言葉をかけてくれる侍女のいつにないきつい言葉に黄怜は戸惑う。

「わ、私は両親に陛下のことを恨みながら逝ってほしくはないだけなの…私はどうせあの人達に嫌われているわ。何を思われてもどれほど恨まれても傷つかない。でも民のために尽くしてきたあの人が例え私の両親からであっても悪く思われるのは嫌なの…そんなの理不尽だわ」

 下を向いたまま告げた黄怜に、奏輝はしかし厳しい声で答えた。

「陛下も同じ思い…いえ、おそらくそれ以上でしょう。
 それに民からの恨みで陛下は心を乱されることなどないでしょう。どれほど立派な治世であっても万人から支持を得ることなどそもそもできないでしょうから。ですから黄怜様のお父様やお母様が陛下をお恨みになられても陛下はご自身のなかで折り合いをつけられると思います。
 ですが陛下が大切に思っておられる黄怜様が実のご両親から恨まれるなど…許せないのではないでしょうか。
 黄怜様からご両親を奪っておきながら、さらに恨みの矛先を黄怜様ご自身に向かうようにするなど…できるはずもございません」
「…」
「それとも黄怜様がこだわられるのは何か他のご理由がおありなのでしょうか」

 それまでの様子から一転して穏やかな口調で奏輝が問いかけると、黄怜は考え込むように黙り込んだ。

「あの…黄怜様?」

 心配そうに奏輝が名前を呼ぶと、青い顔をして黄怜はポツリと答えた。

「そう…かもしれないわね」
「あの…申し訳ございません。口が過ぎました」

 流石に奏輝が狼狽した様子で謝罪すると黄怜はゆっくりと頭を振った。

「いいえ。あなたのせいではないわ」
「あの、ですが…」
「違うの。陛下のことを両親に恨んでほしくないのは本当。でも、そうね。多分私は…最期くらい私のことを考えて逝って欲しかったのかもしれないわ」

 悲しげな声でそれでも苦笑を浮かべる黄怜に奏輝は一瞬言葉を失った。

「黄怜様…」
「ふふ、おかしいわよね。あの人たちから大切にされたことなんてなかったから何かを望むことなんかなかったのに。でもこれが最期だと思うと、例え恨みでもいいから私のことを考えて欲しいなんてね…」

私も業が深いわ、と自嘲気味に呟く黄怜に奏輝は今度こそ完全に言葉を失った。








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