後宮にて、あなたを想う

じじ

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138 真心

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侍医は深々と頭を下げたまま答えた。

「このようなこと申し上げられる立場にないことは重々承知ではございますが…陛下の御子をこの手で取り上げたかったのです。私は無事に陛下の御子を取り上げることができた暁には、ことの真相を全てお話しようと…誠に勝手なことを…」
「そうだな」

呆れたようにふっと笑った皇帝は、そのまま続けた。

「だが、その言葉は嬉しく思う。州芳とともにそなたには、これから私の妃達が出産するたびに世話にならなくてはなるまいからな」
「…っな、なぜですか。真相が分かった以上、私は今日にでも斬首されるはずです。もとよりその覚悟はできております。」

必死の形相で言い募る侍医に皇帝は不敵な笑みを浮かべた。

「水月と湖月の真相を究明しようとしなかった咎は私にもある。それにそなたの首を斬れば、州芳も無事ではいられない。なにより娘の復讐を果たした今、そなたはただの腕の良い侍医だ。手放すには惜しい。」
「ですが…呪いの噂を払拭しなければお妃様方は陛下の訪を怖がられるでしょう。」
「別にいいのだがな…」

妃達の元に通うのが面倒くさい、そう考えているのが透けて見えて黄怜は苦笑しそうになる。

「手にかけた私が申し上げるべきことではございませんが…御子がお生まれになりませんと、治世が乱れます。私のために側妃様方に疎まれるような噂を放っておくべきではございません。」
「そうだな。そのことについては我が皇后が尽力してくれる」

ちらりと視線を向けられた黄怜は頷いた。

「どのような意味でしょうか。黄皇后様は聡明でいらっしゃいますが、だからと言って他の側妃様方の恐怖を払拭できるような術はお持ちではないのでは。」

向けられた当然すぎる疑問に黄怜はにこりと微笑んで答えた。

「侍医どのから聡明と言っていただけて嬉しいです。ですが、私が側妃達を説得するわけではありません。解決策はもっと簡単なものです。」

不審そうな顔をした侍医に再びにこりと微笑みかけると黄怜はそれまでと変わらぬ調子で続けた。

「あなたや州芳は誰も殺していない。そして後宮に呪いがあるわけでもない。そう皆に納得してもらえる他の回答を作ればよいのです。」

その言葉を聞いた瞬間、侍医は目を見開いた。

「まさか…私の罪を他の誰かに被せる、と。そのようなこと許されるはずがありません」

震える声で答えた侍医に、黄怜は柔らかな眼差しを向けながら答えた。

「いいえ。許されます。」








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