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128 悲しい微笑
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「それは流石に穿ち過ぎではないでしょうか」
思わず口を挟んだ黄怜を冷ややかな眼差しで見つめて、律佳は尋ねた。
「それならなぜ…彼女は自らの口で皇后様に申し上げなかったのでしょう?皇后様のお手を煩わせることが分かっていてまで私の口から話をさせた理由がそれ以外には考えられません」
強い口調の中に縋るような響きを感じた黄怜は小さくため息を吐いた。
「あなたが…律佳様が紅霞様を救えなかったことを悔いておられると分かったからでしょう」
「それではなおさら…」
「答えになっていませんか?」
言葉を引き継いだ黄怜に強い視線を投げかける律佳を見て、心の中で黄怜は苦笑せざるを得なかった。
存外意志の強い女人だ、と。
穏やかな表情で黄怜は律佳を見つめた。
「私の憶測を律佳様にお伝えしてもよろしいですか」
落ち着いた口調の黄怜に律佳も我に返ったようで、静かな口調で答えた。
「もちろんでございます。私こそ取り乱してしまい…お見苦しい姿を見せてしまいました」
「いいえ。それで私のあくまで推測に過ぎませんが、州芳はおそらくあなたがご自身の醜い部分と仰った過去、それを精算ができるように、語り手という役割をあなたにお願いされたのでしょう」
「それはどういうことでしょう」
「あなたはずっとご自身のことを許せなかった。だからこそ王の正妃になれる機会をご自身の嘘によって捨てられたのでしょう?」
ちらりと律佳の腹部に目をやった黄怜は穏やかに微笑んで続けた。
「いま、ご懐妊なさってますよね?」
まだ膨らみが目立たないにも関わらず言い当てられた律佳は驚いた様子で黄怜をまじまじと見つめた。
「どうしてお分かりになったのですか」
「無意識かと思いますが優しい手つきでお腹に手を当てられていたことが何度かありましたので。
それに弦陽様とお話しさせていただきましたおりに、律佳様は体調を崩しがちだが、もう少しすれば落ち着くと思うとおっしゃっていましたので。つわりだったのではございませんか」
「ええ。」
「御子が産める体にも関わらず、身籠ることができないと仰ったのは、ご自身だけが後宮で幸せになることはできないと思われたからではありませんか?」
問われた律佳は悲し気な微笑みと共に答えた。
「結果的には…そうかもしれません。ですがあの手のひらに収まるほど小さい赤子を抱いた時、私は二度と子は産めないだろうと思ったのです。それは本心です。」
「ええ。」
「でも、愛する人との間に再び子を授かり…その時に後宮でのかつての出来事を尋ねられる。州芳の復讐でなければ天罰でしょうか。」
そこで一度言葉を区切ると、律佳は目を閉じた。瞳からは静かに涙が伝う。
「でも私は…過去の私の愚かな行いを知っていただけて…ほっとしているのも事実なのです。これでもう…」
楽になれる、そう小さな声で続けた律佳を黄怜は悲し気な微笑で答えた。
思わず口を挟んだ黄怜を冷ややかな眼差しで見つめて、律佳は尋ねた。
「それならなぜ…彼女は自らの口で皇后様に申し上げなかったのでしょう?皇后様のお手を煩わせることが分かっていてまで私の口から話をさせた理由がそれ以外には考えられません」
強い口調の中に縋るような響きを感じた黄怜は小さくため息を吐いた。
「あなたが…律佳様が紅霞様を救えなかったことを悔いておられると分かったからでしょう」
「それではなおさら…」
「答えになっていませんか?」
言葉を引き継いだ黄怜に強い視線を投げかける律佳を見て、心の中で黄怜は苦笑せざるを得なかった。
存外意志の強い女人だ、と。
穏やかな表情で黄怜は律佳を見つめた。
「私の憶測を律佳様にお伝えしてもよろしいですか」
落ち着いた口調の黄怜に律佳も我に返ったようで、静かな口調で答えた。
「もちろんでございます。私こそ取り乱してしまい…お見苦しい姿を見せてしまいました」
「いいえ。それで私のあくまで推測に過ぎませんが、州芳はおそらくあなたがご自身の醜い部分と仰った過去、それを精算ができるように、語り手という役割をあなたにお願いされたのでしょう」
「それはどういうことでしょう」
「あなたはずっとご自身のことを許せなかった。だからこそ王の正妃になれる機会をご自身の嘘によって捨てられたのでしょう?」
ちらりと律佳の腹部に目をやった黄怜は穏やかに微笑んで続けた。
「いま、ご懐妊なさってますよね?」
まだ膨らみが目立たないにも関わらず言い当てられた律佳は驚いた様子で黄怜をまじまじと見つめた。
「どうしてお分かりになったのですか」
「無意識かと思いますが優しい手つきでお腹に手を当てられていたことが何度かありましたので。
それに弦陽様とお話しさせていただきましたおりに、律佳様は体調を崩しがちだが、もう少しすれば落ち着くと思うとおっしゃっていましたので。つわりだったのではございませんか」
「ええ。」
「御子が産める体にも関わらず、身籠ることができないと仰ったのは、ご自身だけが後宮で幸せになることはできないと思われたからではありませんか?」
問われた律佳は悲し気な微笑みと共に答えた。
「結果的には…そうかもしれません。ですがあの手のひらに収まるほど小さい赤子を抱いた時、私は二度と子は産めないだろうと思ったのです。それは本心です。」
「ええ。」
「でも、愛する人との間に再び子を授かり…その時に後宮でのかつての出来事を尋ねられる。州芳の復讐でなければ天罰でしょうか。」
そこで一度言葉を区切ると、律佳は目を閉じた。瞳からは静かに涙が伝う。
「でも私は…過去の私の愚かな行いを知っていただけて…ほっとしているのも事実なのです。これでもう…」
楽になれる、そう小さな声で続けた律佳を黄怜は悲し気な微笑で答えた。
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