後宮にて、あなたを想う

100 皇帝の言い訳

「あなたのように優しくないからな。それに人は自分と似たものを嫌うだろう。彼女と私はまさにそれだ」
「あの…」
「なんだ」
「お嫌い、なのですか？」

蔡怜の声音があまりに心配そうだったからだろう。皇帝は慌てて言い募った。

「嫌い、と言うのは言葉のあやだ。だが、まあ…彼女はなんと言うかな、厳しいからな」

それでも蔡怜が納得する様子を見せなかったことに観念した皇帝はついに両手を上げながら告げた。

「園遊会の件の詳細は黄貴妃から直接聞くことにしよう」

にっこり微笑んだ蔡怜を見て、皇帝は溜め息を吐いた。

「悪いがまだ仕事が残っていてな。」
「はい」
「律佳の元へは皇室の馬車を出す。」
「黒鈴に乗れます」
「奏輝もか」
「二人くらいなら、黒鈴は乗せれます」
「馬の気持ちになってみろ。細いとは言え女人二人だぞ。」
「…」
「あなたの乗馬の技術は分かってる。黒鈴も素晴らしい馬だ。だが私の心配も受け入れてくれ」
「分かりました。それでは陛下のお言葉に甘えさせていただきます」
「ああ。当日は迎えに人をやるからそれまで待っていろ。」
「はい」

言うだけ言うと皇帝はさっさと部屋を後にした。
隅で控えていた奏輝がそっと蔡怜に新たなお茶を注ぐ。

「ありがとう、奏輝」
「いいえ。でもよろしゅうございました。やはり、陛下は蔡怜様を手放したくないご様子ですね。」
「…」
「あまり意地をはるものではないかと。もちろん蔡怜様のご覚悟は立派ではございますけれど、陛下はその覚悟を踏みにじったとしても、お手元に蔡怜様を置きたいのでしょう。」
「私が邪魔になるかも。陛下はあのように言って下さってるけれど周りがそれを許さない可能性だって高い。」
「そうなった時に考えてはいかがですか？」
「え」
「蔡怜様は聡明で、何通りもの未来を予測されてしまうのでしょう。そして最善に近いものを選ぼうとなさいます」
「ええ」
「ですが、訪れる未来はいずれにせよ一つだけ。もちろん心構えができている越したことはないかもしれませんが、たまには運命を天に任せてみては？意外に上手く転ぶかもしれません。」
「ふふ、あなたは意外に呑気ねぇ」

蔡怜が肩の力が抜けたように笑うと奏輝もつられて微笑んだ。

「ええ。私もそう思います。」
「でも、そうね。陛下のことは私の手元を離れた鞠だと思うことにするわ」
「はい。上手く転べは上出来。もともと蔡怜様は手元を離れた鞠を水に落とす気満々の未来を描いておられたのですから」

辛辣な奏輝の言葉を苦笑で蔡怜は返した。