後宮にて、あなたを想う

じじ

文字の大きさ
上 下
97 / 159

96 皇帝の訪れ

しおりを挟む
奏輝に自分の思いの丈を話した蔡怜は、その後糸が切れた人形のように、床に入るなりすぐに寝てしまった。蔡怜が寝息を立てているのを確認して、そっと奏輝は部屋を離れた。

翌朝、奏輝が蔡怜を起こしに行くと、すでに蔡怜は簡単に身支度を整えて座っていた。

「あら蔡怜様、今日はお早いですわね」

にこやかに奏輝が声をかけると蔡怜は苦笑しながら答えた。

「夜中に何度か目が覚めてしまって…さすがにぐっすりとは眠れなかったわ」
「そのように緊張なさらずとも」
「ええ。」
「とりあえず、陛下を迎えるお支度をいたしましょう」

そう言って櫛で髪を丁寧に梳かし始めた。奏輝はいつもより時間をかけて用意をしていたようで、全ての支度が整ったのは皇帝が来る直前だった。
 
「陛下の御成です」

宦官の声の後に、すぐに皇帝が部屋に訪れた。

「入るぞ。」
「ようこそおいでくださいました」

その言葉に皇帝は嬉しそうな瞳で蔡怜を見つめる。

「ああ。」
「あの、陛下。弦陽様の件で…」

蔡怜が言いかけた瞬間、皇帝はすぐに顔を顰めた。蔡怜がきょとんとしていると、奏輝が後ろで額に手を当て天を仰いでいる。

「あの、陛下?」
「ああ。」

先ほどとは異なり声に不機嫌さが混じっているのに気づいた蔡怜はおろおろしながら尋ねた。

「なにかございましたか。お加減でも悪いのでは」
「いや、あなたと出会って二言目まではすこぶる良かったのだがな」
「あの…」
「いや、私の嫉妬だ。弦陽の件なら本人から先ほど言伝を預かった。いつでも大丈夫だから会える日を指定してくれ、と言われたぞ」

そして苦笑いしながら蔡怜に告げる。

「しかし、皇后も弦陽も私を伝書鳩扱いした挙句、逢瀬の連絡など、やってくれる」

途端に蔡怜の顔色がさっと変わる。

「陛下。ご冗談でもそのようなこと仰らないでください。陛下のご依頼の任務を遂行するためでございます。それにお会いする相手は律佳様でございます」

あまりの蔡怜の真剣な様子に気圧された皇帝は、軽口がすぎた、と謝った。

「それで、いつと言えばいい?」
「2日後にでも」
「ああ、弦陽に伝えておこう。場所はどうする」
「そうですね。来ていただくよりは伺いたいと考えておりますが、外出の許可はおりますでしょうか。」
「ああ。いいだろう。供に奏輝をつけていけ」
「はい。」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~

山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝 大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する! 「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」 今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。 苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。 守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。 そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。 ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。 「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」 「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」 3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。

逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆ 第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます! かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」 なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。 そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。 なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!  しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。 そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる! しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは? それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!  そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。 奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。 ※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」 ※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

絶世の美女の侍女になりました。

秋月一花
キャラ文芸
 十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。  旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。  山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。  女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。  しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。  ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。  後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。  祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

後宮の記録女官は真実を記す

悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】 中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。 「──嫌、でございます」  男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。  彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──

婚約して12年、迎えに来ない皇帝陛下(幼なじみ)をぶん殴ろうと思います

九條葉月
ファンタジー
「皇帝になったら、迎えに来る」  幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。  彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。  今度会ったらぶん殴ろうと思う。  皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。  嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。  ……だというのに。  皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?

処理中です...