後宮にて、あなたを想う

じじ

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78 弦陽

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東屋に人影を確認した蔡怜は一度立ち止まった。近づくと約束の時間より随分早いにも関わらず、もうすでに弦陽は来ていた。
弦陽は書を読みながら待っていたようで、蔡怜の気配に気づくことなく熱心に手元を見ていた。

「弦陽様でしょうか」

驚かさないように、そっと声をかけると弦陽はハッと顔をあげて立ち上がり、手を前で合わせながら一礼した。

「蔡皇后様ですね。お尋ねの通り、弦陽でございます。お呼びと伺い参りました。」

スラリとした体躯に優しげな面立ち。美丈夫と言えなくもないが、どちらかと言えば誠実そう、と言う印象の方が強く残る。全体的に柔和な雰囲気だが、瞳は理知的に輝いている。蔡怜は微笑んで答えた。

「お忙しいところお呼び立てしてごめんなさいね。どうしてもあなたにお聞きしたいことがあって」
「何なりと」
「単刀直入で申し訳ないのだけれど…奥方のことをお聞きしたくて」

不思議そうな顔をしながら蔡怜の質問に弦楊は答えた。

「律佳のことでしょうか」
「ええ」
「どのような内容でしょう」
「昔の話なのだけれどお聞きしてよろしいかしら」

そう告げた途端、一瞬思案する色が弦陽の瞳に見えた気がした。

「ええ。どうぞお聞きください」
「後宮に入られる前から、弦陽様と律佳様はお知り合いだったと伺ったのですが。」
「はい。彼女は陳家に行儀見習いで入っておりましたし、私は実家が陳家と繋がりがあったもので、何度かお邪魔させていただきました。」
「不躾な質問で恐縮なのですが、その頃から律佳様のことはお慕いになられていたのでしょうか」

ぎょっとした顔をした弦陽だが、すぐに笑いながら答えた。

「桂騎様にでもお聞きになられたのでしょうか。おっしゃる通りでございます。私と妻の馴れ初めなど恥ずかしいだけではございますが、皇后様のことです。何かご理由があってのご質問でしょう。」

こくりと頷き蔡怜は告げる。

「弦陽様のご気分を害してしまったのなら申し訳ありません。ですが私も興味本意でお聞きしているわけではないのです。ただ、ご理由をお知りになりたければ、どうぞ陛下にお聞きいただけますでしょうか。
後宮内のことは私の判断である程度決めることができますが、王宮付きの弦陽様に関してどこまでお話して良いのか私には判断がつきませんので」

その言葉を聞いて、弦陽は真面目な顔で頷いた。

「仰る通りでございますね。承知致しました。この場では皇后様に尋ねるようなことはいたしません。どうぞお知りになりたいことをお聞きください」
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