後宮にて、あなたを想う

じじ

文字の大きさ
上 下
77 / 159

76 侍女の推測

しおりを挟む
「それはどういう…」
「陛下の寵愛を本気で得たいと黄貴妃様がお考えならば、あのようにわざと見せつけるような真似はなさらないと思います」
「なぜ?」
「黄貴妃様は蔡怜様に勝るとも劣らない聡明な方かと思います。そのような方がわざわざ皇后である蔡怜様の不興を買うような真似をなさるとは思えません。」
「でも、実際黄昭様は目の前で陛下の手を取られたわ…」
「ええ。ですからあの行動は陛下の気を引くためではなく、蔡怜様に嫉妬を覚えて頂くためだったのではないかと。」
「嫉妬?」
「蔡怜様が仮初の皇后だとご自身のことを仰っていた時、貴妃様は驚かれておいででした。」
「ええ」
「おそらく蔡怜様の陛下への特別な想いに気づかれたのだと思いますよ」
「陛下に抱いてるのは敬愛の念よ。そんなに特別なことではないでしょう」
「本当にそれだけでしょうか」

まっすぐ奏輝に見つめながら問われて思わず蔡怜は黙った。
黄昭が皇帝の手を取った時、微かに感じた苛立ち。そしてその手を皇帝が振り払わなかったことに悲しみを覚えたことを蔡怜は否定できなかった。
ふっと笑って蔡怜は奏輝に言った。

「そうね。確かに私は敬愛以上の想いを陛下に抱いてしまってるのかもしれない。でも、その感情はきっと陛下を困らせてしまう。いずれ切り捨てる皇后から想われても、陛下にとっては厄介事が増えるだけだわ」
「そのようなことはございません。陛下はとてもお優しい眼差しで蔡怜様をいつもご覧になっておられます」
「誰にでもお優しい方よ。私だけではないわ。」

これ以上この話題を出されたくなくて、蔡怜は冷たい口調で言った。そしてその気持ちを払拭するように明るい口調で奏輝に続けた。

「それにしても黄昭様が不思議だわ。私が陛下を慕っていると認識してしまえば、後宮での陛下の寵愛を競う相手が増えるのになぜわざわざこのようなことをなさったのかしら」

話題を変えた蔡怜に対して、それ以上言い募ることはせず、奏輝は淡々と答えた。

「陛下からの寵愛にご興味がないからでございましょう。」
「それでも私に陛下を慕っていると認識させたところで黄昭様に利点があるとは思えないけれど」

不思議そうに言った蔡怜に、奏輝は呟くように答えた。

「案外動機など単純なものかもしれませんよ。それこそ蔡怜様と陛下のお二人のことを大事に思っているからこそ、想いあっているお二人に幸せになっていただきたい、とか」
「そんなまさか」
「もちろん、それ以外の理由も考えられますから一概には言えませんが。今度黄貴妃様に尋ねられてみてはいかがですか」

にっこり笑って奏輝に言われた蔡怜は、苦笑するしかなかった。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

ヴェクセルバルクの子 ―― 取り替えられた令嬢は怯まず ――

龍槍 椀 
ファンタジー
エルデ=ニルール=リッチェルは、リッチェル侯爵家の中で強い疎外感を常に抱いていた。 その理由は自分の容姿が一族の者達とかけ離れている『色』をしている事から。 確かに侯爵夫人が産んだと、そう皆は云うが、見た目が『それは違う』と、云っている様な物だった。 家族の者達は腫れ物に触るようにしか関わっては来ず、女児を望んだはずの侯爵は、娘との関りを絶つ始末。 侯爵家に於いて居場所の無かったエルデ。 そんなエルデの前に「妖精」が顕現する。 妖精の悪戯により、他家の令嬢と入れ替えられたとの言葉。 自身が感じていた強い違和感の元が白日の下に晒される。  混乱する侯爵家の面々。 沈黙を守るエルデ。 しかし、エルデが黙っていたのは、彼女の脳裏に浮かぶ 「記憶の泡沫」が、蘇って来たからだった。 この世界の真実を物語る、「記憶の泡沫」。  そして、彼女は決断する。 『柵』と『義務』と『黙示』に、縛り付けられた、一人の女の子が何を厭い、想い、感じ、そして、何を為したか。 この決断が、世界の『意思』が望んだ世界に何をもたらすのか。 エルデの望んだ、『たった一つの事』が、叶うのか? 世界の『意思』と妖精達は、エルデの決断に至る理由を知らない。 だからこそ、予定調和が変質してゆく。 世界の『意思』が、予測すら付かぬ未来へと、世界は押し流されて行く。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

男爵家の娘の私が気弱な王子の後宮に呼ばれるなんて何事ですか!?

蒼キるり
恋愛
男爵家の娘という後宮に呼ばれるのに相応しい位ではないミアは何故か皇子の後宮に上がることになる。その皇子はなんとも気弱で大人しく誰にも手が出せないようで!?

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

処理中です...