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70 眠れぬ夜
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去っていく皇帝の後ろ姿を眺めながら蔡怜はほっと息を吐いた。
扉を開けて皇帝が一人で立っているのを見た時にはどうしようかと思った蔡怜だったが、折よく頼み事もできてちょうど良かった、そう思い直した。
今度こそ寝るぞ、と寝台に横たわると、しかし先ほどの皇帝との会話が思い出された。
明日は黄貴妃達と会う予定があるのだから早く寝なければと思うほど、寝つけなくなり、余計に皇帝の言葉が頭に響いてくる。
陛下は、私の顔を見に来たと仰った。私が前にいつでも来てくださいと言ったから。でもあれは奏輝に言った通り、私から呼びつけてばかりだと他の妃達の手前良くないと思ったからだ。陛下が用事で自発的に来られる分には仕方がない、そう他の妃達に思って貰えると思ったから。
でも私は、顔を見に来た、と言うあの言葉を喜んでしまった。少し前であればきっと疎ましく感じたのに…
それに陛下が私と他の男性とを二人きりにさせたくなさそうなのを知って嬉しく思ってしまった。そんなの、妃である以上私に限らず陛下は仰ることだと分かっているのに…
私は陛下のことを尊敬している。お役に立ちたいとも思う。でもそれだけだろうか…
そう思いながら、蔡怜はいつしか眠りについていた。
翌朝、いつも通り元気な侍女の挨拶で蔡怜は目覚めた。
「おはようございます、蔡怜様」
「おはよう、奏輝」
「なんだかお疲れのご様子ですが、どこかお辛いところでもございますか」
まさか皇帝のことを考えてなかなか寝付けなかったとも言えず、蔡怜は首を振るにとどめた。
「いえ、なんでもないわ。大丈夫よ」
「左様でございますか。何かございましたらいつでも仰ってください」
「あ、そうだ。昨日奏輝が下がったあとなのだけれど、陛下が一人でいらっしゃったわ」
「まあ!」
侍女の声が嬉しそうに跳ね上がったのを聞いて蔡怜は笑って言った。
「それでね、弦陽様と明日お会いできるように取り計らって頂けることになったの。」
「…それはようございました。ところで陛下は何かご用がおありでいらしたのでしょうか」
「いえ、特に用はなかったみたいよ。顔を見に来ただけだと仰ってたし、弦陽様の話をしたらすぐに帰って行かれたわ。」
「え」
絶句した奏輝を見て蔡怜は小首を傾げた。
「どうしたの奏輝?」
「いえ、陛下は蔡怜様とゆっくり二人きりになりたかったのではないかと思いまして」
「二人きりだったけれど、話がすんだらすぐに出て行かれたのは陛下の方よ?」
蔡怜は話の行く末が見えず戸惑ったまま奏輝に答えた。
扉を開けて皇帝が一人で立っているのを見た時にはどうしようかと思った蔡怜だったが、折よく頼み事もできてちょうど良かった、そう思い直した。
今度こそ寝るぞ、と寝台に横たわると、しかし先ほどの皇帝との会話が思い出された。
明日は黄貴妃達と会う予定があるのだから早く寝なければと思うほど、寝つけなくなり、余計に皇帝の言葉が頭に響いてくる。
陛下は、私の顔を見に来たと仰った。私が前にいつでも来てくださいと言ったから。でもあれは奏輝に言った通り、私から呼びつけてばかりだと他の妃達の手前良くないと思ったからだ。陛下が用事で自発的に来られる分には仕方がない、そう他の妃達に思って貰えると思ったから。
でも私は、顔を見に来た、と言うあの言葉を喜んでしまった。少し前であればきっと疎ましく感じたのに…
それに陛下が私と他の男性とを二人きりにさせたくなさそうなのを知って嬉しく思ってしまった。そんなの、妃である以上私に限らず陛下は仰ることだと分かっているのに…
私は陛下のことを尊敬している。お役に立ちたいとも思う。でもそれだけだろうか…
そう思いながら、蔡怜はいつしか眠りについていた。
翌朝、いつも通り元気な侍女の挨拶で蔡怜は目覚めた。
「おはようございます、蔡怜様」
「おはよう、奏輝」
「なんだかお疲れのご様子ですが、どこかお辛いところでもございますか」
まさか皇帝のことを考えてなかなか寝付けなかったとも言えず、蔡怜は首を振るにとどめた。
「いえ、なんでもないわ。大丈夫よ」
「左様でございますか。何かございましたらいつでも仰ってください」
「あ、そうだ。昨日奏輝が下がったあとなのだけれど、陛下が一人でいらっしゃったわ」
「まあ!」
侍女の声が嬉しそうに跳ね上がったのを聞いて蔡怜は笑って言った。
「それでね、弦陽様と明日お会いできるように取り計らって頂けることになったの。」
「…それはようございました。ところで陛下は何かご用がおありでいらしたのでしょうか」
「いえ、特に用はなかったみたいよ。顔を見に来ただけだと仰ってたし、弦陽様の話をしたらすぐに帰って行かれたわ。」
「え」
絶句した奏輝を見て蔡怜は小首を傾げた。
「どうしたの奏輝?」
「いえ、陛下は蔡怜様とゆっくり二人きりになりたかったのではないかと思いまして」
「二人きりだったけれど、話がすんだらすぐに出て行かれたのは陛下の方よ?」
蔡怜は話の行く末が見えず戸惑ったまま奏輝に答えた。
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