後宮にて、あなたを想う

じじ

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62 真夜中の密談

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蔡怜の話をひとしきり聞き終えた奏輝は、蔡怜に休むように伝えた。素直に頷き寝台に横になった蔡怜は数分の後に穏やかな寝息を立て始めた。それを確認して、奏輝はそっと部屋から出て行く。渡り廊下で満月に照らされた中庭をみながら呟く。

「蔡怜様はなぜあれほど頑ななのかしら」

頭も良く協調性もあり、身分が低い者に対しても誠実に対応する彼女は十分上に立つ人間としての資質を備えているように思われる。しかし彼女自身は自分に自信がなく、皇后に選ばれたのは、自分が皇帝にとって都合の良い存在だからだと信じている。

「陛下も大切に思われているようなのに、蔡怜様に何もおっしゃらないし…」

いつでも来てください、と言われた時の陛下の顔は見ものだった、と奏輝は思い出して思わず笑ってしまった。
柳栄を亡くして、続けて妃や子を失った皇帝の顔にはいつもどこか暗い影がおちていた。
桂騎や鮮岳とたわいの無い話しをしている時でさえ、どこか影が差していたのに、今日は本当に嬉しそうな少年のような笑顔で蔡怜の言葉に答えていたのだ。

「全くお二人とも他人のことは気を遣われるのにご自身のことは無頓着なんだから…」
「本当にそうね」

突然返ってきた返事にぎょっとして振り返ると黄貴妃が、悠然と立っていた。奏輝は慌てて頭をさげる。

「黄貴妃様、大変失礼致しました。夜更けでどなたもいらっしゃらないかと思いまして」
「気にしないで。私もなんだか寝付けなくてたまたま散歩していただけだから。」
「それは…お邪魔をしてしまい申し訳ございません。」
「ねえ、それより気になる内容が聞こえてきたのだけれど」

にこり、といたずらっぽい笑みを浮かべて黄貴妃は奏輝に尋ねた。

「陛下と皇后様はお互いを想いあっておられるのかしら」

問われた瞬間、奏輝は血の気が引いた。貴妃が蔡怜と仲良くしているとはいえ、自分の独り言は貴妃に聞かれて良い内容ではなかったと気がつく。

「黄貴妃様、私の不用意な言動でご気分を害されたのであれば謝罪いたします」

慌てて真摯に謝る奏輝を見て、黄貴妃は意外そうな顔をした。

「あら。そんなことを気にしていたの。大丈夫よ。」
「ですが」
「本当よ。それより、私がさっき聞いたことなのだけれど、あなたから見て、お二人は想いあっておられるように見えると言うことかしら」
「お二人から何かをお聞きした訳ではございません。ただ、皇后様のお側で仕えているうちに、そうなのではないかと思っただけなのです。ただ私がそう望んでいるから、そのように思うのかもしれません。」

言い訳のように最後の一言をつけた奏輝を見て、黄貴妃は朗らかに言った。

「侍女にそのように思われている蔡怜様は、本当に人徳がおありねぇ。ねえあなた、私と秘密の同盟を結ばない?」

今度はにやりと笑って黄貴妃は奏輝に話し始めた。





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