50 / 159
49 蔡怜からの招待
しおりを挟む
「なるほど。そこまで分かっていたわけか。いつ気づいたんだ。」
「申し上げましたとおり、お呼びがかかった時点で不思議に思いました。でも、鮮岳様だと確信したのは先ほどでございます。」
「先ほど?行きではなくてか?」
「行きの時点では確信がもてませんでした。でも行きと帰りで私の部屋から王宮の執務室までかかった時間があまりに違いました」
「なるほど」
「それで、行きは鮮岳様によって遠回りされていたと思いました。そして、わざわざ遠回りしたにも関わらず、鮮岳様はほとんど私と口を聞かずに歩かれました」
「ほう」
「歩いている最中は、無愛想な方なのかな、と思いましたが部屋に着き私がお礼を言うと微笑まれましたので…そしてこの行きと帰りにかかった時間の違いから、試されていたのだと確信したわけです」
「試した内容はなんだと思う?」
面白そうに聞いてきた皇帝を見て蔡怜は、苦笑いを浮かべながら答えた。
「私が鮮岳様に興味をもつかどうか、でしょうか」
「ああ、あいつは男だが美しいだろう」
あっさり認めた皇帝に、今度は蔡怜が尋ねた。
「ええ、私もそう思います。初めて見た時に優しげな美貌の方だと思いましたから。ですが、なぜ私はそれほど鮮岳様から信頼されなかったのでしょう。」
「それはあなたの責任ではない。あいつは誰にでもそうなのだ。それに一応言い訳させてもらうと、私も桂騎もあなたを試す必要がないとは言った。桂騎の件で信頼に足ることは充分分かっていたからな。しかしあいつは自分の目で見たものしか信じない。すまなかったな」
「ふふ、陛下は今日謝ってばかりでございますね。」
からかうような口調で言った蔡怜は、しかしすぐに言葉を紡いだ。
「ですが、もう一つお聞きしたいことがございます。私の興味本意なのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「ああ」
「鮮岳様は実際はどのような方なのでしょうか」
「なんだ、今ごろ興味が出てきたのか」
今度は皇帝がからかうように聞いてくる。それに対して蔡怜は穏やかな笑みを浮かべたまま答えた。
「男性として、という意味であればもちろん否でございます。ですが、立場という意味であれば、その通りです。」
「後宮に入ってあなたを迎えに行ったんだ。宦官だとは思わないのか」
わざとらしく呆れたように言う皇帝に、蔡怜は笑みを深めて言った。
「最初はもちろんそう思いました。ですが、今は違うと考えております。」
その言葉を聞いた皇帝の目に、面白がるような色が宿ったのを見て蔡怜は続けた。
「陛下と近しい間柄の方ではないでしょうか」
「申し上げましたとおり、お呼びがかかった時点で不思議に思いました。でも、鮮岳様だと確信したのは先ほどでございます。」
「先ほど?行きではなくてか?」
「行きの時点では確信がもてませんでした。でも行きと帰りで私の部屋から王宮の執務室までかかった時間があまりに違いました」
「なるほど」
「それで、行きは鮮岳様によって遠回りされていたと思いました。そして、わざわざ遠回りしたにも関わらず、鮮岳様はほとんど私と口を聞かずに歩かれました」
「ほう」
「歩いている最中は、無愛想な方なのかな、と思いましたが部屋に着き私がお礼を言うと微笑まれましたので…そしてこの行きと帰りにかかった時間の違いから、試されていたのだと確信したわけです」
「試した内容はなんだと思う?」
面白そうに聞いてきた皇帝を見て蔡怜は、苦笑いを浮かべながら答えた。
「私が鮮岳様に興味をもつかどうか、でしょうか」
「ああ、あいつは男だが美しいだろう」
あっさり認めた皇帝に、今度は蔡怜が尋ねた。
「ええ、私もそう思います。初めて見た時に優しげな美貌の方だと思いましたから。ですが、なぜ私はそれほど鮮岳様から信頼されなかったのでしょう。」
「それはあなたの責任ではない。あいつは誰にでもそうなのだ。それに一応言い訳させてもらうと、私も桂騎もあなたを試す必要がないとは言った。桂騎の件で信頼に足ることは充分分かっていたからな。しかしあいつは自分の目で見たものしか信じない。すまなかったな」
「ふふ、陛下は今日謝ってばかりでございますね。」
からかうような口調で言った蔡怜は、しかしすぐに言葉を紡いだ。
「ですが、もう一つお聞きしたいことがございます。私の興味本意なのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「ああ」
「鮮岳様は実際はどのような方なのでしょうか」
「なんだ、今ごろ興味が出てきたのか」
今度は皇帝がからかうように聞いてくる。それに対して蔡怜は穏やかな笑みを浮かべたまま答えた。
「男性として、という意味であればもちろん否でございます。ですが、立場という意味であれば、その通りです。」
「後宮に入ってあなたを迎えに行ったんだ。宦官だとは思わないのか」
わざとらしく呆れたように言う皇帝に、蔡怜は笑みを深めて言った。
「最初はもちろんそう思いました。ですが、今は違うと考えております。」
その言葉を聞いた皇帝の目に、面白がるような色が宿ったのを見て蔡怜は続けた。
「陛下と近しい間柄の方ではないでしょうか」
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
後宮の記録女官は真実を記す
悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】
中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。
「──嫌、でございます」
男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。
彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる