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43 蔡怜と弟殿下
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昼餉を終えてすぐに、陛下の使者が蔡怜のもとに訪れた。
「皇后陛下、本日王宮までの案内を務めさせて頂きます鮮岳と申します。」
「よろしくお願いします」
自己紹介を兼ねた簡単なやり取りをした後は無言のまま、王宮へと向かう。
どうやらこの鮮岳という宦官は柔らかな美貌に似つかわしくない寡黙な人物らしい、と当たりをつけた蔡怜は黙ってついていくことにした。
歩くこと三十分、やっと貴賓室に着いた蔡怜の息はあがっていた。
面会時に使用する部屋として指定されていた貴賓室は、皇帝の執務室の隣の部屋だ。
後宮の皇后の部屋と、皇帝の執務室の位置関係など考えたこともなかった蔡怜だが、意外な遠さに辟易とするとともに、頻繁に自分を訪う皇帝について、存外暇なのでは、という失礼な感想を抱くにいたった。
「皇后陛下、中で皇帝陛下及び陛下の弟君であらせられる桂騎殿下がお待ちでございます」
「案内、ありがとうございます」
先に待ってるのか、と思いながらほとんど条件反射のように鮮岳に礼を述べた蔡怜に対して、鮮岳はそれまでと異なり親しげな笑みを浮かべて頭を下げた。
「失礼いたします、皇后陛下がご入室なさいます」
「入れ」
鮮岳が声をかけると、中から皇帝の声が聞こえてきた。
「失礼いたします」
一声かけて、蔡怜が入ると皇帝と桂騎はわざわざ立ち上がって出迎えた。
「わざわざ呼びつけすまないな。こちらが、私の弟の桂騎だ」
「初めまして、というべきかな義姉上。先日は兄上の許嫁とも知らず無礼を働いて申し訳なかった。でも、おかげでたすかったよ。」
「こちらこそ、ご無礼をいたしました。陛下の弟君であらせられると承知しておりましたら、家人に送らせたのですが。入宮前の身であり、無用な噂が立つことを恐れ、礼を失してしまいました」
「いや。ああ、そうだ。君が紹介してくれた家には、君の幼馴染がいるみたいだね」
「はい。薬草の扱いにも長けておりますので、問題なかったかと」
「ああ。手厚く看護してくれた気持ちのいい青年だった。だが黒鈴に乗ってきた私を見て、もし王宮で君を見かけることがあったら、ぜひ伝えて欲しいことがある、と言われたのだ」
若干嫌な予感がした蔡怜は、背中に冷たい汗が流れるのを感じながらも、表面上は平然とした様子で聞いた。
「どのような内容でございましょう」
「お前は自分の身代わりに黒鈴を売ったのかよ!もし今度おんなじことやったら、黒鈴は俺が引き取る、そして二度とお前は乗せないから覚悟しとけ、だそうだ」
「…」
「兄上から伝えてもらってもよかったのだが、さすがにこの話を人伝に聞かすのはあなたに申し訳ない、と思ってな。呼びつけてすまない」
いや、兄のいる前で話したら一緒だろ!それなら、ほんの短い時間、二人にしてもらうとか、手紙でもよかったんじゃ…そして、向こうでその兄は込み上げる笑いを噛み殺すために必死でこぶしを口にあてているし…。
「彼とは兄妹のように遊んで育ちましたので。黒鈴も可愛がってくれていました。殿下に言伝を頼むような非礼についてはお詫びします」
「いやいや、もとを正せば私が落馬したのが理由だからね。ま、そういうことで私の用件は終わり。」
あっけらかんと言った桂騎の様子を見て、蔡怜は一気に疲れが押し寄せて来るのを感じた。
「皇后陛下、本日王宮までの案内を務めさせて頂きます鮮岳と申します。」
「よろしくお願いします」
自己紹介を兼ねた簡単なやり取りをした後は無言のまま、王宮へと向かう。
どうやらこの鮮岳という宦官は柔らかな美貌に似つかわしくない寡黙な人物らしい、と当たりをつけた蔡怜は黙ってついていくことにした。
歩くこと三十分、やっと貴賓室に着いた蔡怜の息はあがっていた。
面会時に使用する部屋として指定されていた貴賓室は、皇帝の執務室の隣の部屋だ。
後宮の皇后の部屋と、皇帝の執務室の位置関係など考えたこともなかった蔡怜だが、意外な遠さに辟易とするとともに、頻繁に自分を訪う皇帝について、存外暇なのでは、という失礼な感想を抱くにいたった。
「皇后陛下、中で皇帝陛下及び陛下の弟君であらせられる桂騎殿下がお待ちでございます」
「案内、ありがとうございます」
先に待ってるのか、と思いながらほとんど条件反射のように鮮岳に礼を述べた蔡怜に対して、鮮岳はそれまでと異なり親しげな笑みを浮かべて頭を下げた。
「失礼いたします、皇后陛下がご入室なさいます」
「入れ」
鮮岳が声をかけると、中から皇帝の声が聞こえてきた。
「失礼いたします」
一声かけて、蔡怜が入ると皇帝と桂騎はわざわざ立ち上がって出迎えた。
「わざわざ呼びつけすまないな。こちらが、私の弟の桂騎だ」
「初めまして、というべきかな義姉上。先日は兄上の許嫁とも知らず無礼を働いて申し訳なかった。でも、おかげでたすかったよ。」
「こちらこそ、ご無礼をいたしました。陛下の弟君であらせられると承知しておりましたら、家人に送らせたのですが。入宮前の身であり、無用な噂が立つことを恐れ、礼を失してしまいました」
「いや。ああ、そうだ。君が紹介してくれた家には、君の幼馴染がいるみたいだね」
「はい。薬草の扱いにも長けておりますので、問題なかったかと」
「ああ。手厚く看護してくれた気持ちのいい青年だった。だが黒鈴に乗ってきた私を見て、もし王宮で君を見かけることがあったら、ぜひ伝えて欲しいことがある、と言われたのだ」
若干嫌な予感がした蔡怜は、背中に冷たい汗が流れるのを感じながらも、表面上は平然とした様子で聞いた。
「どのような内容でございましょう」
「お前は自分の身代わりに黒鈴を売ったのかよ!もし今度おんなじことやったら、黒鈴は俺が引き取る、そして二度とお前は乗せないから覚悟しとけ、だそうだ」
「…」
「兄上から伝えてもらってもよかったのだが、さすがにこの話を人伝に聞かすのはあなたに申し訳ない、と思ってな。呼びつけてすまない」
いや、兄のいる前で話したら一緒だろ!それなら、ほんの短い時間、二人にしてもらうとか、手紙でもよかったんじゃ…そして、向こうでその兄は込み上げる笑いを噛み殺すために必死でこぶしを口にあてているし…。
「彼とは兄妹のように遊んで育ちましたので。黒鈴も可愛がってくれていました。殿下に言伝を頼むような非礼についてはお詫びします」
「いやいや、もとを正せば私が落馬したのが理由だからね。ま、そういうことで私の用件は終わり。」
あっけらかんと言った桂騎の様子を見て、蔡怜は一気に疲れが押し寄せて来るのを感じた。
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