後宮にて、あなたを想う

じじ

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19 侍医女官の話②

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「お腹の子に臍の緒が巻き付くことは決して珍しいことではございません。そのような状態であっても元気に生まれてくる赤子はたくさんおります。ただ一方で、それが原因で亡くなってしまう赤子がいることも事実でございます。皇帝陛下の御子方が皆同じ理由でお亡くなりになられましたのは、不幸な偶然としか申し上げようがございませんが…。」
そこで一旦州芳しゅうほうは言葉を切り蔡怜さいれいを見据えた。蔡怜は、柔らかな声音で続けるように伝えた。
「ええ、そうね。あなた達侍医女官も辛かったでしょうね。御子のお亡くなりを間近に見るのは…。では、前皇后様を含むお妃方はどうなのかしら。病死と聞いているのだけれど。」
「はい。そちらも公には病死とされていますが…皇后様は不思議に思われませんでしたか。ご出産は命懸けで行うものではございますが、三人も続いてお亡くなりなることは、後宮ほど整った環境が期待できない市井ですら、そうそう起きることではございません。」

そうだ。そこがずっと不思議だったのだ。お腹の中で赤子が死んでしまうことや、生まれてくる時に赤子が死んでしまうことは、悲しいことだが、ない話ではない。だが母親まで続け様に死ぬと言うのは…。
蔡怜は、核心に触れるべく話の続きを州芳に促した。

「そうね。私もそれは疑問だったわ。出産は女にとって危険が伴うものだけれど、出産直後にお亡くなりになる妃が三名、辛うじて一命を取り留めた方が一名。これでは、たとえ病死と公にされても、呪われているのではと言う声が上がっても仕方ないと思ってしまうわ。でも、あなたのその言い方だと、真実は違うのかしら。」

州芳は、当時を思い出すように悲しげに目を伏せた。それがまた一段と彼女の美しさを際立たせる。

「そうですね。陛下が我々に緘口令を敷いたのはまさに、お妃方のことがあったからなのです。」
「では、本当の理由は病死ではないと。」
「はい。前皇后様は、お生みになられた御子がすでにお亡くなりなっていると知るや、こちらがお止めする間もなく、お守りがわりに側に置かれておりましたかんざしで喉をお突きになられました。」

当時の様子を語り始めた州芳の頬を涙がつたう。

「本格的な陣痛が始まる一日ほど前から、それまで頻繁に感じておられた胎動を感じなくなったそうなのです。我々には直接仰いませんでしたが、陛下が訪れた際に皇后様が少し心配そうにお話しされたと、後に陛下から伺いました。もうすぐ生まれるのだろうと、楽観視してしまった、と。ただ私や、侍医がお聞きしたとしてもおそらく陛下と同じ判断をしたと思います。
ご出産が近づきますと、赤子の頭が下に降りてきて、胎動を感じにくくなることは、よくあることでございますので。
陛下のお母上も、陛下をお生みになる直前には、胎動が少なくなったことを、笑いながらよく陛下にお話されていました。
あなたは、お腹の中にいた時も、生まれてからもずっと暴れん坊ね、静かだったのは、生まれる直前だけよ、と。
それをお聞きになられていたので、陛下も特に問題ないと思われたようです。」
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